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23・試行錯誤

 ピストンリングの破損。どの程度の強度がどの様な値で必要なのか。

 俺の持っていた設計図では解らなかった。この世界で蒸気シリンダーのデータや経験から作ったピストンリングでは必要な強度や耐久性は得られないらしい。

 そして、ピストンリングの試作が続けられることになり、ついでにエンジン自体も数を増やしていった。


 納得の行くピストンリングが出来るかと思ったら、問題があちこちに出てきた。

 ピストンリングの耐久試験をしていたら、ピストン自体が破損した。

 あるエンジンでは、バルブが破損した。

 あるエンジンでは、ガスケットが抜けた。

 プラグが溶けたエンジンもある。


 あまりにも多数の問題が出てきたので解決は一筋縄ではいかなかった。

 ピストン、バルブは強度や耐熱性の向上というピストンリングと同じ方向だから同時に進めることは出来た。

 ただ、問題が解決したと思ったら何故か次の問題が起こるいたちごっこが一年以上繰り返される事態になった。


 使う素材や工作方法が判っていた前世の町工場と、何もわからない今の研究所では、これほどまでに違うのかと思い知らされた。


 一年以上掛けて部品の耐久性を得ることは出来た。


「ようやく出来ましたね」


 一年以上の間、試行錯誤を繰り返して、ようやく俺の知る石油発動機が出来たのだと感慨に耽っていたが、まだ問題は潜んでいた。


 それは三日に及ぶ連続運転の時に判明した。


「シリンダー、ピストン、バルブが原因ではありません。バルブガイドやメタル軸受まで損傷が見られます。今回は・・・」


 試験報告をする技術者からは困惑の色が見える。

 石油発動機はラジエーターを使わない初歩的な水冷方式だから、沸騰して減り続ける水を適時補給しないといけない。

 もちろん、試験で水を切らしてオーバーヒートでは笑い話にもならないし、もちろん、そんなミスはしていない。

 軸受と呼べる部分の多くが同じ様に何らかの磨耗を受ける原因・・・


「ちなみに、潤滑油はどうでした?」


「潤滑油ですか?とくに問題はありません」



 これまで蒸気機関では考えられないピストンスピードを克服してきたが、俺自身は常識として気にしなかった部分、それがオイルだった。

 しかし、軸受が酷く傷を負ったり磨耗したりするのは潤滑不足と考えるのが普通だ。既に一年以上エンジンを試験して、クリアランスや偏圧による影響は取り除いてきた。

 各部品寸法からクリアランスを導きだし、締めつけも一定の方向性とトルクを徹底している。すべてが前世そのままとはいかなかったが、この分野は蒸気機関も同じなのでわりと早期に解決している。

 残された可能性が潤滑油の性能。


 俺の拙い知識で持って検査項目を作って試験してみると、やはり問題が出てきた。


「今の潤滑油では耐熱性が低くて簡単に油膜切れを起こしているようですね。一度の運転が長時間になる場合は勿論ですが、今の潤滑油では、一度目か二度目に一定の油温に達したり、混合気や排気ガスで酸化、希釈されると潤滑性能が一気に無くなり潤滑が保てなくなるようです。もっと耐熱性を上げる必要と酸化耐性も引き上げて、長期間使用に耐える性能が欲しいですね」


 潤滑油問題はすぐに要求を満たすのは難しい。これは普及に合わせて徐々に改善していき時間に解決してもらうしかない。

 こうして、石油発動機の目処が立つのに二年を要した。


 しかし、まだ普及させるには程遠い。

 最後の難関はメンテナンス性。蒸気機関ならば、毎運転前に専門の整備士が点検し、規定時間毎に各種補修も出来るのだが、石油発動機は専門の整備士や教育を受けた運転士が扱うわけではなく、最低限の始業手順が解る一般多数が扱う機械である。その様な耐久性やメンテナンス性がなければ普及させられない。

 一番の問題は電気系。ここの耐久性やメンテナンス性が今の障害となっている。


「プラグを整備書の様な構造にするにはもう少しお時間を」


 それが今の現状だった。



 そして、これまでは試作だったから問題にならなかった部分・・・



「現在動く20基をばらして、無作為に選んだ部品だけで組み上げることは出来ますか?」



「いえ・・・、無理です。設計図は同じなので本来、違わないはずですが、1基毎に加工して組み上げたものが大半です」



 なのである。一品物としては作れるが、現場で有り合わせで容易に修理とはいかない。少なくとも、公差内で用意した数種類のメタル軸受を使えばすべてのエンジンが加工無しで組上がる。そんな精度が必要になる。


「工作機械の開発が進行中ですので、もうしばらく」



 石油発動機の開発の合間に、唐箕は各地に普及が始り、脱穀機も導入段階にある。

 このままでは作業の人手が一部だけ不要になり、偏りが生じてしまう。ポンブや唐箕、脱穀の動力として、耕運機の実用化で耕作の省力化を図っていかないと、今度は開墾地や治水事業が人手不足何てことも・・・


 簡単に出来ると思って始めたら、色んなところに影響が及びそうだ・・・

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