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16・脱穀機

 最近、ようやく簡単なモノが読めるようになった。とりあえず新聞なんかは無いのかと聞いてみると、それらしいものが届けられた。

 3ページしかないが、近隣の情報ならこれで十分だ。元の世界みたい政治や国際、スポーツなんかの欄はない。地域のニュースなら十分すぎる。そして、俺でも読める。どうやらもうすぐ麦刈りで、刈り子やごぎ子の募集があるらしい。


「この募集記事って、毎年あるのか?」


 教材レベルが下がったと不満顔の豊音ちゃんに聞いてみる。


「昔からじゃ。都の周りはどうしても人が街に出たがるからな。村の人手はいつもギリギリじゃ」


「そうなのか。で、これに応募するのはどんな人達なんだ?」


「大体がどこかの島から出てきて都でその日暮らしをしているような連中だな。特に塩飽の島々なんぞは石油のお陰で船のこぎ手や炭かきが溢れとる。そうした連中が仕事を求めて街に来るんじゃが、都とてそれなりに人は足りておる」


 なるほど、既に石炭から石油に燃料が移行していることで人余りが起きてるのか。これじゃ、このまま脱穀機を広めるなんて悲惨なことになりそうだな・・・


 人余りの状況について大臣府で尋ねた所、殆ど把握できていないそうだ。どうなるんだ?これ・・・

 平和に見える東にも随分と問題がありそうだな。麦刈りの少し前の御前会議の席で、俺は拙い知識の中から人余りの問題提起をした。


「そうは言っても、やる仕事がないのではどうしようもない」


 大体がそんな意見ばかりだ。そこで、災害などについて聞いてみると毎年台風や長雨による河川の氾濫があり、昔整備された堤防等は村や街の使役での補修程度の状態らしい。


「少なくとも権令の責任と予算で計画的な補修をやる必要があると思いますよ?その手助けを国が出来ればよりよいでしょう」


 上手くは説明できないが、まず、古来整備された堤防は綾川の様に役に立たないモノがある。堤防の外側に湿地が放置されているとか農業の邪魔でしかない。ちゃんと感慨や排水設備を再開発しないと生産性は上がらない。そして、そうした事業を作り出さないとこれから人余りが更に深刻になるだろう。


「もうすぐ麦刈りです。何故、私が危機感を抱いているか、みなさんも脱穀機の試験を視察されると実感していただけると思いますので、お越しください」


 百聞は一見にしかず、実際に見せた方が早い。試験当日に用意したのは脱穀機が2台、唐箕と千石通しが1台ずつ。


「さて、皆さん、お集まりありがとうございます」


 俺は事前に大量の麦束を用意してもらった。こぎ箸などでやれば一人ではどうしようもない量だ。脱穀機は2台、村人に2台の機械でやるから大量にと言ったらバカにしたような、呆れたような顔で麦束を用意してくれた。


「こんな量、どうするんです?この人数でどうにかできる量じゃないですよ?」


 脱穀、選別をやると言って麦を提供してもらった小作農数人を集めたらそういわれた。確かに、その認識は間違いじゃない。


「まあ、見ててください。唐箕の使い方は教えた通りですから、あとは風量のコツを掴んでください」


 そういって俺は脱穀機のペダルを踏んで回転させ始める。


「脱穀班の我々はこれをやります。見本を見せるので、この通りにやってください」


 そういって麦束をこぎ胴に乗せるとごぎ歯によって麦が勢いよく落ちていく。束を2、3度向きを変えてこぎ残しかかる無いか確認したら次の束にかかる。

 5束を終えて、班の二人を見ると呆気にとられていた。


「さあ、やり方はこの通りです。お二人もやってみてください」


 我に返った二人を促してやらせてみる。少し指摘してなれてくるとどんどんスピードが上がる。ある程度で一度手を休めて唐箕班に落ちた麦を渡す。

 それを二時間ほど続けただろうか、あれだけあった麦束は半分も残っていない。


 一度休憩をしながら機械の感想を聞き、改善点を探り出す。回転数、こぎ歯の太さと配置。再考の余地は大いにありそうだな。いっそ、下ごぎでクリンプ網を付けるのもありかとも思った。そうすれば下に受けを付けて集めることも容易だ。上こぎだとカバーにしたら大きくなりすぎる。


 全ての麦束を脱穀し終えるのに3時間少々。


「どうですか?」


 今日集まってもらった村人に聞いてみる。既に期待に笑顔を浮かべる人、何やら難しい顔の人もいる。


「これは凄いです。こんなに早く終わってしまうとは」


 そう無邪気に喜ぶ、しかし、一方では


「早い、それは確かだ。しかも、大した技術や経験が無くとも簡単にやってのける。こんなのが来たら俺達はともかく、女達の仕事はどうなる?いや、これなら女達に任せておけばよいのだから、俺達の仕事が無くなるのか?」


 鋭くそう指摘する者が居た。皆がハッと俺を見る。


「鋭いですね。今の機械でならばこれが限界ですが、私は更に進んだ機械を考えています。脱穀機と唐箕を一緒にした機械です。まだ10年以上先になるでしょうけど、刈り取りから今日の作業までを1台でこなすものすら作れます」


 村人皆がポカンとしている。先ほど指摘した一人だけは何やら考え


「すると、一人か二人居れば刈り取りから脱穀、選別まで僅か数時間で出来てしまうのか?」


「最終的には。ただ、その様な機械は高価ですから皆が買えるとは限りませんし、買うだけ無駄でしょう?庄屋が一人か二人を雇えば麦刈りは数日内に終わります」


 村人は何やら騒がしく話し合う。


「そうなると俺達の殆どは仕事が無くなるな」


 先ほどの人物は的確に核心を突いてくる。


「そうですね。そうなると、あなた方は他の職を探すか、ほら、あそこの林を切り開いて畑を広げ、拓いた畑を機械に頼れない野菜畑などとして仕事を作り出さないといけません」


 視察団を見ると皆一様に考え顔だった。


「皆さんも。こう言うことです。開墾や新規の職を探すには個人や村規模では負担が大きすぎます。もっと上が動かないと簡単に破綻しますよ」


 まだまだ途上国の段階だから個人や企業よりも自治体や国に出来ることがあるし、制度を作り替えていかなければ発展できない。


 基本は丸投げ予定だが、これから大変だろうな・・・

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