流麗な水を思わせる髪を持つ彼女の肌は褐色で
「たまには暇をするのも悪くない。用も済んだし」
町からかなり離れた森の中で、クロンは愛用のバレットを磨いていた。銃身に陽光が跳ね、キラキラと光っていた。
クロンは攻略組でもなければ生産系の職業で生計を立てているわけでもない。
だが、外へ出れば減ったHPやMPを回復するアイテム。その他バフ――能力値増加――アイテムも必要だ。
それだけで金、エルが必要だ。
モンスターを狩ってドロップアイテムを売ったり、採取物を売ったり。そんなその日暮らしがクロンの主な収入源だ。
「ったく、あんた、こんなところで何やってるわけ?」
声の方に目をやると、青色の短めに整えられた髪。褐色の肌。
サイドのおさげが長くのばされ、ピンでとめているおしゃれな美少女。力強い宝石のような双眸がクロンを見据えていた。
しっかりとした緑色の鎧を装備した彼女の名はライム。他に突起する点があるとすれば、髪と同じ水色の猫耳が頭から生えている。
クロンとは因縁と言うか、腐れ縁浅からぬ中だ。
「ライム。おはよう。また高額モンスターハントか?」
その日暮らしの中でも、とりわけ高額なアイテムをドロップするモンスターを専門に狩るプレイヤーが存在する。ライムもその一人だ。
攻略組と言うよりは、自由に暮らす旅人や冒険者。この世界がゲームならば最も楽しんでいる人間と言える。
ゲームならば。
「ええ。そしたらあんたがいたから声をかけてあげたの。感謝しなさい」
「ああ、うん。ありがと」
「で、あんたは何やってんの?」
「クレナが欲しい素材があるって言ってたから探してるとこだよ」
不意に、ライムの表情に陰りが見えた。いつも表情がどこか怖いが、今は殺気だっている。
「へえ。こんな場所まで女の尻追ってたわけだ」
「言い方悪いな。この間酒場でちょっとな。借りがあるんだ」
結果はどうあれ、クレナがクロンのことを庇って正体を明かさずに置いてくれたことは間違いない。
結果的に美少女という形でアーサーに記憶されることになったとしてもである。
「なに、あの女の胸でも触ったの?」
「違うわ! そんな恐れ多いことするかよ。逆に、なんでライムはこんなとこにいるんだ? 新しいクエストか何かか?」
「クエストなんて最近やってないわよ。あんたと同じ野良狩り」
「え、じゃあほんと何でここにいんだよ」
「いや、その……あんたに……ああもう! ここで会ったのも何かの縁よ。私と勝負しなさい」
「え、いや、なんでだよ。嫌だよ」
「るさいわね。ああそうだ。あんたこの前、MP自動回復のアイテム手に入れたって言ってたじゃない。私が勝ったらあれちょうだい」
「なんでだよ。あれって20万エルするんだぞ」
大体ゴブリン一匹狩って数エル。正直な話、金額としては高額だ。
いわれのない勝負を吹っ掛けられた上にレアドロップアイテムを渡せとは高慢が過ぎる。
「あんたがどれだけ強くなったか見てあげるってのよ。あの27層のボス戦であんたの姿を見たって情報もあるんだけど」
「どこでそれを……分かったよ。俺がかったらどうしてくれるんだ?」
「何でもしてあげるわよ」
「ったく。デュエルモードで良いな」
この世界ではHPがゼロになった瞬間死ぬ。そのため、デュエルモードを選択すると例えHPがゼロ判定になってもレッドゾーンで止まり、試合が終わる。
モンスターエンカウント時や、互いがデュエルモード選択を承認していない場合は発動しない。完全にお遊びや訓練用のモードだ。
「俺は、グロック二丁で良い」
「私はこれでいく」
ホルスターから拳銃を取り出したクロン。
アイテムポーチから、自身の体程もある大剣を取り出したライム。
大剣そのものは剣士装備だ。だが、相当筋力値が高い必要がある。灰銀色の刀身に青色の宝玉が着いたような禍々しいもの。
「新しい大剣か。ノイラドラゴンの素材を使ってるな」
「そうよ。この攻撃力は病みつきになる。あんたと戦うのは久しぶりね。ステータスを見せてあげるわよ」
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名前:ライム
職業:テイマー【A】
ランク:S
レベル:50
HP:2300
MP:2800
筋力:6300
敏捷:1500
スキル《モンスターバインド》《超装甲》《絶命奮起》
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テイマーという職業は剣系武具の職業適性値がAだ。
職業適性にのAがまだいいにせよ、ランクが付かない物は持ったところで意味がない。ランクがついても低い物は、例えばソードダンスが使えない。ハンデが多すぎる。
「あえて装備ランクSじゃない剣で来るのか」
「ダブルハンドガンのあんたより舐めたことはしてないわ。どういうつもりよ」
ライムの顔に怒りが刻み込まれた。
銃と剣では交戦距離があまりに違う。普通に考えて銃の方が有利だ。
しかし、剣にはソードダンスがあり、銃にはない。そう考えればどちらが有利だろうか。
その上、ハンドガンだけで戦うというクロンがどれ程不利か。
「まあ、やってみようじゃないか」
そう言ってクロンは笑い、グロックにナイフを取り付けた。