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速さのその先

「第一陣、攻撃開始。魔法使いは全力で味方にバフを行ったら後方待機。バフが切れる時間に注意して。

 銃士、狙撃手はバフ効果持続中の魔法使いをスポッターにして精密射撃。突撃銃兵は剣士と一緒に前線を砕いて。

 残りは私についてきなさい」

 クレナが全ての命令を言い終わるのと同時に、カマキリ、ゴブリンの軍団とぶち当たった。

 舞台は【クレアドラ回廊】のワンフロア。モンスタースポーンポイントを全て潰すことで安全なエリアにすることが目的だ。

 黄銅色の岩に囲まれた洞窟のような場所だが、ところどころに朽ち果てた街の残骸がある。確かにここを新しい居住地にすることが出来れば、プレイヤーたちは新たなゾーンに進むことが可能だろう。

 見慣れない黒いプレートアーマーを着た剣士20人と銃士20人、魔法使い10人。

 合計50人の部隊が攻勢を強め、一気に敵の雑魚モンスターを砕いていく。

 洗練された動きはトップユニットさながらだが、経験値不足は否めない。

 最初は良かったものの、徐々に押されてきていた。回廊は至る所に入り口や出口があって、モンスターの出現ポイントが良く分からない。

 その上、一定数撃破すると中ボスクラスが出現する仕掛けになっているらしい。

 牛人間。その上……足が8本あるクモ型のモンスター。筋肉質で紫色。人型の上半身を持っている。

 どうでも良い話ではあるが、クレナは酷くこの中ボスを気持ち悪いと思っている。

 ダンジョンはクエストモンスターや野良モンスターと違い、フロア最後のボスモンスターを倒さなければ攻略できない。

 また、攻略しなければいずれ潰したスポーン地点が復活する。

「早く、制圧するわよ」

 双剣ネプティヌスが青く輝き、疾風クレナは前線の更に前に身を突っ込ませた。

 ソードダンスを使うまでもなく、連撃に次ぐ連撃。攻撃を喰らうことなく自らの攻撃を当てる。

 まさに疾風。過ぎ去ったころ、モンスターの残骸である光の粒子が飛び散っていた。

「まだ、足りない。もっともっと、速さが必要なのよ!」

 鬼の形相。疾風クレナの戦い方を見た者はそう評した。

 尋常ではない速度。武器によって高められた限界突破の敏捷性。目で追う以外は出来ない。

 まともにクレナと渡り合うことはできない。

 自分で指揮した部隊を置いて、部隊が圧される要因を叩く。

 論理的だが、見方によっては、誰の傍にも寄らず、がむしゃらにも見えた。

「まだ、まだよ、もっと速く! この程度で、私は!」

「クレナ隊長」

 その時、クレナの肩に手をかける者がいた。

 反射的にそれの首に剣を当ててしまったが、ハッとしてすぐ剣を回しながら降ろした。

「すまない。だがもう大方のポイントは潰した。その辺は放っておいて、ボスを叩かないか?」

 黒髪のギザギザ髪。髪よりも黒く、どこか虚ろ気な瞳。黒いロングコートを着込み、後ろに剣を携えた恐らく剣士。

 クレナは彼のステータスを確認していないのでいまいちよく分かっていない。

「ゼス。あなたの部隊の犠牲は」

 クレナは無表情だった。ずっと、凍てつくような顔で部隊を動かし、攻略している。

「こっちもあんたの部隊も犠牲はゼロだ。さすがだよ」

「おふたりとも、時間がありませんわ。攻略するのならお早く」

 と、同じようにボスフロア攻略を進言したミュウルに、クレナは剣を何度か振って頷いた。

「そうね。ここは町から随分離れてる。早く皆が安全出来る場所を作らなくちゃ。行きましょう」

 神がかり的な速度で攻略は進んでいた。しかしクレナ自身、そうは思わなかった。

 あの日、あの夜で全てが変わった。

 ライムと鍔ぜり合った瞬間、何もかも吹き飛んで、クレナは剣士でいられた。

 剣士でい続けるには戦うしかない。より激しい戦いを自分におくことで、い続けられる。

 い続けなければいけない理由がある。

「もう私は、誰も殺させない」

 剣をくるくると回し、ボスフロアの扉の前に立った。

 紅の剣士が扉の前で佇んでいると、彼女の部下である騎士が扉をゆっくりと開けた。

 クレナの傍には黒ずくめであり、クラッスス軍の指揮官代理ゼス。

 そして、既にレベル32まで急成長を遂げた、魔法使いである聖女ミュウルだった。

「行くわよ。作戦を覚えていない人がいたら、今すぐ私が叩き斬る」

「俺と俺の部隊が君の命令通り、前衛を張る。ミュウルが魔法使い部隊を指揮してバフを大量投入。

 その後銃士部隊が展開してヘイトを分散しつつ、本隊が敵を砕く。

 作戦のメリットは電撃戦。

 デメリットは、ボスの行動パターンが読み切れていない事。もっと視察しても時間はたっぷりあるんじゃないのかとは思う」

「それは私も同じことを思いました。クレナさんらしくないです」

 ふたりの表情は険しいものの、クレナは凛としていた。

 重要なのは、それを進言しているゼスの父親に借りがあるということだ。

「言いたいことは言い終えたかしら。文句があるなら帰ることをおすすめします。

 私だって、無理やりここについてきてほしいとは言っていません。全ては町のため、町に住まう人々のため」

「……分かってます。あなたのこと、信頼しているので」

「では、始めましょうか」

 扉の奥に進んだクレナ。

 この時の第一層攻略は、始まりの町に住まうナギハ調べによると、最速だったという。


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