表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/54

THE DIS

「これが君の考えか? 俺と、君のふたりで潜るのが」

 そろそろ岩肌が壁に変わってきたところだ。第18層。そろそろあとふたつ分の階層でボスだ。

 ゆっくりと歩きながら、モンスターを寄せ付けない強さで倒し続ける。

 そもそも、ふたりがいて、倒せない中ボス居彼のモンスターなんて存在しない。

 もっとも、今は遠くでアルファもついているわけだが。

「ここから先、ボスの部屋まで行く道筋で俺たちが防衛ラインを敷く。そうすれば敵をここに飽和させることが出来る」

「なるほど。俺たちがまず全部の敵を引き付けると? リス地点はどうする」

「モンスターのリスポーンは倒されないと働かない。倒し続けないつもりだ」

「なるほどな。時間を稼ぐことに意味はあるのか?」

 振り返りもせず、背後のモンスターを威嚇射撃。ただ進んでいくだけだ」

「父さんならどうにかしてくれるはずだ。あんたのボスも」

「そうだな。クラッススは君を愛している。だがそれと、町を救うのとは別だ。アーサーも、何かを隠しているんじゃないかと思ってる」

「なに?」

「アーサーは正義を具現化したようなやつだ。それが、言い方は悪いが、悪の黒幕みたいなクラッススと組むのはおかしいだろう。

 アーサーにも立派な野心がある。その奥に何があるのかは理解できないが」

「状況証拠すらないだろう?」

「あるさ。俺とクラッススを使って町を支配しようとしているのは明らかだ。君の父親は、ただ帰りたいだけらしいが。愛する家族の元に」

「家族か……」

「帰ったらどうするんだ? 本当の家族の元に戻るのか?」

「俺は戦争孤児だ。家族はいない。俺の母は売春婦で、俺は不法移民を手引きする奴が用意した貨物船の中で俺を生んだ。その後すぐに俺を売り飛ばした。

だから……父さんが初めての家族らしい家族だ。彼が初めて俺に家族の愛情を教えてくれた。

彼がうちに帰って家族と温かい暮らしを送るのなら、俺は十分だ」

「……養子にもらわれるのは?」

「……それもいいな」

 初めて子供っぽい笑みをゼスが浮かべた。純粋な笑みを初めて見たような気がした。

 元々、そこまで長い付き合いでない以上、知らない一面があってもおかしくはない。

「あんたはどうするつもりだ? アーサーと父さんに何かがあっても、帰還と言うゴールに進むための事だ。そうなれば、どうする?」

 帰還も何も、クロンは既に死んでいる。クロンにとって帰る場所なんてない。

 この世界が、クロンの新しい生きる場所なのだ。

「ずっと考えていた。GMはなぜ、帰る場所のない俺をこの世界に呼んだのか」

「……なんにせよ意味がある。その生も、その死も。きっと」

「だと良いが。さて、ボスフロアについたな。気づけば二層も歩いて、喋ったか」

 ボスフロアは他の扉と違って明らかに豪奢だった。近くに埃が落ちていることすらない。

「よくこれを開けようとしたな。トラップが発動する可能性すらある」

「見るだけのつもりだった」

「軽率は命取りだ」

「それ、誰に言ってる?」

「俺自身なのかもな」

 ゼスとクロンはどことなく似たような性質を持ち合わせていると互いに理解した。

 会話で心を図ることは出来ないだろうが、何か得るものはあった。

「待て……なんだ?」

 奥の方から、壁を叩くような音が聞こえる。低い、唸りのような音だ。

 天井からパラパラと埃か小石かが降ってきて、扉にはひびが入り始めた。

 恐らくだが、もう時間はないのだろう。

「第一フロアまでどのくらい時間がかかるかな?」

「そんなにかからないんじゃないか?」

「さっさとこの無駄な戦いを終わらせるとしよう」

 とてつもなくウィンドウ操作が早いクロンは一瞬で大量の武器を地面に突き刺して召喚。

 強力な武器の数々。今まで手に入れたレアな武器からナギハ印の物まで多種多様だ。

「全職適正。それが全部使えるなら本当に驚異的だな」

「さっさと終わらせるぞ。アルファもいるんだろう?」

「俺がもらった命令は、ゼス様をお守りする事だけだ。貴様の指図は受けない」

「じゃあ俺とクロンと一緒に戦ってくれ。それが父さんのためにもなる」

「ご命令のままに」

「アルファ、レベルは」

「50だ」

 つい最近まではアーサー付近しかレベル50がいなかったのにここに来てどんどん出てくる。

 一体本来50に到達している人間が何人いるのか甚だ疑問だ。

「死ぬなよ。寝つきが悪いし寝覚めが悪い」

「了解した」

「貴様の命令は受けない」

 連携が取れているのかいないのか全く分からないが、そんなクロンたちの石など全く関係なく、状況は動いた。

 壁は、いとも簡単に破壊された。ぽっかりと空いた空間は、まるで最初からそうだったように存在した。

 緊張と不安は轟音がかき消し、すぐさま戦闘に頭がスイッチした。

 闇から這い出たおぞましいその姿は死神と闇黒が融合したようだった。

 クロンたちは目撃する。漆黒で、幾つもの揺らめく足を持った影そのもののようなモンスターを。

 町をも破壊可能な規格外で、ゲームバランスをことごとく破壊するモンスター。


 The dis アストンノート――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ