25・造船所
普通型コンバイン。
牛や馬に引かせるタイプは現在のようなこぎ胴があるわけではなく、ふるいのみしか備えていなかったそうだ。
つまり、これではイネの脱穀などおぼつかない。麦やソバ、大豆ならそれで可能なのだが。
このコンバインが使えるとしたら、三木丘陵から東の畑作地帯になる。
広さもあるから問題はないだろうが、さて、作るのが大変だ。
そして、製作途中でバインダーが作れそうな事に気が付いた。ただ、あのオタク趣味の塊としか思えない結束機構を再現するのはやりたくない。誰かオタクを見付けるしかない。
ただ、幸かな、人が押したり引いたりしたのでは倒伏株の引き起こし機構を組み込むと動かない。いや、動かせるだろうが、手刈りでも大差ない速度にしかならなそうだ。寄り道したが、ガソリンエンジンの完成を待たなければ完成しなさそうだ。
そうそう、石油発動機でも始動にガソリンを使う場合があるから内燃機関燃料となるようにオクタン価を向上させる添加物の開発も行われている。
簡単に出来ると初めは思っていたが、まず、燃料から開発しないと実用的なガソリンエンジンが作れないのには驚いた。
閑話休題
刈取り部はコーンヘッダーの様な取り込みリールや引き起こし機構を持たないタイプしか現状では作れない。
そして、刈り取った作物をふるいに運ぶ機構だが、よく考えると、イネの脱穀をしないのなら、ここで一次脱穀出来ないだろうか?
まあ、それも込みで作ってみた。
巨大な後輪は駆動も兼ねて、刈り高さを決めるための補助輪が前輪を兼ねる。
いくら麦やソバを作付けしても綾川流域の柔らかい田では前輪が埋まって使えないことが容易に想像できるシロモノになった。
なんとか大豆の収穫に間に合わせた試作コンバインはマトモに動くようになる頃には、周りの大豆畑は刈取りを終えて、我々を興味深そうに眺める人々しか居なくなっていた。来年春の麦刈りには、この人達を驚かせたいが、さて、どうなるやら。
冬が来た、コンバインの改良もひとまずおわり、かねてから依頼のあった造船所への訪問へと向かった。
幾度か訪ねて来ては砲の配置や砲塔構造の意見交換をした。JKがパンツァーフォーするアニメみたいに肩持ち式にしてみた。たしか、シュコダ38tがこの方式で操作性や命中精度が良いとかなんとか、ロリ会長さんが言ってたから、それを信じてみた。果たして海上で使えるのかな?
造船所に着くと、例の技術者さんに迎えられた。
最近はコンバインの改善作業が忙しくて、砲塔の海上試験の結果はまだ聞いていない。
「ようこそ、お越しくださりありがとうございます。御前の心配されていた海上での肩持ち射撃ですが、従来の砲座式よりも使いやすいです」
JKが戦車で戦うのはフィクションだけど、解説は実際の史実ってのは本当だったんだろう。なんだか、うれしい。
「それは良かったです」
造船所には既にほぼ完成した艦が艤装岸壁に横付けされていた。
最初に模型を見たときは帆船然としていたのだが、幾度か修正を加えて、何とか俺の分かる巡洋艦の姿に近い。
砲は5センチだから、砲塔しか目立っていないのはまるで巡視船といった感じ。
聞いてみると、マサに巡視船だった。
軍艦は未だに舷側砲だと言う。この世界ではこの船が初の砲塔式軍艦なんだとか。
そもそも、蒸気船を持てるような国が東か中しかなく、他は帆船なのだから、開発競争も起きにくい。
海には海賊船が徘徊することはあっても、他国海軍と対立する状況自体が考えられず、未だに戦列艦が主力で、戦列艦を蒸気船にしている段階だそうだ。
そんな中で、海賊対処の高速蒸気船計画が立ちあがり、俺の知識に期待していたらしい。
つまり、何を言ってもある程度評価される環境。
目の前にある船は全長80メートルあるそうだが、それって俺が見たことある巡視船と同じくらいだ。
艦首から少し後ろに人の背丈くらいの台座があり、その上に砲塔が載った姿は、軍艦よりも巡視船。少し間隔を空けて後方に艦橋がある。艦橋から櫓が数メートル立ちあがり、そこに監視所がある姿は、俺が知る戦艦がそうだったから、それが良いのではと提案したが、よく考えたら、それはアメリカ戦艦の艦橋の特徴であって、日本は違った。当然、巡視船や軽巡洋艦なんかの艦橋構造ではないが、今更勘違いとは言えない。
この監視塔が前マストを兼ね、その後ろには煙突が三本並ぶ。速そうに見えるが、長期哨戒や居住性を優先するから、18ノット程度の速力なんだそうだ。
この煙突の間に、左右に一門指向した大砲が置かれている。この、旧式な大砲が今の主力だそうだ。
そして、煙突の後ろにはマストがあり、その根元が前方と同じ様に砲座と砲塔がある。
主敵が海賊船だから、この程度で良いらしいが、なんか、軍艦を期待した俺には残念な結果だった。
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