真紅の少女は美少女で
現在・・・
昔を思い出して苦笑した。
まさかデスゲームが繰り返されるとは思ってもみなかった。
というより、クロンはデスゲームを勘弁してほしいとお願いしていたのだ。何度も。
「相変わらず、一人行動が多い人ね、君」
振り返ると、流麗な美女がいた。
赤色の長いつやつやな髪。肩が空いた赤いプレートアーマーに二枚のマント風ジャケット。裾が長いために長く白いブーツと太ももの絶対領域が絶妙だ。
「良いのか? クレナ。君は自分のユニットがあるだろう」
片手剣よりももう一回り短い黒と銀の剣を二振り腰に装備している。
武器から簡単に推測できるが、職業は剣士。レベルは現在最高位の50だ。
クレナは柔らかい笑みを浮かべながら腕を組んだ。
「誰かさんがここにいるのが見えたから、かな。クロン君、どうしてここに? ソロ、なんでしょ?」
クレナの顔に困惑の文字が浮かんだ。
クロンは剣をポーチにしまって、再びバレットを装備し直した。
「異世界でスローライフ送りたいからこうしてここにいるんだ」
「剣と銃の両使い。ほんとすごいよね。全部の職業適性がSクラスなんだから。私は剣士適正があったから剣を使えるけど、斧とかは無理だもん」
「職業適性で使える武器が限られてる。適性なしで使えば武器のポテンシャルを発揮できないから、まあこの力はずるいよな。それより……手伝ってくれるたら有難い」
「え? 手伝うって何を?」
「あいつの立てた作戦には重要な欠陥がある。今、俺が立ってるここは敵のすぽーん地点に一番近い洞窟があるんだよ。
もしここから敵がなだれ込んで来たら……」
「部隊は背中から敵、前にボスを相手取って陣形は崩れる」
察しの良いクレナは、スーッと瞳から色を消した。ゾクゾクするような冷たさはまさに剣士としての素養から出ている。
「どうすればいい?」
「敵を倒せばいい。いやあ、助かったよ」
クロンは会話の途中でも構わず下の敵を弾切れまで狙撃しつつ、笑顔で言った。
バレットをポーチに収め、白銀の長剣と、コンパクトなハンドガン――グロック――を装備。
笑みを浮かべたままくるっと体を回し、乱暴に引き金を何度も引いた。
なにも見ていないにもかかわらず《オートエイム》によって弾は比較的に命中する。
――いつの間にか二人の背後に回っていたゴブリンの大群に。
それでも仲間を盾にして弾を避けたり、致命傷が外れてわずかにHPを残した個体がクロンに迫った。
クロンは口角を上げ、姿勢をぐっと前に下げた。
白銀の剣の刀身が青色に輝いた。笑顔のクロンはゴブリンに一気に距離を詰めた。
この世界に存在する剣と銃。剣を含めた近接武器にのみ与えられた特権。
ソードダンス――
「ライズスラッシュ」
呟くと同時に青色の斬撃エフェクトが飛び散り、先行したゴブリンの首を斬った。HPが一気に消し飛び、クルっと回転。
「はあ!」
再び青色の斬撃エフェクトが散り、ゴブリンのHPが消える。
ソードダンス直後は反動によって硬直してしまう。
だが、クロンのランクSSSは伊達ではない。ハンドガンを取り出し、弾倉が空になるまで撃ち続ける。
空になったら弾を補充せず、ディレイが解除されたタイミングで再びソードダンス。
気づけば、モンスターの群れは動きを止め、注目はクロンに向いていた。
「あのねえ……銃と剣って、それぞれ弱点があって……まあいいや。君と話してると頭痛くなる」
呆れた様子のクレナはそれでも両腰から剣――グロスブレード×2――を振り抜いた。
無論どちらも片手剣。両手で持って両方とも職業適性が付くわけじゃない。
クレナもまた、特殊なスキルを持っていた。
「ここのモンスターを全滅させよう。下に降りたら、せっかくのダンジョンクリアが台無しだ」
今さらながら、クロンは自分がダンジョンのボス部屋攻略にいたことを思い出した。
(本当に今さらな話だよな)
クロンは決めていた。もう二度と、デスゲームクリアに乗り出しはしないと。
ラストフロアの大魔王を倒そうとした瞬間、奪い取られたラストアタック。
元々誰かのために戦うことは柄じゃなかった。それでも、あの瞬間だけは、皆の思いを背負って戦っていた自分がいた。
砕けたプライドがトラウマになって、クロンはもう、戦うことを辞めた。
2度目のデスゲーム? なら、これまでの全部活かしてせいぜい楽に暮らしてやる。
この一年間で、ある事件をきっかけにそれは崩れてしまったのだが。
「最大レベル50がたった1人だから、これ以上は重荷を増やせないしね。良いよ、協力する。クロン君を一人で死なせないよ」
「……縁起わる」
「あ、そういう意味じゃなくてね――」
空気を読まないゴブリンが斧や鉈を振り上げ襲い掛かる。止めればいいものを――
クレナの瞳に輝きが宿り、グロスブレードの刀身が赤々と輝く。
跳躍と同時にゴブリンに体の腹に三連撃。疾風を思わせる斬撃の嵐が、勢いそのままにゴブリンの群れに飛び込んだ。
跳躍からの落下。最早隕石か爆撃を目の当たりにして、クロンは苦笑した。
「さすが」