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24・ 艦砲

 もう二年にわたって実験してきた脱穀機だが、そろそろ麦、大豆用を実用化しようと思う。

 基本、木製だから村の大工や職人が修理出来るだろう。唐箕は金属部品と図面を渡して個々に作ってもらっているが、既に個人のアレンジや地域性が現れているから面白い。


 まだまだ石油発動機が量産出来ないが、一つ思い付いた。

 気候が米に適していない地域が多く、麦や大豆、蕎麦などが主に作られているとなると、普通型コンバインが必要だと思う。

 普通型コンバインは詳しくないが、構造が難しい訳ではない。それに、初期のコンバインは牛馬やトラクターで引いていたそうだから、今から製作するのもアリだと思う。


 日本では、自脱式コンバインを開発、普及させたが、これは稲作中心だからだそうだ。

 稲穂というのは麦や大豆に比べて落実しにくい。普通型コンバインは茎も穂もこぎ胴に放り込むのだが、日本みたいに田畑が狭く小型の機械だと、脱穀効率がすこぶる悪いそうだ。そこで、茎を固定し穂だけをこぎ胴に掛けて脱穀する方式が開発、普及したらしい。実際、日本で販売されている普通型コンバインは、60馬力からしか稲刈りを奨励していない。それ以下の普通型コンバインは麦類や大豆、蕎麦用として使われているのが現状で、俺も大豆農家にあった一台しか実物は触った事がない。


 その為、少々心もとない知識で作ることになるが、なんとかなってほしいものだ。



 そんな事をしていたある日、工場を訪ねてきた見慣れない技術者が居た。


「御前、お久しぶりです」


 いや、俺、この人に会った覚えは・・・


 それが顔に出たのだろう。


「これは失礼しました。依然、艦艇資料を拝見した者です」


 そう自己紹介された。そう言えば、そんなこともあったな。


「それで、どの様なご用件ですか?」


 新たな艦艇資料なんてないしな。


「以前拝見した後装砲の実物を実用化し、資料を元に新型艦艇を設計しているのですが、一度、ご意見を頂こうかと」


 とは言われても、一般知識しか無いぞ?


「農業機械以外となると、あまり詳しくはないのですか」


「いえいえ、御前の一般知識が我々には先進的な知識や提案になります。先だっての石積堰堤の発想などもそうですよ」


 などと言われてしまう。本当に、一般知識しかないのだが・・・


 そう思いながら、彼に図面と模型を見せられた。

 なんだろう、あれだ。戦艦の始祖といわれるグロワールだっけ、あんな感じの船にしか見えないが、その甲板に爪楊枝が付いている。

 これに何を言えば良いんだ?さっぱり分からない。


「どうでしょう」


 いや、だから、どうと言われてもだ・・・


「なにか問題でもありましたか?」


 分からないので聞いてみた。


「はい、砲を中心線に配置したのは良いですが、これまで舷側砲しか知らなかったもので、果してこれで良いのかどうかをお伺いしたく」


 ごめん、さっぱり分からない。

 ただ、不意に思ったのは巡視船って意外と高い位置に設置していたなと。


「そうですね。大型砲ではないのでもっと高い位置に配置して射撃範囲を広く取っては如何ですか?」


 悪い、自信たっぷりに見えるだろうが知ったかだ。


「なるほど、このくらいの位置なら前後二門だけでもかなりの射界をえられますね」


 技術者さんが感心しているが、それ以上に俺が感心している。


「あ、しかも、これ、射程も伸びますね」


 マジで?装甲車装備の30ミリ砲は有効射程は2キロだが、巡視船の装備する同型砲が有効射程5キロに伸びているのは搭載する高さの違いなんやろか?一つ勉強になった。

 見る間に船体から一階層ぶん高い櫓が付けられて、爪楊枝がその上に乗る。


「ちなみに、敵の攻撃を考えて砲に盾を着けてはどうですか?」


 確か、巡視船の機関砲はカバー付きだったからな。


「そうですね。船腹の砲門ではないですから、防御も必要でした。いやぁ~、来て良かったです」


 俺、適当な話をしただけなのにな。


「今度、造船所にもお越しください」


 造船所か、それは行ってみたい。


「では、都合がつき次第、伺いましょう」


 技術者さんは喜びながら帰っていった。

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