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10・たまには国際情勢も。ついでに缶詰作りを提案した

 のんびりしているようで実は忙しかったりする。今日は御前会議が行われるので都に来ている。


 はじめて来たときとは違って色々見回してみると、19世紀半ばという推測が間違いかも知れないと思うようになった。確かに、地球でならば、蒸気自動車なんかは19世紀半ばの筈で、それ以前となると蒸気機関車すら怪しくなるが、ここは異世界。俺の常識が通用しない。

 さて、今日の議題は西方情勢について。


 扇状地に栄えた文明が海面上昇で衰退し、その事で地球で言えば、ルネサンスに当たるような文化の新たな開花等は起きていない。統はプライドだけの国になっているし、基は北からの流民対処に労力を使い果たして内乱が続いており、戦国時代の様相。その間隙を突いて台頭しているのが海面上昇の影響を受けていない内陸遊牧民のウルム。唯一、混乱から早期に立ち直った中は、統の旧領だった東の扇状地跡の多島海や半島に勢力を伸ばしている。半島の対岸は屋島であり、半島の付け根から東はシペツという大河を境界としてニタイモシリという森の民が暮らす国である。

 今回、新たに入った情報では、ウルムが統だけでなく、どうやら中の支配地域にも勢力を伸ばしているらしいとの事だった。


 さて、そんな中で、海面上昇の影響が少なかった東は本土沿岸の多島海を中心に海運が発達し、中との交易を盛んに行っている。近年は蒸気船が出来たことで海運量も増え、屋島から中への鉄鉱石輸出も行われている。既に中と東では鋼鉄船の開発競争もあるらしく、現在は中に先を越されているらしい。


 しかし、技術的にはほぼ同等で、2年以内には中以上の船が建造可能になるらしい。

地球で鉄船が普及するのは19世紀後半。この世界の発展はどこか歪だ。


 海運大国による建造競争は2か国だけの話にとどまらず、大陸の西へとその交易ルートを拡大している。

こう書くと大航海時代の様に思うのだが、事はそう簡単ではない。


 まず、海面上昇が千年続いたことで各地の文明が衰退し、交易しようにも、その目的地は限られている。そして、中は背後に混乱を抱え、海外雄飛の余裕がなく、東は屋島開発に精一杯で西方に雄飛する原資や人手がない。

 

 その状況が幸いして、今のところ両国に決定的な対立は無いが、基沿岸や中が浮かぶ中海なかうみには海賊が多数出没し、女木にも影響があるので、その取り締まりが課題となっている。

 俺は外輪船を想像したが、既にスクリューがあるらしい。本当に分からない世界だ。


「さて、ニタイモシリからのシペとスサムの輸入の件だが、蒸気船を利用しても本土に大量輸送するのは難しい。何か案は無いだろうか?」


司会がその様な議案を出してきた。シペとは?スサムとは? 

 隣の義父に小声で聞いてみたら、シペとは赤身の魚で焼いても赤身という。それ、鮭のことか?スサムとは、旬には卵を抱いていて美味な小魚で酒に合うんだとか。ん~、なんだろう。シシャモ?


 スサムは乾物にすれば良いとの意見が出た。たしか、シシャモにも一夜干しとかあったような・・・

 スサムは小型魚なので方法は容易とのことで、ニタイモシリに加工工場を作ればという話になった。

 問題はシペだった。それなりの大型魚なので塩漬けなどの方法でしか流通させられないという。確かに鮭なら荒巻鮭とか塩っ気は強いよな。他には・・・


「あの~」


 皆がこちらを見る。


「缶詰はダメですか?」


 皆の反応がおかしい。「何だ、それ」状態だ。


「缶詰とは何だね?」


 司会からその様に質問が飛んできた。え?缶詰無いの?


「缶詰とは、鉄製の入れ物に食品を密封した保存食ですが、無いのですか?」


皆がざわついている。あれ?


「確かに、腐食しにくい鉄製の食器などは考案されているが、鉄製の容器に入れても日持ちはしないと思いますが?」


あ~、これは缶詰以前の問題で、乾物や発酵食品以外に保存食はまだ無いらしい。マヂか・・・


「腐食しにくい鉄があるのであれば、その容器に食品を密封して、121℃のの加圧蒸気で1時間程度加熱殺菌する事で、長いもので数年の保存が可能になります」


 俺は一応覚えていた知識を披露した。121℃という温度は俺が学生だった頃に散々使って、時には蒸かし芋まで作った、生物工学の授業で使った殺菌器具の指示温度だ。あの蒸かしサツマイモは焼き芋や普通の蒸かし芋と違ってトロッとした独特の食感だった。殺菌器具だから培地と食べ物一緒に入れても問題無かったのか、教諭も一緒に食ってたよな。甘くて旨かった。

閑話休題


「そんな方法があるのか。詳しく聞かせてほしい」


 農水産物を所管する省侯が身を乗り出してきた。とはいえ、詳しいことは俺も知らないので、水煮や油漬け、調理した汁物などが缶詰にできる筈だと伝えるくらいしかできなかった。

 後に、缶詰の試作の指導を頼まれたが、ハンダで蓋をしようとしたので止めた。カシメに変更出来るならして欲しいと頼んだら、かなり難航したが、俺はどちらが正解かは知らない。鉛中毒避けたかっただけなんだ。鉛中毒について説明したら環境問題の話にもなってしまったが、それはまた別のはなしだ。

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