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初期装備 一緒にクエストしないかい?

 きょろきょろと、クロンはさっき見かけた少女の背中を追った。嫌な予感がした。

 前に一度、デスゲームは経験している。その時もこんな光景を目にした。その時は、酷く嫌な思いをした。

 少女が向かった先は、他の建物とは違って木製の格調高い建物だ。歴史を物語るような別格の雰囲気がある。

 重々しいが実際は自動扉を抜けて、クロンは中を探した。中に人はいない。

 前のデスゲームでもギルドという制度が使われるまでにそこそこの日数がかかった。

 少女は初期装備のまま、ジッとクエストボードを見つめていた。

 考えられるのは、少女がこのゲームを知っている人間。

 もう1つは、早くクリアしたいがために無謀をしようとしている人間。

 悩み、不安気に表情を歪めている少女を見ると、どう考えても前者だろう。

 強くなりたい気持ちは痛いほどわかった。帰りたいと言う気持ちも。

 だが……

「一緒にクエストしないか? 名前はクロンだ。君は?」

「……クレナ」

「そっか。それは今のランクや装備じゃ難しい。こっちにした方が良い。レベルが一番低いから」

「あなた……さっきの時計が言ってた、ゲームを知る人?」

「いや、彼らはたぶんもうここへきてクエストを受けたか、野良でレベルを上げてるよ。こっちは、似たような世界にいたってだけ」

「似たような……」

「デスゲームを経験している。だから、止めておいた方が良い、かな。生きて帰りたいなら」

「……帰らなきゃ、困るの。私は……学校があるし、両親が心配する」

 クロンは何とも言えず、唇を噛んで腕を組んだ。

 そんな時期があったが、今はもう別だった。デスゲームのある世界で生き抜くことを決めて、クリアすることを決めた時、クロンは畔戸塔矢を捨てた。

 クロンとして生きなければ、死んでいた。

「そうだね。早く変えるためにも生き残ろう。このミッションなんか、攻撃が必要なさげな採集クエストだ。初期装備は剣か銃があるけど」

「わからない……ゲームやったことなくって……」

「そっか。ならまずは剣でやってみるか。君のステータスを見せてくれたらありがたい。個人情報だから、本当は簡単に見せるべきじゃないけど」

「どうして?」

「単純に、弱いことがばれると殺されかねない。恐らく死ねばアイテムがドロップするからね」

「人が人を……」

「プレイヤーキル。PKは珍しくないよ。こういう、現実的なデスゲームでもね。

あとは、あの時計が言ってた三要素もだ。

もし他人に譲渡出来たり教えたりできる機能があれば、それだけで狙われる」

クレナはゆっくり頷いたうえで、ウィンドウの出し方を教えてもらいつつ、見せた。


――――――――――――――――――――――――

名前:クレナ

職業:

ランク:A

レベル:1

HP:100

MP:100

筋力:100

敏捷:100

スキル《二刀流》

――――――――――――――――――――――――


「驚いた。クレナは運が良い。恐らくこの初期スキルが異常に優秀なんだろう。ランクがもうAだ」

「すごいの?」

「ああ。どういうスキルかはまったくわからないから、後で確認してくれ。じゃあこのクエストをやろうか」

「うん」

 それから簡単な回復ポーションの素材を集めるクエストをクリアして、報酬に回復ポーションと経験値、エルを入手した。

 クロンが勘で選んだのは、初心者用の初期装備を揃えるためのチュートリアルクエストで、他にもいくつかある。

 どうせだということで、クロンはクレナを色々連れ回した。

 新たにわかったこととして、銃にはないが剣にはソードダンスという能力があり、例えば剣を使い続ければ剣のソードダンスが強化されていく。斧なら斧だ。

「ふう。ざっとこんなもんか。クレナ、明日以降は……あー、なんでもない」

 クロンは思わず口走りかけて止めた。

デスゲームを始める気も、クリアする気もない。ただ、久しぶりに仲間という存在に触れて、気が昂ってしまった。

「また明日よろしくね、クロンさん」

「え、あ、うん、その……」

 ものすごく、言い辛かった。過去のトラウマのせいで、もうデスゲームをクリアする気がないなんて。

 なにせ、クレナは是が非でもクリアしたい組みなのだから。

 でも、それでも、クロンはもう死闘を繰り広げる気はなかった。神にもそう言った。

 ようやく辿り着いた安寧の地でゆっくりスローライフを送りたい。

下手に攻略しようとしなければ、前の経験を活かしてゆっくりスローライフを送ることはできる。

「すまない。ちょっと、ね。色々ある」

「そ、そっか。うん。でも今日はありがと。また良かったらいろいろ教えて。不安だったけど、クロンさんのお陰で助かった。また女の子同士、遊びに行こうね」

 え?

 あまりの衝撃で、クロンは何も言えなくなった。

クレナが笑顔で手を振ってどこかへ行ったところでようやく気づいた。

 今自分はまるで美少女のような容姿。というか長髪なので勘違いされても仕方ない。

 警戒心が強そうなクレナが自分におとなしく従ってくれたのも、全部クロンを女の子だと思ってのこと。

 弁解しようにも党のクレナはもうその場所におらず、残されたクロンはただ途方に暮れるしかなかった。

「なあ、神様。なんでこんな……美少女に?」

 改めてみる必要もなく、かなり女性的な顔立ち、というより美少女だった。

 穏やかに暮らしたいと言うか、デスゲームの表舞台に立つ気はないと言ったのにただ暮らしているだけで十分目立って仕方がない。

 当分身の振り方を気を付けるべきだと、その日からクロンは完全に姿をくらました。

 元からデスゲームに慣れているクロンにとってその選択は難しくなかった。

 この日から、クロンとクレナの物語は一度幕を閉じることになる。

 2人が再び出会うのは、互いに場所を見つけた時だった。

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