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圧倒的力

 ガキャン――

 キン――

 剣戟の音が響き渡った。

 ゼスとクロンは互いに一歩も譲らない戦い……いいや、違う。

 ゼスの特殊スキルや戦い方を、クロンは全職適正と言う圧倒的手数で優に凌駕していた。

 明らかに劣勢のゼスの背後に守られるクラッススは、忌々し気にクロンを睨んでいる。

「諦めろゼス! 君に俺は倒せない」

「父さんの邪魔を諦めたら、そうしよう」

 ふたりは一度力を溜めて、両足で地面を蹴った。

 空中で剣戟が紡がれた。滞空時間が長く、剣どうしは複雑に絡み合った。

 しかし、そこで倒されるようなクロンではない。

 ゼスの剣を捌き、床に叩きつけると同時に腹を蹴って後ろにやった。

 残念ながら、デスゲームでクロンが生きてきた数年間を、ゼスはこの1年以上で超えることが出来なかった。

 机の傍で呻くゼスの横を、クラッススが抜けた。

「もう止めろ。クロン、君に何の権利がある。私の、邪魔を、する権利が!」

「知ったことか。俺があんたを止めるのは、友達を守りたいからだ。俺の友達は今、必死で、災害獣と戦っている」

「クラッススさん。もう止めて下さい。こんなことして何になるんですか。あなたも、ゼス君も追い込むだけです」

 クレナの説得に、クラッススは反吐が出る、と言ったような顔でスーツのボタンを外した。

「妻も、息子も、いない。そんな世界に戻るなら、私はこの世界で神に復讐する!

 知っているか、この世界はシステムで、それも雑なシステムで作り上げられている!

 神がそうするのなら、私はこの世界を壊す! どうする?」

「なんでそんなことがわかる?」

「クラッススが見つけたのはこの世界のプログラムに介入する力だ」

 アーサーがおもむろにクラッススに攻撃を当てるが……クラッススは素手で剣を受け止めた。

 ダメージは入っていない。

 この事実にクロンとクレナは驚愕の表情を浮かべる。ゼスでさえ。

「システム権限をもらった。故にだね、アーサー!」

 ナイフを取り出したクラッススの攻撃をしかし、アーサーは物理的でない速度で受け切った。

「私も君が分からない! 曲がりなりにもシステム権限を得ている私の技を何故受け切れるかが。君は何者だ。

 ああもう良い、たくさんだ。この世界の崩壊は既に、私が、始めた。

 どうだって良いし、クロン君。君に私は倒せない」

 システム権限なんて言葉をこの世界で聞く羽目になるとは思わなかった。

 だが、クラッススが手に入れたのはこの世界で神になる方法だ。

 神を殺すために神になる。どこまで憎悪に支配されればそうなるのか分からない。

「王よ……あなたは息子であるゼス様も、私も、殺すつもりだったのですか」

 音も無く表れたのは、ボロボロのアルファだ。この様子だと、オメガは倒したらしい。

 もしかしたら殺したのかもしれない。世界は確かに、人の住む場所としては壊れているようだ。

「神が死ねば、こんなところに連れてこられた君たちが少しは浮かばれるだろう。分かってくれ、青臭いヒューマニズムは、止めるんだ。

 大局的に見ればこれが正しい。私も、君たちも、ゲームの駒じゃない」

「じゃあ……じゃあ、《テーブルナイツ》のみんなや、私の大事な友達はどうなん!」

 振り向くと、息も絶え絶えのナギハがいた。目を真っ赤に腫らし、涙でいっぱいの。

 ここに来たということは、災害獣は終わったようだ。クラッススの目論見が一つ消えた。

「ナギハ……なにがあった」

「死んだ……死んだんよ。ライムちゃんが、災害獣を倒して、死んだんよ!」

「え……」

「馬鹿な! 見たのか、ライムが……彼女が死んだ姿を!」

「飲み込まれた。災害獣の最後の一撃で……死んだ……守れなかったんよ、私たちは!」

 泣き崩れるナギハを、クレナがそっと抱きとめた。その代りは、すぐに追いかけてきたミュウルが代った。

 信じられないとばかりにアーサーは下を向いた。

 アルファは何も言わず、立っていた。

 ゼスは立ち上がって……

 鬼気迫る表情のクロンはそんなゼスを蹴飛ばした上にクラッススの胸ぐらを掴んだ。

「貴様のせいだ!」

「おいおい、今回で何人死んだと思ってる? 君の仲間が死んだからと言ってこれか?」

「俺は正義のヒーローじゃねえ! この咎は受けてもらうぞ!」

「ああそうさせてもらうさ! 多くが死に、災害獣がこの町に足を踏み入れた!

 もう十分だろう。

神よ! 私はこれからもこの世界を破壊し、ゲームを壊す。貴様に付き合うことはもう、無いだろう!」


「そうだ。でも最初から言ったはずだ。僕も神もどちらでも良い、と」

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