表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/54

全職適正の猛威

「ふあーあ……眠たいな。アーサーのユニットって、こんな行軍をよくやるね」

 長い髪をサラッと軽くといて、クロンは背伸びをした。

 今日の装備は肩口が出た黒いボディスーツにアーマープレート。腰回りの右側だけが長いサイドアーマーで、すらりとしたボディラインが良く見えている。

 大物を狩るクエストに参加しているからには相応の装備を心掛けた結果だ。

「あんたって、ムカつくほどいい体してるわよね」

「女の子の君が、そう言うこと言うかい?」

 鼻を鳴らしてクロンを睨んだライムは、恐らく戦闘が起こっているであろう谷を見ながら小さくつぶやいた。

「私どっちでもいけるから」

「へえ……え、俺男だからいくにしてもせめて男として扱ってよ!?」

「あんたみたいなのがメス堕ちするのも中々人気出るんじゃない?」

「誰に!?」

「この辺りがモンスターのリス地点っぽいけど……っと、ナインスロートが鳴いた。そろそろ来るわね」

「なんで俺が真面目に話を切り返すといつも無視するわけ?」

「来た」

 完全に無視を決め込んだライムは得意の大剣を構える。

 同じように、クロンもバレットM2をもう一度構え直した。

 敵……ゴブリンの群れの中に混じった、緑色の蜥蜴人間――リザードマン。片手剣に盾を装備した、こちら側の『剣士』のオーソドックスみたいな装備だ。

 ちなみに《二刀流》や両手使いのクロンのように盾を持たない剣士は馬鹿扱いされている。

 なにせ、防御と言う利点を捨てている。死ねば死ぬこの世界では愚かでしかない。

「さて、手勢は雑魚が多めよりの多めってところか。サクッと片づけるぞ」

 精密射撃。一撃が途方もない破壊力を持つバレットが次々敵の頭を撃ち抜いていく。

「ウィークポイントをネチネチと。あんたって、みみっちいわね」

「うるさいなぁ。それより――」

 一発狙撃、次いでハンドガンでダブルタップ――二発連続撃ち――を決める。

 弾丸はライムの顔の側面を抜けて、背後のモンスターにヒット。もちろん絶命。

「あんたねぇ! 当たったらどうすんのよ!」

「当てないよ」

「んなのわかるか!」

「当てないよ。君は大切だから」

「んな……あ、ふ、ふん!」

 気合を入れてか、ライムは鼻を鳴らしながら大剣を振り回した。

 クロンが仕留めた数以上の戦果を易々と挙げていくライム。

 クロンのようにソロプレイはしていないが、大手攻略ギルドに属しているわけでもない。

 そこが、同じような上級者であるクレナとの違いだ。

「っていうか、思ったより数多いわね。ふたりで大丈夫なわけ?」

「いや、本来なら大型レイドでローテーションしながらする数だ。間違ってもふたりがぶっ続けでやるもんじゃない」

「じゃあ、向こうに応援貰いましょうよ」

「……いや、俺は攻略したくないんだよ」

「なんでよ」

「……大事な約束を守らずにこっちの世界に来ちまったからさ」

「リアルの話、か。……これに生き残ったら、美味い物でも食べながら話したいもんだわ」

「……そうだな。話すよ」

 二丁拳銃に持ち替え、手あたり次第に敵のウィークポイントをひたすら削る。

 ただ、数が尋常じゃない。

 おまけに――

「おっと、向こうの攻撃もヤバそうだな」

 軽く焦りを募らせたクロンは手早くウィンドウを開いてアイテム欄の武装をクリック。

「よし、こんなもんだろう」

 剣、槍、斧、弓、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル。

 ありとあらゆる武器が、まるで戦争の跡みたいに広がっていった。

「行くか――」

 本当に適当な二種類――斧とサブマシンガン――を持って戦場を駆け抜けた。

 まさかモンスターたちも、右手でソードダンスを放ちつつ弾丸をばらまいてくるプレイヤーに遭遇するとは思っていなかっただろう。

 次々に敵を薙ぎ倒す。スタミナ設定がない世界では精神力が何よりも物を言う。

 ただ、痛みは存在している。なるべくならば攻撃を食らいたくはないところ。

「キリがないわね。つ――」

「ライム、下がった方がいい。一度スイッチしよう」

 ソードダンス、《クイックエッジ》を使う。

 地面を低軌道で蹴って斬撃を食らえる。これをひとくくりとして四度繰り返す技だ。

 ソードダンス後のディレイを消すようにサブマシンガンを斉射していく。

「便利な。って……あれはエクスカリバー……向こうがヤバそうね」

 一応邪魔が入らないように密かな、しかし過熱しきった戦闘を行うクロンとライム。

  たったふたりでモンスターがプレイヤーを殺すためにシステム化した妨害をさらに妨害していく。語り継がれてもおかしくない偉業がなされようとしていた。

「……ライム、向こうの戦列に参加してくれ。ここは俺ひとりでいい」

「冗談。倒せるわけないでしょ、こんな数」

「君のおかげで大分減ってる。それより、あっちがまず……二度目、何を考えているんだ、アーサー」

 アーサーの使うソードダンス《エクスカリバー》は二度放てば使えなくなる。

 HPと違ってMPの回復速度は遅い。つまり……リーダーが戦列から抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ