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そして世界はリセットされる

 クラッススの屋敷。彼がいつも偉そうに座っていた執務机に、見知らぬ顔があった。

 銀髪。瞳の中に星の光彩を持ったクロンと同じくらいの少年が本を読んでいた。

 銀色の羽織にはブルーのラインが。白いスラックスに革の靴。おおよそ、本当に、誰一人として見たことがない。

「ああそうだね、僕を君たちはこの姿で見ていない。言ってしまえば僕のこの姿も仮の姿だ。

 神に与えられた。本当の姿は、ここでは大きすぎる」

 誰もが頭の中で思い浮かべた単語を、この後少年は誰もが口にする前に言ってのける。

「ああそうだ。僕がゲームマスターだ。クラッスス、君の権限は剥奪した。

 全て元通りだ。君たちはこれまで通り、四竜の塔を攻略してくれ。じゃあ――」

「ちょっと待て! お前を殺して私は――」

「復讐か? ああそうか。忘れていたよ」

 GMはどこからともなく短剣を出すと、自分の首に突き刺した。

 エフェクトが飛び散るが、頭上にはいつまでたってもHPバーが表示されない。

「私はこの世界の攻撃では死なない設定だ。君の復讐も、無意味だよ。

 なにせ、私は神じゃない。神は私の上にいる」

「馬鹿な……なんで私たちを……!」

「説明してモチベーションになるかどうかは疑問だが、良いだろう。

 この世界は神が作り出した仮想空間だ。この世界を作った理由は、君たちが親しみやすいと思ったからだ。

 結果的に分かりにくいゲームに参加したせいで戸惑ったろうが、それはそれで計画の内だ」

「神様っていうのは、ろくな計画をしないな。父さんも俺も、なんであんたらに付き合わされている」

 ゼスの問いに、GMは本を閉じて長いまつ毛の瞳をそっと閉じた。

「そうだね……次世代の神たちはまだ若い。これは神々のゲームなんだ。

 君たちの誰が勝つか、神々はテーブルの上で賭けている。このゲームで君たちを殺すのは誰か。このゲームのルールにあくまでも、誠実かつ忠実に従って決める」

「ちょっと待って……それって、私たちにクリアすることは出来ないってこと?」

 GMは首を傾げ、クレナの瞳を真っすぐとらえた。

「そうじゃない。勝てば帰還はおろか、神の力を使っていかなる願いも叶えよう。

 ただ神たちも自分たちが作り出した仕掛け。モンスターで君たちを翻弄するだろう。

 クリアは出来る。いかに神であろうとこの世界での不正は私が許さない」

「そうか。なあ、ひとつ聞いていいか? デスゲームは嫌だって言ったが?」

「ああ。君はデスゲームサバイバー……違ったな。まあ良い。

 君が私の領域に来た時、運命だと感じた。世界を円滑に進めるためのシステム、君たちがセカンダーと言う存在は私の想いを遥かに超えて孤立化した。

 そこで君が役に立つはずでもあった。君にはほとんど死なない状況を提供する代わりにもっと世界に触れてほしかったが……一度体験している人間は人を信じないらしい」

「当然だ。俺のスローライフを返せ」

「そうしよう。湖の近くにコテージを用意した。好きに暮らすと良い。

 クラッスス、君も、元通り金持ちとして暮らせばいい。ゼス、アルファ、君たちも。

 クレナも、アーサーと共に攻略に精を出し、ナギハも大いにこの世界を探ると良い。

 全て、元通りだ」

 最早、誰も喋らない。

「おい、ここまできておいて、もう無理だろう。元通りだと思っているのか」

 クロンは諭すように言った。すると、GMもまた、諭すような視線を見せた。

「終わるも何もない。君たちはやすべき世界を生きればいい。ああそれとも……認めるかい? 終わりを。ならば修正将。ただ僕は、時計の針を進めるだけだ」

 GMは懐中時計を取り出した。丁度、最初に姿を見せた時のように。

「神も僕もゲームと言うものが良く分からない。そこで決めたんだ。この世界が終わる度にこの世界のプレイヤーを強化しようと。

 そして次から来るプレイヤーのレベル上限を上げようと。

 今回で50回目の世界だ。今まで誰もクリアできず、浄化のプロセスが進められてきた。

 何度もやる内にいつか勝てる。そう、タイムリミットまでは進める算段だ」

「タイムリミットだと?」

「ああそうだ。勝つまでやるわけでもなければ勝たせないつもりもない。

やれやれ、世界が荒れてしまったか。やり直さないのなら良い。何度も言うが、どちらでも構わない」

「ふざけるなよ、君のせいで、俺たちは生きるか死ぬかなんだよ。勝手に連れてきておいて――」

「その通り。僕は君たちと話し合いをする選択肢を取らない用意もあった。真実を伝えているだけ感謝してほしい。

 ああ、まずい。神はこの件に関してお怒りだ。では始めよう。終わりを」

 尋常ではない振動が、屋敷を……いいや、町を襲った。

 災害獣の揺れではない、それはライムが命懸けで食い止めた。

 しかし……。

 既にGMの姿は見えず、クロンは放たれたように屋敷の外へ出た。

 空を見上げると……漆黒に染まった巨人が、腰から生えた翼を何度か翻させて飛んでいた。

 しかも……大勢。

「なんだこいつら……」

「破滅さ。神のコンソールに触れた時、私はアレを見た。名前は地獄の王サタン。システム管理者が持ち込んだものだ」

 クラッススがスーツのボタンを留め直した。

「クロン君……」

 クレナが不安げな顔でクロンの手を握った。クロンもそれを握り返した。

 サタンは次々紫色の巨大な火球を町に打ち込んだ。終わりにしては、あまりに粗末だ。

 これで終わるというのなら、クロンはなんで自分がここに来たのか分からなかった。

 この世界に生まれ直した意味が。またデスゲームで死ぬ意味が、理解できなかった。

「……ふざけるな。ゲームマスター! 俺たちの負けだ。負けで良い。この世界をリセットするならそうしろ。

 だが、必ず俺は、お前の仕掛けたこのデスゲームをクリアする。今度こそ、絶対に!」


 カチリ――


 物も、空気も、音も、全てが、止まった。

 制止した町。静止した破壊者。何もかもが止まった空間で、それだけが動いていた。

「よく言ってくれた。では、始めよう。51回目の世界。君が次の世界をクリアできることを祈るよ」

 GMが懐中時計を片手で持った。

時計が光り輝き、鳴るはずのない低い音が鳴り始めた。

 ゴーン

 ゴーン――

 ゴーン――

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