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最期にかっさらう

「つう……硬い!」

 クレナが吠え、ナインスロート3本目の首を落とした。アーサーの回復は済んでいるが、エクスカリバーは連発できない。

 使うと同時に精神エネルギーを使うため疲労が半端ではない。今は回復まで指揮に回り、前線は完全にクレナが牛耳っていた。

 先ほどまでの乱暴な戦闘ではなく、きちんと仲間とスイッチしているものの、クレナについていける程のセンスを持っている人間は少ない。

 戦いが長引けば長引くほど、クレナの疲労は溜まっていく。

「よし、本隊を立て直した。クレナ君、タンクの裏に隠れてくれ。ミュウル君、MP回復アイテムはなんとか君に回すが……」

 アーサーは剣を軽く振るい、ミュウルの横を抜けて行った。

「お気遣いありがとうございます。でも私はまだ、ヒールしかできないから。自分の身は自分で守ります」

「その意気よ、ふう……」

 HPが半分ほど削られたところで何とか食いとどまったクレナも回復ポーションを飲んで一息ついた。

 顔は疲れているが、まだ戦う意思は死んでいない。

「すごいです、クレナさん」

「ううん。ミュウルちゃんの方がすごいわ。この数のヒールをやってのけるなんて……」

「魔法使いですから」

 まるで女神のような笑顔に、クレナは苦笑した。恐らくこの戦場を癒すには十分だ。

 少し休んで、クレナは再び剣をくるくると回した。長い戦いだ。たまたまこのクエストの終了時間が長いお陰で助かっているが、本来は人間の方が摩耗してしまう。

「替え時かな、君を」

 剣をクロスさせて軽く引いた。鈍い金属音が心地良い。

「よっし、あともうひと頑張り――」

「ダメだもう持たない!」

 タンクの戦列、最高の防御力を誇る壁たちが吹き飛ばされた。

 何事かとクレナが視線を送った。首の数は残り6本。だがそれぞれが結合して3本の首に。

 簡単な算数のお勉強だ。口から放たれるブレスレーザーの威力も……倍だ。

 防御体制でHPマックスのタンクが直撃を受け、絶命した。

「また……なんで何度も、あんたは!」

 クレナの中で何かが崩れた。なまった双剣を地面に突き刺し、武器を装備し直す。指が上手い事動かない。元々、戦場で武器を替えることなんてままない。

 それも、敵を目の前にして。

「落ち着け、クレナ君! タンクは下がってミュウル君の回復を。銃士隊! 火力の高い武器を撃ちまくってヘイトを稼げ、当たるなよ。後は私についてこい!」

 白銀の騎士が先陣を切った。誰もが理解している。今回、アーサーが持つ固有スキル《英雄奮迅》はあまり効果を発揮できないということを。

 それでも先頭を切る姿は無謀を通り越している。

 ただ、英雄として、リーダーとして、勇気を与えるには十分だった。

「私がエクスカリバーだけを無駄に使う愚か者と思うな」

 ぐっと姿勢を低くし、アーサーはナインスロートの攻撃を待った。

 ナインスロートはじたばたと足を使って攻撃を繰り出すが、そのひとつをアーサーは利用した。

 足を足掛かりに首まで一気に距離を詰め、ナインスロートの眼球に一撃加える。

 怯んだ。

 データの塊ではない。モンスターも生きているのだと主張する人間がいる。その通りだ。

「我々もまた、生きている!」

 両手で長剣を持ち、渾身の一撃をナインスロートの頭に叩き込む。

 重々しい攻撃はしかし、通らない。

「はああ!」

 すぐにクレナがスイッチ。ナインスロートに対し猛攻を仕掛ける。

 片手剣で盾を持たない人間は主に速度重視で、攻撃は弱いが連撃で補うスタイルが一般的。

 しかしクレナの場合、単純に強攻撃2倍。あまりに恐ろしい攻撃方法だ。

 その代り、集中が削げたり剣が一本落ちれば慣れない片手剣に陥ることになる。

「しぶとい! あと少しなのに!」

 全員の奮闘あって、HPバーはかなり削れている。だが、押し切るにも限界だ。

「死線を潜り抜けて、まだ足りないというのか」

「リーダー……これは……」

 さすがに無理じゃないか。そんな言葉がクレナの喉から出て行きそうだった。

 その時――

「ギュルゴ――」

 わけのわからない声でナインスロートが鳴き、水色の閃光が迸った。

 全員息をのみ、目を見張った。数人がかりでようやく追い込んだ相手に、たったひとりで、それは向かった。

 笑みを浮かべ、攻撃を喰らいながら、大剣を振り下ろす。

「ライムちゃん!」

「戦えない奴は引っ込んでなさい。ここは私で十分よ!」

 大剣を振るうライム。一撃一撃が重いが、隙もある。

 厚めのアーマーに一撃もらうも、ライムは笑っていた。痛みもある。HPが削れる恐怖もある。それなのに、笑んでいた。

 あろうことか攻撃に来た首を小脇に抱え、片手で振り上げた大剣を一気に落とした。

 首が消え、残り一本。

 ライムは続け様にソードダンス。刀身が青色に光、ただの一撃が加えられる。

 《パワージェム》

 ダメージを喰らった分ダメージ量が増加するソードダンスだが、使う人間は少ない。

 なにせ、喰らわなければ弱いからだ。

 首が斬れる。ディレイの最中、ライムはダメージを喰らい続けるが、スイッチもない。回復もない。レッドゾーンギリギリまで何もしない。

 そしてディレイが過ぎた瞬間――渾身のパワージェム!

 九頭竜は全ての首を失い……絶命した。

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