くそったれのセカンダー
「ああ、ありがとう。初めましての諸君は初めまして。私の名前は、クラッスス。
私のことを人はこの町一番の金持ちと呼び……くそったれのセカンダーと呼ぶ」
クラッススがお立ち台に立ち、聴衆はざわめいた。
ついさっきまで話を聞いていた初心者たちは疑問符を浮かべ、古くから冒険している人たちは、一斉に嫌悪感を出した。
セカンダー。
この世界を現実世界を一度現実世界でゲームとして体験している存在。
彼らは知識チートと呼ばれるほど、安全なレベリングやレア装備を片っ端からかっさらっていった。その結果、ファースター、この世界の初見たちに恨まれた。
お門違いな恨みだと、クロンはずっと思っていた。他は違ったというだけの話だ。
結果として、セカンダーは町から消え失せた。正体を隠し、生活して来た。
クラッススは別だ。クラッススは持っていた情報屋先のような方法で手に入れた素材を使い、名実ともに町一番の金持ちになった。
クロンがナギハから聞いた話だと、最初から金集めだけを考えたような動きだったそうだ。
「私は、知っての通り、ああ、知らない人はそのままで。嫌われ者だ」
「セカンダーが」
「どの面下げてやがる!」
「さっさと出ていけ!」
何かを投げようとした時、青色のマスクがそれを掴み、反撃のため弓を取り出そうとした。
「止めろ、アルファ」
言われ、アルファは弓を戻してクラッススの傍に下がった。
「あーりゃりゃ、あのアルファって人、最近クレナっちの傍をうろついてたんだけど、今日はこっちなんだ」
ナギハは相変わらずケラケラしているが、アルファだけじゃない。
今、アルファと一緒にぴったりとクラッススの傍を離れない赤マスク、オメガ。
オメガに関してはずっとクロンを見張っていた。
「さて、私はこの世界を、地獄だと思っている。食うに困らず、装備に困らず、こうして、兵にも困らない。
金があればすべてどうにでもなる生活だ。だが、そんな私でも、地獄だ。
なあ、諸君。お金を私が諸君に配るとしよう。平等に。食うに困らない。住む家も着る服もある。武器もある。もう、モンスターは怖くない。平和な日常だ。
では、君たちはあの窓、そしてあの窓、どの窓でも良い、空を見上げろ。
そこは、天国か? 当たり前の日常か? いいや違う、地獄だ。
ここはいつだって地獄だ! 飼殺され、死すら選べない地獄だ! 周りを見ろ、そして自分を見ろ! そこにいるのは諸君らを助けるのか!
違う! 甘さは捨て、なれ合いも辞めろ、ここは地獄だ。そして私はセカンダーでもなければこの町一番の金持ちじゃない!
地獄の王だ!
甘さにこの町は任せられない。君たちが力を課すべき相手は、この、私だ!」
静まり返った。
中々どうして策士だとクロンが苦笑するのと同時に、拍手がパラパラと鳴り始めた。
拍手していたのは、クラッススに物を投げようとしていたファースターだった。
拍手はやがて喝采に変わり、人々はクラッススの名を叫び始めた。
「だが! だがだ、ここで私が金をばらまいても仕方ない。私はつい最近学んだ。
人は甘さとよき行いに傾倒するのだと。だから英雄アーサー、君にひとつ、提案がある。
この町を維持、統治するための議会を作ろうじゃないか。面子は私や君、あとは生産系のユニットをいくつか含めてな」
「……何を企んでいる。議会を作って、何になる。結局は議長が、この町を仕切るということだろう」
「いいや、議長に決定権を与えない。あくまでも過半数の総意で決める。面子は、君と私とで決めればいい。なあ、皆もその方が良いだろう?」
クラッススが笑顔で出した手を、アーサーは険しい表情で握り返した。
この町が出来て初めて、この町に秩序が生まれた瞬間だった。
「ふたりの陰謀に巻き込まれたくはないんだが」
ポリポリと頬を掻き、クロンは背を向けた。
「町を出る」
「あんた正気? 今町を出たら、誰がこの人気取り合戦止めんのよ」
「残っていても関わるつもりはない。それよりも先に進めるべきは、クレナの方だ」
「あー、それは僕も同じ考え。クレナっちがこのふたりの間にいるなら、潰れちゃう。クレナっち、自分で言うより強くないし。僕も、そうなんだけどね」
「……ったく、しゃあないわね。んじゃあ、私が町に残る。なんかあれば、うちのユニットから人を向かわせるわ」
「頼んだ。ったく、俺のスローライフは遠いのかねぇ」
クロンは呟きながら町の外へ向かった。行き先はたった一つ、回廊だ。
既に17層までクリアされた、疾風クレナの城。驚異的な速さはしかし、クロンに違和感や疑念を持たせたことは間違いない。
町を良くしようとは思わない。
この世界を攻略しようとは思わない。
ただ、少ない友達の様子を見に行く事くらいはやって罰は当たらないだろう。
「行くぞ、ナギハ。恐らくアルファやオメガはクラッススにつきっきりだろうしな」
「あのふたり、つよいんかな」
「さあな、ステータスを見ていないからわからないし、関係ない」




