宿屋のベッドは寝心地良い
町へ帰ると、喧騒は少しだけ収まっていた。叫び疲れただけで納得は一つもなかった。
「似たり寄ったりの装備。イントロダクションも終わって、さてさて、混乱の後は……いたいた」
ゲームが始まった。その上、このゲームを知る人間がいるらしいと、時計が言っていた。
つまり、知っている人間がそろそろ動き出すはず。
クロンの見立て通り、何人かが素早く動き出した。町から姿を消したのだ。
「そうして今度は、混乱、だろ」
わかりきっているとばかりに、クロンは腕を組んだ。
「とにかく! 町から出るぞ!」
「そうだ、そうだな。ここがどこかも分からない」
「待って、だってここの中が安全なんでしょう? なら動かない方が……」
そして最後はどうなるか。簡単な話だった。
「落ち着いてくれ、皆! ここがどこで、なんでこうなったかは分からない。ただ、私たちはこうして生きている。まずは皆が生き残ることを優先しよう」
思わず苦笑したクロンは手近な建物に足を向けた。
最後に出てくるのは、リーダーだ。
かつてクロンはそこを目指していた。全てを指揮することはできなかったものの、クランと言う集合体のリーダーになることはできた。
だがそれも前の話。本当に今は、デスゲームに関わりたくなかった。
胸くそ悪い過去を思い出してしまう。
「ここが一番安い宿か。案外良心的なゲーム……っと、これはゲームじゃないか」
建物は全員が使用可能な宿などのものから、個人が使用可能なものなど多くある。
この世界での通貨、エルを使う。
レベル5になるまで倒したモンスターからドロップした。
宿屋のベッドに転がった。今頃、リーダー役に付き従う者。袂を分かつ者。混乱するものに別れる。
前の世界と変わらない。
「ふう、居心地が良いな。前の世界じゃ町にモンスターが入らないように自分たちで壁を作った。ここはハンドガンもある」
ハンドガンをぐるっと回して光を反射させた。もう一度、ステータスウィンドウを開いた。
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名前:クロン
職業:ハンドガンナー【S】
ランク:SSS
レベル:5
HP:200
MP:200
筋力:100
敏捷:200
スキル《全職適正》《オートエイム》《オートガード》
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「敏捷性極振りはまずかったかな……でも、ハンドガンなら軽いし……職業の下のやつってなんだ?」
色々調べるため、初期装備の剣を装備して見ると、職業が剣士【S】に変わった。両手装備にするとハンドガンナー【S】と剣士【S】がついた。
「武器を装備するとその適正職業に勝手に変わるのか……なんだこれ」
ステータスウィンドウを閉じた。何か動きがあるまで眠っておくとしよう。
クロンは何となく寝返りを打つと……窓の外で血相変えてどこかへ向かう髪の赤い少女を見た。
何故だかは分からないが、クロンは彼女を追うために外へ出た。




