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夢の獣

「クロン……さん?」

「ああ、クレナと一緒で呼び捨てで良いよ。何だ?」

 クロンとゼスはお互い2丁拳銃のセーフティを解除して、ボスのいる部屋の中心へゆっくり歩いて行った。

 他にはいない。頭のおかしい話と思われても仕方がないが、ふたりで攻略しようとしているのだ。

 第18層を。どんな敵がいるかもわからないダンジョンを、たったふたりで。

「なんであんたは俺と一緒にここの攻略を?」

「単純だ。クレナを含めて兵士を休める。知ってるか? かなりめちゃくちゃな攻略をしているってこと。

 このままいけば、クレナが倒れれば、もしくは兵士が疲弊すれば、ミュウルが倒れれば、攻略しようとした途端に全滅する。

 そうなれば、金を貰ったアーサーはなにもかもを文字通り失い、クラッススは投資分を回収できない上にせっかくの演説が無駄になる。

 セカンダーとして一生あの屋敷でスコッチを呑む生活になるだろう」

「そこまで考えて……待て、じゃあもしかしてあんたは……」

「俺にとって最悪な人生だよ。ゼス、君は君のお父さんが言う通り頭が良い。

 これを終えたら攻略する。第19層だ。これで、戦いの暇を稼ぐことが出来る。

 もちろん、君と俺とでやる」

「なんでそうまでして……」

「大切な友達だ。だが、今これから君が見る物や俺が攻略に参加したことは伏せるんだ」

「伏せるも何も、悪いがあんたのレベルは……」

「これが俺のステータスだ」


――――――――――――――――――――――――

名前:クロン

職業:ハンドガンナー【S】

ランク:SSS

レベル:50

HP:3200

MP:3200

筋力:4000

敏捷:3000

スキル《全職適正》《オートエイム》《オートガード》

――――――――――――――――――――――――


 ゼスは圧倒的なクロンの強さを前に驚愕したらしい。

 クラッススの息子にこれを教えることのリスクは十分わかっていた。それでも、教える以外の方法を思いつかなかった。

 短時間で信用させるには、パーソナルデータを開示する方法が一番だ。

「もしこれを君が誰かに口外し、俺の正体が知れ渡るようになれば……口をふさがないといけない」

「なぜそれを俺に……」

 納得いかなそうな表情を浮かべたゼスの瞳は、なぜか輝いていた。

 その目を、クロンは知っていた。まるで、生きている時に死に、死んでいる時に生きるような瞳だ。

「ライムやクレナ、そしてナギハ。俺の秘密を知っているのは彼女たちだけだ。彼女たちと俺は、曲がりなりにも信頼によって繋がっている。

 だが、俺と君との間に信頼はない。だから真実を教えよう。口外すれば死人が出る」

「確かに珍しいスキルな上にSSSランクなんて聞いたことも……名前か」

 やはり聡明だと、クロンは苦笑した。

 クラッススはこの世界が地獄だと言った。ならば自分が以前いた場所はまさに、煉獄だと、クロンは思っている。

「無駄話は良い。さっさと、始めよう。生憎俺は二刀流ほど一度のダメージがでかいわけじゃないが、動き続ける。遅れるな」

「……ふっ、レディに無茶はさせない」

 いい加減飽き飽きするほどの間違われっぷりに、クロンは否定を辞めた。

「さっさと、終わらせよう」

 目の前に、鳴き声ひとつ立てずにじっとふたりを待つモンスターがいた。

 上半身は人だが、体毛一つない顔には3つの点のような瞳。腕は下半身に菱形ボディにめり込み長い尾が生えていた。尾の先には三又の刃が付いていて、形容が難しい。最早生き物かどうかも怪しいモンスターだ。

 名前はRealist Dream

 何をどうやって作ったのか分からないが、形状はクモ型モンスターに似ている。

「毎度思うが、モンスターのイラストレーターは複数人いるのか? このDream野郎は趣味が悪い」

「どっちだって良い。あんたは俺の援護を――」

 言うより前に拳銃連射――

 しかし、弾丸がドリームの手前でゆらゆらと勢いを失くし……地面に落下した。

「なーるほど」

 アサルトライフル――スカーに装備を変更。子気味良い連射音と共に力強い弾丸が放たれるが、どれもこれもドリームの手前で落ちる。

 すかさず、ゼスも2丁拳銃で試すが、同じことが起きた。

「銃弾耐性のモンスターを作るとは、神かGMか知らないが、中々どうして趣味の悪い」

「だったら、剣で行くだけだ」

 背中に携えた剣を抜いたゼス。何のつもりかわからなかったクロンは肩をすくめた。

「これ、俺のステータスだ」


――――――――――――――――――――――――

名前:ゼス

職業:銃剣士【S】

ランク:S

レベル:50

HP:2800

MP:2000

筋力:2800

敏捷:4000

スキル《ハイスニーク》《強弱点攻撃》《クイックドロースラッシュ》

――――――――――――――――――――――――


「ハイスニークと強弱点攻撃は知っているが、クイックドロースラッシュ?」

「見ていればいい」

 先に走ったゼスを追いかけ、クロンも駆け抜けた。援護は忘れない。

「さあ、闇より早く駆け抜ける」

 何が起きたのか、クロンの目では捉えきれなかった。

 ゼスが剣でドリームのボディを斬るそぶりを見せた瞬間……斬れていた。

 さらに、空いた片手で拳銃の引き金を引く前に……弾が放たれていた。

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