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17・石油発動機をつくろう

 麦刈りシーズンが終りを告げようとしている。そして、綾川沿いや土器川沿いは既に田植えを終えた地域もある。


 俺は土木技術者達とあちこちの川を見て回った。

 初代が整備した堤防群は各地で綻びを見せてはいるがまだ機能している。ただ、大きな設備はともかく、細々とした排水や灌漑取水設備は忘れ去られたものもある。

 東は海面上昇ではあまり混乱がなかったと云うが、政治的な混乱が小さかっただけで、地域で見たらやはり大きな傷痕がある。


 初代の頃はまだ青銅器から鉄器に移行していた時期にあたり、人口も大して多くはなかっただろう。そして、土器川や綾川の扇状地を一番に開拓したらしい。その技術がまだ生きていた頃、つまりは海面上昇前や初期に上流へ移動してきた人達が今ある堤防の改築や整備を担っていた。しかし、海面上昇が激しくなると一度に大量の人の流入で混乱や争いが起り、技術の継承があまり行われなくなった様だ。例えば都の辺りならば、そもそも平野は湿地であったためあまり開墾に適さず、混乱や争いは少なかった。都の東に目を向けると、低地は少なかったので海面上昇以降に開墾された土地が多く、必要な技術の違いも相まって技術の継承が途絶えていたりする。


 一度伝えられた技術であっても、継承されなければ途絶え、次のステップを踏めなくなる事が多いようだ。

 そもそも耕地の少なかった井関湖周辺の木綿栽培や内陸盆地を中心にした砂糖栽培が生き残る一方で、海に呑まれた稲作や灌漑、治水技術が廃れたのは対照的ではある。

 例えば、完全な中央集権ならばこうはなっていないだろう。しかし、東は中央の統治は緩い。これからはバランスを考えながら中央のやる仕事、地方の仕事と配分して、新な治水技術を身に付け発展させないといけない。俺は土木技術者達と現地を見ながら昔の技術と俺の知る技術の相違を確かめながら必要な対策を話し合った。


 随分彼らと現地を周り、対策を話し合ったりしていた。俺の知らないことも沢山あったが、技術者達もかなり勉強になったと喜んでくれたから成果はあったんだろう。と、その作業が一息ついたのを見計らってようやく内燃機関の基礎理論が出来たことが報告された。俺自身、土木は専門外で切りの良いところで丸投げ予定だったから助かった。先の話だが、建機開発で彼らを助けることを約束して押し付けてきた。


「まず、4サイクルと2サイクルについてですが・・・」


 ここからだった。更にキャブの説明なんかもした。新人研修押し付けられていて良かったとこの時はじめて思ったよ。

 基本的に座学でやる研修カリキュラムをそのままやった。5年も同じことやっとから概略覚えちゃってるよ。マジで。

 現物は無いのでまず、現物を一から作るための設計図の書き起こしから始める。

 さすがにこんな経験はない。半ば壊れた発動機や欠損がある発動機を買い取った場合には確かに同型発動機から型どりしたり、図面を引いたりは鉄工所や鋳物屋に教わりながら覚えた。


 今、そうして引いた全体図面が数種類、手元のSDガードに入っている。本来ならPCに繋いで印刷すればすぐなのだが、ここではスマホを見ながら手書きで図面を起こしていく。知識のある10人くらいでやっているので俺は単位の換算くらいしかやることはない。


「高鉢さま、こっちは何が入っているんでしょうか?」


 技術者の一人が休憩中に聞いてくる。手書きなので図面は一日では終らず、もう4日になる。細かなギアやスプリング等も書いていくから大変だ。


「それは趣味に関するデータだったと思いますので、使い道は無いですよ」

 

 技術者の持つSDカードは戦艦のデータが入っている。確か長門型と大和型のCGや細部イラストなんかだ。


「ちょっと見ても良いですか?」


「なんの参考にもなりませんが、どうぞ」


 中身はこの時代にはまだ早すぎるシロモノ。将来の軍艦の参考にはなるかもしれないけれど、実現するのって50年は先でしょ?


「こ、これは‼」


 技術者が何かに驚いている。


「それは将来の軍艦だと思って構いませんが、今は造れないと思いますよ?」


 残念ながらとそう説明するしかない。


「そうですか。ちなみに・・」


 概要を聞いて唖然としていた。まだ1000トンクラスの船がやっとなんだとか。この数年で3000トンクラスの船に関する技術がどうにか確立出来るだろうとのこと。まだまだ木造船に並ぶ程度の段階だそうだ。


「そんなに・・・、ただ、この砲については今から出来るかもしれないので明日、造兵官を連れてきても良いですか?」


 どうやらまだ先込めの大砲しかないらしい。そりゃ、後装式くらいなら作れても不思議はないし、生きているうちに戦艦見てみたい。大和は無理でも三笠クラスの戦艦が動く姿くらいは。


「良いですよ」


 俺は二つ返事で応じた。


 次の日は石油発動機の書き起こしが出来なかった。造兵官を交えての大砲や戦艦の話で日が暮れた。


「41センチや46センチ。一門で100トンとか想像すら出来ませんね。確かに、そこに至るには50年と言われても否定が出来ません」


 造兵官もそういって肩を落としていた。

 主な敵が海賊では戦艦なんか必要ない。どちらかと言うとボルトアクションライフルとか大砲でも小型砲に需要がありそうだ。事実、造兵官も5センチ程度の速射砲を造りたいとの事だった。


 そんなことで一日無駄にしたが、一週間でなんとか石油発動機の図面は出来た。実物の完成には2ヶ月はかかるとのことで、完成が待ち遠しい。

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