αΩ
「あはははははははは! あんたは裏方が良いんじゃない。ただクリアに後ろ向きだっただけよ。
だってクリアしたら死ぬんだから。
もしくは考えたかしら? 孤独な世界に自分ひとり。どっちにしても地獄ね」
「黙れ!」
「黙らない。おしゃべりって楽しいわね。人殺しと同じく!」
鋭い一線。
腕を掠めたが独効果のせいで必要以上のダメージを喰らう。オートガードを超える一撃も集中していれば避けられたはずだ。
だが、クロンは明らかに集中を欠いていた。
追撃――
背中に一撃食らい、HPが一気に減っていく。しかも、もろにはいったせいで死ぬほど痛い。でも死ねない。痛みはあるがHPバーが減らないため死ねない。
「つ――」
「過去と一緒に消えて死ね!」
「クロン君は、殺させない!」
疾風が舞った――
二振りの剣が青いエフェクトを纏い、ソードダンス《クロスエッジ》を放った。
不意な上に今までとは段違いの攻撃に、おオメガは丁度半分喰らった。
「く……邪魔しないでよ! 散々いたぶって殺す楽しみを!」
「変態ね。それより、これ以上は許さないわ。リーダーがいない今、私があなたを倒す!」
「はっ、本当にこのお嬢ちゃんは。でもいいのかしら? あなたのリーダーは今頃王の罠にはまってるわよ?
あの人は負ける戦いは絶対しない」
「……クレナ、ここは俺が」
「ダメよ。今のクロン君じゃ――」
「俺がやる」
と、奥から青いフードがやってきた。てっきりクラッススやぜスを守っていると思っていた。
アルファはそんな二人の意思を意に介した様子もなく、黙々と矢をつがえた。
「アルファ……」
「オメガ。王が望んだ世界に、お前のようなものは必要ない」
「同じ穴の狢が私の邪魔を……あんたも人殺しでしょう!」
「だから俺はお前を殺す」
アルファとオメガがぶつかった――
「アーサーを追いかけてきたは良いが……」
「ここって、クラッススの屋敷じゃない」
クロンとクレナ。ふたりが向かった場所は、クラッススの屋敷。この町一番の金持ちが住まう場所だ。
「ごめんな、クレナ。あと、ありがとう」
「それはこの戦いが終わってからゆっくり聞かせて。今はリーダーを問い詰めることが先」
「ああ。それでも、言わせてくれ。俺は戦う理由を忘れていた。オメガが言ったことは全部図星だ。
俺はこの世界でクリアしたところで帰る場所がない。君たちが捨てようとしている世界は、俺の生きる世界なんだ」
「……大丈夫だよ。もし、クロン君が私の世界に来ても、その……一緒に……」
壁をぶち破り、クレナの話を断ち切り、それは現れた。
銀色の鎧を鳴らし、険しい表情のアーサーだ。
「クラッスス!」
「甘ちゃん坊やが。君が見捨てた部隊は今頃災害獣に食い殺されているさ」
「災害獣をこのタイミングで出現させることが貴様の目的だったんだな……万死に値する!」
「君の持つ清吾の尺度で私を殺すなら殺せばいい。その時、君を英雄とたたえる群衆はもういないだろうがな」
屋敷の奥からクラッスス。そしてゼスが現れた。
何となく予感はしていた。最後の敵はクラッススではなく、ゼスであると。
アーサーと一対一で戦って競り合う強さを持つゼスを倒さなければならな、と。
「リーダー! これは一体?」
「ナインスロート戦で我々が疲弊した間隙をついて災害獣を呼ぶのが奴の計画だったんだ」
「なんでそんな……」
「町を亡ぼすためだろう? ちょうどいいタイミングでクラッスス軍が全員退けば、単純に部隊が半減。
しかも、あなた、町の壁を本当に強固に作ったのか?」
クロンの問いに、クラッススは肯定の笑みを浮かべた。
誰が敵か分からない世の中ではあるが、クロンにはたったひとつわかることがあった。
クラッススは悪党で、この世界を破壊しようとしている。
「なんでだ、クラッスス。あんたは帰る場所があるんだろ?」
「帰る場所? 私がいるべき場所は、ここだ!」
今までにない険しい表情で、クラッススは地面を指さした。
一瞬、クロンやオメガと同じようにデスゲームサバイバーや脱落者かと思ったが、そうではない。
だったら、クロンのことを知っているはずだ。クロンから接触を図るより前に、接触を図っていたはず。
「どういうことだ」
「家族は死んだ。事故でな。
私たちはゲームで絆を取り戻した矢先、神に家族諸共奪われた! そんな不条理があるか? 私が死ねばよかったんだ。なのに私は、ここへ来た!
私は誓った。神を殺すと。そのためなら何でもするとな!」
「あなたの目的は帰還でもなく……ゼスのためでもなく……神への復讐のため……?」
「その通りだよクロン! そしてようやく私は見つけ出した。アーサー! あの洞窟で見せた通り、私はこの世界の中核を手に入れた。
この世界で問題が起きればその時、神が介入せざるを得ない。そうだ、ゲームマスターが現れざるを得ない!」
「そのために大勢を殺そうとしたから、私は貴様から離反した」
アーサーの声には後悔があった。クラッススの計画があまりに突拍子もない上にそんなそぶりがなかったからこそ疑えなかったのだろう。
その上で、金持ちが利益を得ようとしているだけだと言う傲慢さがアーサーの目を曇らせた。
「町の全員が死に、私がこの世界のコンソールを奪えば、神は出ざるを得ない! 私を消去しようとすれば、ゲームバランスは崩れ、どちらにせよ私の復讐は果たされる!」
「……ゼス。君もそれで良いのか?」
「……俺は、父さんのために戦う」
「その通りだゼス。家族のいない私にとって、大切なものは最早お前だけだ」
「耳を傾けないで、ゼス君! 彼は自分の復讐であなたを――」
「すまない、クレナ。これが俺の戦いなんだ。クロン、あんたとは……いい友達になれそうだった」
クロン、クレナ、アーサーの全員に剣と銃を向けたゼス。守るべきはただ、背後にいる諸悪の根源、父親と呼んだ男。
皮肉すぎる、苦すぎる戦いに、笑う者はクラッススだけだった。
「これが最期だ、ゼス。俺は本気で戦うぞ。俺の世界をまもるために、今だけは表で戦うとしよう。いや、これも裏方、かな。
世界を亡ぼすための獣は別の奴が倒してる。
クラッスス、世界滅亡の裏で、俺はあんたを止める」
「父さんの邪魔をするのなら、誰であろうと、許さない」




