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誰が黒幕か

「クレナ、君の軍勢を俺が代わりに引き入る」

 場所は町とダンジョンの中間の森。数々のテントが立ち並び、まさにテントの森だ。

 兵士が野営するためのテントとは別に、指揮官が作戦を立てるためのテントがあった。クロンはライムと共にずかずかとそれに入るなり開口一番言ってのけた。

「は? ちょっと待って。なによ急に。ここは私が――」

「違う。俺も短剣を持っている。俺の言葉はアーサーの言葉だ」

「それを言うなら私の言葉もアーサーの言葉よ」

「ちょっとふたりとも、やめな。埒が明かないのよ。んで? どっちが上でどっちが下? なによ、文句ある?

 こんな状況よ。指揮系統二つもあったら部下は従わない」

 ライムは馬鹿力だが馬鹿ではない。というより、いかなる状況でも絶対的冷静だ。

「俺に預けてくれ」

「……わかったわ。君に預ける。信頼できるし、助けてくれたしね」

「よし。ライムは」

「上から遊撃しろと言われた。でも、あんたには従わない。文字通り遊撃に徹する」

「それでも構わないが、死ぬなよ」

「そのためにこれから山に登るわ。テイマーの力ってのを見せてやる」

 淡々と協力的なのか非協力的なのか分からない態度のライム。いつものように不機嫌な表情だが、クロンは特に何も言わなかった。

 ふたりの信頼、友情が引き裂かれでもしない限り、この信頼は厚いものだ。

 ライムひとつ首を傾げると、テントから出て行った。

「さて、作戦なんて大層なものはない。俺たちがいるのはここ。敵はここ。町はここ。わかりきっているがここが中間ポイント。ここで確実に敵を押し留める」

「町でリーダーが総力戦を行う予定のはずよ。町の中なら私たちは死なない」

「違う。誤解があるようだ。雑魚モンスターや、ああ違う。ほとんどのモンスターは町にすら入れないが、災害獣は違う。

 君があの時ナインスロート戦の影響で遠くに行っていたから――」

「私が町を守れなかった時の話はしないで。とにかく、災害獣は町に入れるのね?」

「ああ。あの時死んだメンバーの多くは町にいた非戦闘民だ。戦闘に参加したメンバーは最初の一太刀。最初の銃弾で戦闘を諦めた」

 昔を思い出してふたりは互いに暗い表情をした。

 クロンとクレナには空白の時間がある。ナインスロート戦の傷を癒すため、クレナは別の居住地域を探す任務に就いた。

 クロンもまた、災害獣の影響で破壊した町から目を背け、コテージを建てるための湖を探す旅に出た。

 災害獣は、多くの人間に挫折を与えた化け物だ。

「一瞬で死ぬ。だが、今回のはまた違うんだろう?」

「その通り。あ、また邪魔するよ~。いやあ、ほんと、嫌だった。偵察は」

「ふふ、さすがはナギハちゃん」

 ナギハ、そしてミュウルが入って来るなり地図を囲んで何かを書き込んでいった。

 軍勢の種類と敵の特徴が書き込まれている。どうも、敵は昔と違って単体では攻めず、多くの部下モンスターに囲まれているらしい。

 特徴的にはナインスロートに似ているが、恐ろしいことはナインスロートを超える強さを持っている。

「正直、レベルの高い人間を揃えても勝てる見込みはほとんどない。どうする?」

「まずはモンスターの外堀を片付けたいけど、ここに半分の人員を割く力はないわ」

「ああ。その上、本体も強力と来ている。ナギハ、なにか情報は」

「うーん……すっごく強そうだった。私たちは恐怖のままに逃げたって感じ」

「ええ。あれと渡り歩くなら、私のレベルでは足りません」

「平行線だな。ナギハは町へ戻れ。アーサーとクラッススを見張ってほしい」

「え? どゆ意味?」

「やつらが動くとすればそこだ。今回の件、俺はクラッススを疑っていたが、奴は帰還を望んでいる。だがアーサーは分からない」

「ちょっと待って、リーダーを疑うつもり? 彼は高尚な人よ?」

 クレナは眉間にしわを寄せた。クレナがアーサーに信頼を置いているのを理解はしている。

 しかし、クロンからすれば、クラッススの容疑が晴れた以上、アーサーが怪しい。

 むしろ、クラッススの陰に隠れてまさに暗躍しようとしているとしか思えない。

 ナギハを見送ると、また人が入ってきた。まさに入れ代わり立ち代わりだ。

「君は呼んでいないぞ、ゼス」

 両手を適当に広げて、ゼスはそれでもアルファと共にテントの中に入ってきた。

「お父さんはいいのか。彼は君を――」

「だからここに来た。父さんは何と言われようと町を救うつもりでいる。

 そのためには時間が必要だ。俺と、君と、クレナ。俺たちなら可能だ」

「ゼス様にはお考えがある」

「ああそうかい。アルファ、言っておくが俺は君が嫌いだ。嫌いだが、ゼスの考えを聞けるなら黙ってやる」

「誤解があるようだな」

「弓を構えて話しているからだろ?」

 アルファは今にも矢で射そうだし、クロンは引き金を引きそうだ。

 クロンとアルファはとんでもなく剣呑な雰囲気だが、他の人間には関係ない。

 またはじまったとばかりにため息が方法から漏れた。クレナとミュウル、それにゼスだ。

「で?」

「ダンジョンに潜る」

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