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「えーと……どれにするかな」

 長い銀髪の少年、クロンはペタペタと紙の貼られた板を見ながら呻いた。

 クロンが見ている板はクエストボード。クエストと呼ばれる、条件をクリアすれば報酬を貰えるシステムが張り出されている板だ。

 GMが用意しているのか、自動更新されていく。

 クエストボードは町の行政を一括管理するギルドと呼ばれる場所に置いてあり、いつも人が多くいる。

 彼女もまた、その一人だろう。

「あなたたちは先にユニットハウスに戻ってくれる?」

「隊長、でも……」

「戻って」

 語気を強めた少女――クレナの指示に従って、数名の男たちが渋々ギルドから出て行った。

 状況から言って、クレナの属しているユニット、《テーブルナイツ》のメンバーだろう。

 クレナはしっかりとクエストボードを射抜くように見据えたまましばらく動かなかった。

 クロンは別に気配を消すわけでもなく、クレナの傍に寄った。

 彼女が見ていたクエストは《竜騎兵クリザリットナイトの討伐》だった。

 記憶の奥深くに呼び起される絶叫が聞こえてきたようで、クロンは目を逸らせた。

 それでも、体は勝手に前に出ていた。

「一緒にクエストしないか?」

 クレナはハッとしたように振り返った。

 そう、出会いもこんな形だった。


   †


転生初期・・・

「またデスゲームかよ!」

 全て阿鼻叫喚の中にかき消えたようだが、関係ない。

 神への要求はそんなに多くしていない。だが、切実にしたものであるデスゲームはこりごりという要求が綺麗に無視されていた。

 げんなりとしながら、クロンは慣れた手つきでステータスが書かれたウィンドウを展開する。

 さっきの時計が言っていた、ゲームを知る者ではないにせよ、ついこの間までデスゲームをしていた。お手の物だ。


――――――――――――――――――――――――

名前:クロン

職業:

ランク:SSS

レベル:1

HP:100

MP:100

筋力:100

敏捷:100

スキル《全職適正》《オートエイム》《オートガード》

――――――――――――――――――――――――


 クロンは目をごしごし擦った。何事かと。ゲーム世界で視覚異常が起きるとしたらバグだ。

 とうとうデスゲームな上にバグったかと目を疑った。

 ランクSSS――

 今までやったゲームでも見たことないハイエンドなランクだ。

 レベルⅠであることや初期ステータス、装備を着けていないことからスキルが優秀なのだろうが、よくわかっていない。

「GMの説明も適当だし。ええと、アイテムボックス……小さいな。お、ハンドガンと、鉄の剣か。初期装備ってやつだな。よしそれじゃあ、行くとしよう」

 ぐるっと視界を変えると、まだ慌ただしい町中が見える。恐らくまだ全員じゃない。

 どちらにせよ、ランクを見られれば全ておしまいだ。

「神様。さすがにもう、デスゲームのクリアなんてやらないぞ」

 町に背を向けて、クロンは取りあえず森の中に入っていった。町には巨大な壁があって、森の木々は壁より低かった。

 以前やっていたゲームでは、始まりの町付近では雑魚モンスターがスポーンする。

  幸いなことに、今回も変わらない。変わることと言えば実際に死ぬこと――

「ああ、それも変わらないか」

「ガルルルル――」

 狼型のモンスターが現れた。ステータス名ウルフス。レベルは2.

 アイテムポーチから装備欄にハンドガンをセット。スライド――よくガチャっと退く部分――が銀色。それ以外特徴はない。

 構えて……撃つ。

 ウルフスの顔面にヒット。ヘッドショット判定が下り、頭上に出るHPバー――体力――がごっそり減って赤色になった。残り少ない。

 落ち着いてもう一度引き金を引いた。弾が放たれ、無論ヒット。

 ウルフスが光の粒子となって消え、同時にウィンドウが開かれる。

 レベルアップの情報と、今回のドロップアイテムだ。アイテムポーチが小さいため、適当に捨てておく。

 ハンドガンをポーチにしまわない場合、どうやら別装備でホルスターが必要らしい。

「うん。動けるし、銃も使える。弾がかなり当たりやすいのはスキルのせいか。まあ良い、何とか生きていけるようだな、異世界。でも……デスゲームはやらないぞ」

 空を見上げた。前もそうだった。いきなりデスゲームが始まって、最初は何が何だか分からないままだった。

 だが今は、もう一度やり直しているようなものだ。

「死線を潜り抜けるなら一度死線に潜る必要がある。簡単に言うと、絶対倒せる雑魚を倒しまくって着実にレベルを上げるってこと」

 それもできないで、町の中に引っ込めば死ぬだけだ。

「ふむ。敏捷と筋力のどちらかにポイントを振り当てる、か。この職業ってのを決めたらそれぞれ割り当てられ、か」

 ようはゲームだ。ただ、死ねば死ぬゲーム。これからこの世界でのルールが徐々に解明されていくだろう。

「レベル5まで上げて町に帰るか。日も暮れるし」

 手で傘をして空を見上げた。何とも皮肉に、たそがれ時だった。

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