勝つために彼女は彼を倒すのだ
ライムとクロンの付き合いは長い。ライムはあまり認めたくないようだが、それ以上に長い存在がいる。
それでも、【四竜の塔】第一層をクリアした時、クロンの隣にいたのは自分だと、ライムは自負していた。
絆は少なからずあると。
ところが、ちょっと――2日――会わない間に舐められたものだ。
ハンドガン二個持ち。格好つけているとしか思えないライム。しかし、この時ライムは怒りのあまり熟考を諦めていた。
クロンがハンドガン二丁で本当に勝てると思っている。その公算があると言う可能性を。
「ったく、あんた最近、たるんでんじゃない?」
剣の先を後ろに向けると、剣が赤く染まった。ソードダンス発動。
《ライズラッシュ》
縮地でクロンの傍まで一気に接近。
着くと同時に横から一気に振り抜く。
「つう――強い強い」
敏捷値が比較的低く、攻撃を優先したライムは攻撃を喰らいながらも叩くスタイルだ。
そんなライムでも、ソードダンスは発動後自動遂行するため、ある程度カバーできる。筋肉バカを筋肉バカにしないのが剣の売りだ。
だが、あろうことかクロンは筋力馬鹿な一撃を二丁拳銃で防いだ。
ダメージは通らず、ハンドガンの破壊値も超えていない。
「どんな武器の鍛え方してんのよ!」
「君と同じだろ」
一度防がれただけでソードダンスは止まらない。特定の方法もしくは、攻撃コンボをすべて終わらせるまで止まらない。
防がれたところで、ライムは次の行動に出た。斬り上げ――
「ライズラッシュの軌道は分かってる。二刀流でもない限り、オートガードと俺の直感で完璧に避けられる」
「また、あの女の話か!」
袈裟懸け。くるっと反転して今一度斬る。全て防がれた上に、銃口二つがライムに向いた。
ソードダンス発動後のディレイで動きが止まる。
その間を狙った完璧な攻撃。十数発の弾丸を体に食らった。
(さすがに戦い方を分かってる。一層以外【四竜の塔】もダンジョンも表立って攻略してないってのに)
ライムは苦笑した。どうせ、見えないところで攻撃しているのだろう。
「しゃらくさい!」
突きを放つ。が、これも肘のアーマーで受けられ、完全に威力が殺された。
まるで神に愛されているようなスキル。《オートガード》
見えている攻撃や意識外の攻撃を自動的に防ぐ。そして――
「大ぶりのように見えて、的確だよな」
クロンは弾いた大剣の側面を足がかりに宙で回り、ライムの背後に銃弾をぶつける。
(装備は回数値が一番低い場所にあんな体勢で――)
訳の分からない体勢で当ててくる人間は確かにいる。
だがそれは、銃士トップクラスの攻略プレイヤーならの話だ。
ライムの知る限り、クロンは剣士だ。あんな芸当が出来るのは《オートエイム》のお陰か。
「だけどねぇ!」
ライムは大剣を地面に突き刺し、それを足がかりに跳躍。
クロンの肩を掴んだ。この世界で男女による力の差は現実のそれと関係ない。
筋力値が高ければ攻撃力が高く、また、押し切れる。
「つ――」
「地面に落ちろ!」
一緒に地面に落下。土煙が上がり、地面にめり込む。
ライムはすぐに長剣を装備し、クロンの首に突き刺すために振り下ろす。
完全に突き刺さるはずだった一撃はしかし、クロンの素手で防がれた。
掴んだところでダメージは通るが、防がれる意味が分からない。
「……なんで、私はあんたに勝てないの?」
ライムの顔が歪んだ。せめて、泣き顔は見せまいと、ライムは馬乗りの状態から顔を背けた。
初めて出会ったとき、ライムは無力だった。それなりに強くなっていた自覚があった。
だが、【四竜の塔】攻略時に自覚した。
所詮自分では、誰かを助けることなんてできないのだと。
「あんたはあの時全員を救った。私は、何も出来なかった……なのにあんたはずっと裏で動いて、貰うべき称賛を貰わないまま……」
クロンに背を向け、ライムは肩を振るわせた。
「あんたを倒して私はずっと弱い自分を倒したかった。まだ、ダメだって言うの? 27層をクリアしても、まだ!」
「ライムは強いよ、充分。君の強さは俺が良く知ってる」
クロンはライムの肩をそっと抱いた……瞬間、アラームが鳴った。
「あ、デュエル終了の合図……って、俺の負けかよ」
「あんたの体力の方が低いからね。ふふ……じゃあ、約束通りの物を貰いましょうか」
「え!? うっわ、ずる!」
「なによ。勝負は勝負でしょ。男に二言はないのよね」
「いやいや……ったく、わかったよ。大事に使えよ」
「わーい。ありがと」
破顔一笑。綺麗な顔立ちが子供っぽく笑みをこぼす様子は何とも言い難い。
釈然としない様子のクロンもやがては折れ、苦笑の混じりに肩をすくめた。
「君には敵わないな」
「言ったでしょ。私はあんたより強いのよ」
今度は綺麗な笑顔を浮かべるライムに、クロンはアイテムポーチから青い宝石が埋め込まれた金の腕輪を取り出した。
これこそ、ソードダンスや魔法使用で消費するMPを自動回復する装備
「【輪廻の腕輪】」