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せっかくの時間

「で? ライム。俺を呼びつけたんだ、よほどのことだろうな」

 クロンは自室のテーブルの上に分解した拳銃のパーツをひとつひとつ置いた。むひょ場を通り越して表情がない。

「なにかあれば呼ぶと言ったし、あんたの態度ムカつくからぶん殴るわよ。ていうか、私が呼ぶ前から戻ってたんじゃないの」

「まあ。思い出したことがある」

「あんたに対して武器振るっても勝てないから振るわない。んで?」

「それはこっちのセリフだ」

「いや、言うべきことがあったけど、馬鹿みたいに拳銃分解してるあんたを見て単純に心配した。なにが、あったの」

 クロンはもう何も言えないと思ったのか、もしくは誰かに話したかったのか、ナギハに離したことと同じことを話した。

 結果――

「あそ。話してすっきりした? じゃあ話すけど、アーサーとクラッススが議会を開いてこの町の統治を始めたのよ」

「良いことじゃないか」

 あっさりした答えを返され、クロンは悩んでいるのが馬鹿らしくなった。

 急いで拳銃を組み立てながら、クロンもあっさりした態度を取った。

「ああそうね。アーサーは攻略のために日和見プレイヤーを一掃するつもりよ。生産職か、攻略者か。中間は許されない」

「クラッススは」

「自分の金を使って軍隊を新たに作ろうとしている。どちらも攻略しようとしているってことは間違いない」

「放っておけばいい。その程度なら問題はない。死者が出たなら別だが」

「いつ死者が出てもおかしくないってのは本当よ。アーサーは全てのユニットを飲み込もうとしている。

 クラッススは、そのアーサーすら操って何かしようとしてる。

 だって考えてみなさいよ。クラッススが今更攻略する意味って何」

「それこそ本当に杞憂だろう。今までデータから見て、アーサーみたいなやつはいた」

 拳銃をあと少しで完成の所まで組み上げながら、クロンは昔を思い出した。

 どこにでもいる人間は決してリーダーになれない。リーダーがリーダーになる。

「まあ確かに、クラッススみたいな大人がどう出るかはデータにないな。一個前のゲームでは、若い男女しかいなかったわけだし。もちろん、おっさんもいたが、あんなのはいない」

「金持ちが力を手に入れたら何するかわかる?」

「世界支配?」

「そ。これは私の直感。いいから、少し町に残りなさい」

「そのつもりだ」

 拳銃を完璧に組み上げた。武器も使い過ぎれば摩耗する。お手入れは必要不可欠だ。

 ライムを引き連れて、町の様子を見るために外へ行くと、いつも以上にがやがやしていた。

 というか、知らない顔が増えた。

 アーサーとクラッススの統治下において世界はより活気づいたようだった。

 適当な店に入り、いくつか注文して木製のテーブルと椅子についた。

「さて。おごるよ」

「気前良いわね。あと、注文がもう来た」

 ジュースとクレープ。この世界では料理にかかる技術はそのままに、時間が全て短縮されている。つまり、とろ火で数分、なんて言葉は消え失せている。

「案外町は綺麗なままだぞ」

「そーうね。おいし」

 満面の笑みでクレープをほおばるライム。甘いものが好きなのは火を見るよりも明らかだ。

 戦いの中で獣以上に闘志と牙を剥きだしにしている素顔とは明らかに違う。

「クリーム、ついてるよ」

 クロンが苦笑しながら、ライムの口元についたクリームを指で拭って舐めた。

「……あんたって、馬鹿よね」

 褐色の顔を真っ赤に染め上げ、ライムはそっぽを向いた。

「なにが」

「死ね」

「なんで!?」

 久しぶりにスローライフらしいスローライフを味わって、クロンは心から笑った。

 いつからか、過去に縛られ過ぎて、逃げるためのスローライフを目指していた。

 今も大して変わらないが、少なくとも、罪悪感は和らいだ。

グロックをホルスターから抜いて、間髪入れずにダブルタップ――

銃弾は、弓で弾かれた。矢ではなく、剣よろしく弓で弾いた。

「アルファ。容赦はしないぞ」

「もし勘違いをさせたのなら謝罪しよう」

 青いフード。くぐもったどころではなくボイスチェンジされた低い声。アルファだ。

 性懲りもなく影から様子を窺っていたらしい。

しかし、隠密行動が高くなる《ハイスニーク》能力すら看破するクロンは決して欺けない。

これは能力ではない。以前のデスゲームの経験がクロン自身を研ぎ澄まされている。

「いけしゃあしゃあと。何の用だ」

「王がお呼びだ」

「断る。会議には出んぞ」

 予想していた中で最悪の出来事が起きつつあった。

 そう。予想は出来ていた。関わればかかわる程、それも、クラッススに関わればどうなるか。

 嫌でも表舞台に姿を現さなければいけなくなってしまう。

「……そこまでの賢さがありながら、なぜ貴様は表に出ない」

「おい、図星かよ。会議に行く気はないし、その理由を君に言う気はない」

「王は連れてこいとしかおっしゃらなかった。腕づくでいくぞ」

「勝てると思ってるのか?」

「あの、せっかくの時間邪魔されて、私もおこなんだけど?」

 ライムはいつの間にかクレープを食べていたらしく、立ち上がった。

「せっかくの時間って?」

「死ね」

「なんで!?」

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