1・俺氏墜ちる
ヤフーブログが12月に終了するそうなので、ヤフーブログに上げていた小説をこちらに移動しています。
「お先に失礼します」
1月のある日、俺は何時ものように仕事を終えて帰路についた。
今日は随分寒いな。まだ道が凍ってないことを祈ろう。そんなことを思いながら車を走らせる。
いつものなれた道だ、問題があるとすれば、俺の家は旧街道沿いに在ることだな。すまない、嘘ではないが、誇張した。由緒ある街道筋と言えばカッコ良いが、ザックリ言えば山の中の旧道だ。
俺が中学の頃に山裾から全長三キロのトンネルが掘られて20余年、旧道は拡幅されることなく1.5車線道のまま。
山道に入ってしばらくすると九十九折から山を回り込むカーブへと差し掛かる。ちょうどここから市街地の夜景が一望できるが、展望台なんか無い。俺には見慣れた景色だから気にもしなかったが
「ん?」
夜景とは別のキラメキが路面に見えた気がした。
「あ!」
遅かった。カーブの頂点が凍ってやがった。この冬はまだ雪が降らなかったからタイヤを履き替えていない。しかも、普段ならここは水が流れる筈がないんだが、役所の野郎が側溝掃除を怠ったせいかすぐ上の湧水が側溝から道に流れ出てやがったらしい。朝なら分かるが、まさか、こんな時間に凍るなんて想定外だ。
慣れた道だからそれなりに速度が出ていた。たかが1.5車線道。為す術なく崖から飛び立つ俺の車。
ありえねぇ。何でこんなときに限ってガードレールじゃなく管理歩道のフェンスに突っ込むかな・・・
夜景が一望できるってことは、視界を遮るよりも下にしか木が伸びていない。まあ、10メートルはある崖だ。死んだな・・・
俺は眼を閉じてハンドルに頭をつけた。35年の短い人生だったな。しかも、こんな死にかたかよ・・・
だが、いくら待っても衝撃が来ない。あれか、痛みも感じず幽体離脱みたいに意識だけ宙に浮いてんのかな?嫌だな、地縛霊として崖の上に浮いてるなんて・・・
どれくらい経っただろう。数時間?それとも数十秒でしかないのか。俺は意を決して眼を開いた。
「あれ?」
目の前は白かった。車のシートやハンドルの感覚はなく、体育座りみたいな格好をしているらしいとわかった。ゆっくり顔をあげる。
見えてきたのは見知らぬ部屋。
「!!!」
声にならなかった。首を回して見えたのは布団で目から下を隠してうずくまる人間。ここはこの人物の寝室らしい。
「いや、えっと・・・」
事情が分からないから何を言えば良いのか混乱してしまう。相手はじっとこちらを見ているだけで動こうとしない。
どうすらゃ良いんだ?ってか、何が起きた?
焦る俺はスマホを取り出す。119番?110番はされる方だから違うな。天気って117番だっけ177番だっけ?いやいや、今はそれどころじゃない。慌てる俺の目に「圏外」の文字が浮かぶ。
「?????」
俺が生きているならそれはない。いくら田舎だって言ってもこの数年前から電波は届くようになったはずだ。ちがう、ここ、何処?
俺は目の前にいる人物を見る。長い黒髪だとわかった。それ以上は何とも判断しょうがない。どうやら俺よりもスマホが気になるらしい。スマホを相手に近付けてみる。すると、手を伸ばして触ろうとした。
あ、布団が落ちた・・・
目から下が見えた。女の子だと判明。多分な。何だろう、着物っぼい薄着を着ている。なんだか時代劇に出てきそうな服装だな。俺はなぜか冷静にそんな観察と考察をしながら手を伸ばしている女の子を見ている。女の子の手がスマホに触れる。画面に触れ、壁紙が変更された。
「うわ」
女の子は驚いて手を引っ込めた。そして、俺を睨む。いや、何もしてないよ?
「そなた、何者だ」
随分今更な事を聞く娘だなぁ
「崖から落ちたと思ったらここに居たんだが、ここ、何処?」
すまない、質問に質問で返すしか今は思いつかないんだ。
「宮だが、そなた、どこから入ってきた?」
うん、一応、会話は成立している。してるよな??
「だから、入ってきた覚えはない。気がついたら居たんだ。君はずっとここに居たんだろ?」
う~ん、これは会話は成立しているで良いのか?
「確かに、急に現れたら様に見えたが、どんな術を使った?その光る手帳を使ったのか?」
おい、このお嬢さん今時スマートフォンを知らない?そもそも携帯電話とか電子辞書とかすら知らないのか?俺は彼女にスマホの画面を見せた。
「こいつは移動手段じゃないよ。さっき君が触れても何処へも行かなかったじゃないか」
不審そうな目で見られるが、もうどう説明すべきかわからん。ちょっと開き直った心境だ。女の子の寝室に忍び込んだ?だから何だ。好きでここにいる訳じゃない。事情を説明して欲しいのは俺だ。
しばしの沈黙・・・
沈黙を破ったのは女の子だった。
「そうだな、わしも見たが、忍び込んだ訳ではなく、現れたら時にはそこに座り込んでおったな」
わしって、鷲か?猛禽類の。それとも和紙?うん、逃避は止めよう。目の前の現実を受け入れよう。まず、目の前に居るのは中学生か高校生くらいの長い黒髪でけっこう可愛い女の子。美少女な、わし。すまない、やっぱり逃避しても良いかな?
「話は変わるが、今は何年だい?」
現代にわしっ娘が居るとは思いたくない。いや、スマホを知らないんだから絶対違う筈だ!
「2017年だが?」
うっそぉ~ん・・・
「ちなみに、平成何年?」
「へいせいとは何だ?」
???
奥さん、聞きました?平成何年か即答できないJKなら笑い話だけど、年号を知らないってないわよねぇ~
「マジで?」
可愛らしく首を傾げるJK(推定)
「まじで、とは?」
仕草は可愛らしいけど、精神的に辛い。何これ・・・
「確認だが、西暦2017年だよね?皇紀2017年じゃないよね?」
ついでに言えば、俺は西暦、平成、皇紀以外はよく知らん。イスラム暦とかあるらしいが、このJK(推定)がそんなモノを口にして居るとは思いたくない。
「せいれき?こうき?」
うん、可愛いのは認める。認定する。君は美少女だ。だからそろそろ精神攻撃は止めてください、お願いします。
「暦か、せいれきとかへいせいやこうきではないぞ、わしの祖先が神の御告げを受けてこの国を治めるようになった年からの数え年だ。しいて言えば、東暦かの」
得意気に無い胸を張るJC(変更)がそんなことを言うが、イミガワカラナイ。神武天皇からの数え年なら2600年を越えていた筈だ。このJC(認定)はいったい何を言ってる?
「すまない、確認なんだが、ここは日本だよな?」
アカン、JC(俺はロリコンではない)が首を傾げやがった・・・
「にほんとはどこにある国だ?我が国は『東』だ。大陸国より東にあるからそう名乗っておる」
俺、崖から落ちたと思ったらどこか別の世界に落っこちたらしい。まだ、確証はないがな。
この小説、「異世界行ったら遊び倒したい」の元ネタ設定なんです。
アレは開拓記で火薬が使えないことと、この小説がエタったので新たに作ったような話です。この小説は28話で1年以上停止した状態のモノですが、こちらに移動して保管しておきます。気が向いたら再開するかも?