20・もう先送りができない件
ダム開発は丸投げしてしまったので、石油発動機の完成までに耕運機の寸法を書き起こしておこうと思う。
「昨日から外で何をやっておるのじゃ?」
どうやら拝殿の窓から中庭が見えているようだ。
宮の建物は山腹にあり、居住区で隠すように奥に拝殿が設けられている。中庭に出られるのは宮の者だけなので、拝殿の窓は人の目線程度の位置にある。外からは殆ど伺えないが、中からは塀の外も見えるそうだ。
「あれはこれから作る機械の寸法をとってるんだ。うろ覚えだからそれっぽい形に木を組んで採寸してる」
「健太はすごいな」
「そんなことはないさ。実際に作るのは俺じゃない。俺はあくまで元の世界の知識を伝えてるだけだからな。これが自分で考えたものならすごいんだろうけどな」
俺は既に知っている知識を伝えてるだけ、自分で考えたものではないからな。こんなものが役に立つのは最初のうちだけ。どうせすぐに技術者や官吏に追い抜かれてしまう。その自覚だけはもっている。小説の主人公みたいなチートは無いからな。
「そう謙遜するものではないぞ。機械以外にもやってると聞いたぞ?」
何故か豊音ちゃんが得意気だ。
「あれだって元の世界で起きた問題なんかを参考にしてる。オリジナルとは言えないよ」
「おりじなる?、どちらにせよ何も考えずに出来ることではない。それに、健太の最大の仕事はわしに子を連れてくる事だしの」
?連れてくる?よくわからんが聞き流しておこう。
「そうだな、幸運を手にしてるんだからあまり多くは望まない方が良いな」
そういって豊音ちゃんの頭を撫でる。サラサラした髪を触るのは気持ちが良いね。俺、もしかして髪フェチだったのかな?
耕運機のサイズを思い出しながら廃材を使って3日ほどで何とか完成させた。ちょっと悩む部分はあるが、
これは実際に使える部品のサイズや強度次第なので、あくまで参考にと割り切ることにした。
日本とは少し違う梅雨がこの国にもある。ちょっと雨季に近いのかな。秋の麦撒きから刈取りくらいはあまり雨の降らない乾季と言えなくもない。小頭辺りだと日本の梅雨に近いらしく、屋島には梅雨や雨季はない。
さて、なぜいきなり気候の話をしているかって?
とうとう先送りができなくなったのさ。正式な結婚式が半月後と決まった。式はまるでイスラムみたいに男女別なんだそうな。これも、巫女が人目に触れてはいけないためだとか。
これまで何も言われず、何もすることがなかったのだが、いきなり儀式が毎日行われるようになる。
従来、巫女の婿取りは半月前から婿が宮へ入るためのお清めや娑婆落としという、それまでの友人知人との縁切りを行うんだとか。宮へは無闇に人を呼べないし、仕事以外で外へ出ることも出来なくなる。巫女が代替りするまでは巫女本人だけでなく、その夫にも大きな制約が科される。俺は伝承の者だから特別らしい。ただし、女禁は当然適用される。ま、関係無いけどね。
関係無いのだが、儀式は儀式なので俺は宮を出て義父の屋敷で一連のモノを行った。そして、新郎だけの不思議な結婚式が執り行われる。
少し違うが、神事みたいなもので、白い装束で行った。正直、義父の屋敷の祭壇で最初の祈りを行った事しか覚えていない。普段は飲酒しない俺が度数が高いお神酒を飲まされたんだ。勘弁してくれ・・・
夜には宮へ帰還していたはずだが記憶はない。気が付いたのは朝だった。
「!!☆#&*§」
豊音ちゃんが声にならない悲鳴を小声であげたことで起こされた。
「頭いたい・・・」
どうやら一緒に寝ていたらしい。
「おはよう」
豊音ちゃんに声をかける。様子がおかしい。顔が真っ赤だ。
「どうした?」
俺が触れようとすると逃げ出した。
「なんじゃあれは、わしは知らんぞ!なんじゃ!」
訳がわからない。
「どうした?ほんと」
困っている俺を睨む豊音ちゃん。
「健太も・・・あ、あんななのか、そうなのか?」
いや、何が何やらわからない・・・
どうすりゃいいの?
そうこうするうちに女官さんが扉を開ける。
「おはようございます。巫女、高鉢さま」
女官さんは普段通りに豊音ちゃんに近付く。
「そなた、昨日のあれは本当なのか?健太は何もせなんだぞ、それとも、今からか?」
それを聞いた女官さんが俺を振り向く。
「高鉢さま・・・」
もう、分かるよ。そういえばそうだった。頭が回りだした。
「酔っていて・・・」
女官さんは俺にわからない程度にため息をつき。いや、わかったよ。その間は他にないからさ。
「お酒に弱い方の場合、その様なことがあるとの事です。本日は朝の儀の後は夕の儀までお二人のご予定はございません」
それってさ、さっさとヤれよって事ですよね。
以前、女官長もなんか言ってた気がする・・・




