21・ヘタレな二人の狂想曲
俺を警戒しながら豊音ちゃんが二人で食堂へむかう。無言である・・・
ひたすら無言である・・・
食事が終ると豊音ちゃんはそそくさと朝の祈りへと向かう。俺は女官長に呼び止められた。
「高鉢さま、お話がございます」
有無を言わさず豊音ちゃんの寝所へとむかう。
「高鉢さま、前例が無いわけではございません。この様な場合の対処法というものも伝わっております。ただ・・・」
少し逡巡したのち
「お分かりとは存じますが、婚儀の結いとは、日暮れまでの儀式ではなく、夜、巫女より名を聞き、契りを結ぶ事を指しております。幸いにも高鉢さまは『伝承の者』として巫女が名を伝えておいでですから構いませんが・・・」
女官長が俺を睨む。
俺は返す言葉もなく目をさ迷わせるしかなかった。
「以前、言われましたよね?『ごうほうろりは』と。巫女がそれなのでしょう?夜まではじかんがあります。巫女が帰り次第、昨日巫女にお渡しした本を高鉢さまもお読みになってください」
新手の監禁かよ!
それは言い過ぎか。だって豊音ちゃんも帰ってくるわけだし・・・
しばらくして豊音ちゃんが帰ってきた。そして入口で躊躇したが意を決してはいってくる。
「健太も知らぬのか、なら、わしの貰ろうたこれを読め!」
こちらを見ずに本を渡す。薄い本である。アッチのはなしではなくな。
「なんじゃこりゃ」
中身に驚愕である。何せ、俺用に書かれているとしか思えない。なんだよこのふたり〇っちは。
「そうじゃろ、わしもな、そう思うんじゃ、男女が裸でこんなことするのかとな。おかしいじゃろ」
豊音ちゃんがそう捲し立てる。たが、目が泳いでいる。きっと女官さんが何か言ったに違いない。
怖くて内容は聴けないが・・・
さて、何をどうすりゃいいの?豊音ちゃんがこんな状態だよ?これをどうにかしなきゃならんのか?押し倒すの?
イヤイヤイヤ・・・
他に思い付かないので薄い本を隅から隅まで読んで時間を潰すことにした。が、焦るばかりでどうにもならない。読み終わったらどうする?
「健太、そ、そんなに熱心に読むでない。それを読んだらわしに襲いかかりたくなるんじゃないか?」
豊音ちゃんがそう止めてくる。いや、そんな無防備以前の姿で寄って来る方が危ないよ?俺は女官長からヤれと言われてるんだよ?あれはお願いではなく、命令とか脅迫の類いだった。
「豊音はどうなんだ。読んでどう思った?」
って、俺は何を聞いてるんだろ・・・
豊音ちゃんが固まる。顔を背ける。
「きょ、興味はない。興味はないぞ。女官どもが煩いだけじゃ。ただ・・・」
顔を背けながら俺を睨んでくる。何、何なんだ?豊音ちゃんはそれ以上何も言わない。俺も何も言えない。
さあ困った、そうこうするうちに読み終わってしまった。どうしよう・・・
部屋には沈黙のみが流れる。手を伸ばせばそこに豊音ちゃんが居るのだが、どうしてよいか分からない。
「読み終わったのか?」
豊音ちゃんが恐る恐る聞いている。
「読み終わった・・・」
俺も恐る恐る答える。
・・・
「わしは・・・襲う価値も無いのか?」
睨みながらそう聞かれた。
「襲うって・・・」
どうして良いか分からない。内容、テクニックの話ではなく、俺が知りたい肝心の「雰囲気の作り方」は書かれていなかった。内容なんか、違うなりにでもエロ本や風俗でも応用できるだろ。俺が踏み込めないのは内容への不安ではないんだよ・・・
俺が腕を動かすと豊音ちゃんが体を強張らせるのが見えた。少し目を瞑っていたが、目を開けこちらを見る。
「健太、わしは・・・わしは女としての価値は無いのかの。だから誰も婿に来ようとせんのか。健太もそう思うのか?」
悲しそうにそう言った。
が、俺がひとつ動作をすれば体を強張らせる事を繰り返す。誘っている訳ではないらしい。だからどうしろと・・・
「失礼します」
女官長だ。俺たちを見て表情を固くする。
「昼か」
豊音ちゃんが救いを求めるように立ち上がろうとする。
「巫女。事が済んでいないご様子ですが?」
立ち上がるかけて止まり、「あぅ~」と可愛く呻く。そして女官長は俺を見る。
「高鉢さま、わかっておいでですね?」
そう追い討ちをかけてくる。
「では、私は失礼します」
女官長が扉を閉める・・・
どうしよう。いっそ、ラブコメの主人公みたいなことでもやるか?やっちゃうか?豊音ちゃんを見ると落胆している。
やってみようか?
俺は豊音ちゃんの肩を掴んでこちらを向かせる。当然のように強張っている。
「豊音、え~っと、その、俺ははじめて会ったときから可愛いと思ってたぞ?好みだしな。それに結構物識りで感心した」
豊音ちゃんはまだ強張ったままだが、拒まれてはいないらしい。
「それと、豊音は魅力的だと思う。それにさ、俺も風俗しか経験なくてさ、どうやって誘うのかわからん」
しまった。余計なカミングアウトしてしまった。それは今は必要なかったよな。何やってんだ俺!!
「健太は・・・健太はわしを認めてくれるのか?」
豊音ちゃんが恐る恐る顔をあげて俺を見る。何故かその顔を見たらホッとした。そしてラブコメの様にキスをした。
「初めては痛いらしいが、痛くするなよ。ちゃんと本にあったのだろ!」
必死な顔でそんなことをいわれた。あかん、二人してムード無さすぎるわ・・・
「失礼します」
さて、あれからどのくらいたったろう。女官長が部屋に入ってくる。いやさ、「現場」に顔色ひとつ変えないとか・・・
俺は豊音ちゃんと二人で真っ赤になって飛び起きた。
「御前、豊音さま、お召し物を」
素っ裸の俺たちを見てふわりと微笑みながらそういって来るが、俺には場違い感が半端なかった。俺と豊音は焦りながら着物を受けとる。
「お二人ともお風呂へ」
後から聞いたが、夕方まで引っ張ったのは俺がはじめてらしい。まあ、伝承の者は東とは価値観が違う。もしかしたら習慣も違う。そうした先入観のおかげであまり大きな話には為らなかった。




