Reスタート
新作投稿しました。
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「つは――」
少年が目を開けると、痛いほど白い空間が広がっていた。一面雪が積もったみたいだった。
恐らく自分が床に座っていることは分かるが、それ以上は分からない。
「どこだ、ここ……ていうか、魔王は」
『お目覚めだね。クロン君。それとも、畔戸塔矢君の方が良いかな?』
どこからか声が聞こえてきた。懐かしい呼び名に彼は呆けた面を見せた。
「……ああ、すまん。本名で久しく呼ばれてないからわからなかった。ここは……ゲームオーバーかロード画面か?」
少年――クロンは辺りをぐるぐる見渡して、声の主を探した。
落ち着き払っている理由はただひとつ。今をゲームに例えている理由と同じだ。
ついさっき、ようやくデスゲームが終わった。本来の意味での、死の『ゲーム』が。最初からこの混乱を受け入れていた。表情は冷静そのものだ。
『神経系にナノマシンを直接癒着させることで完成した、電子世界と脳が接続するVRシステム。夢の世界。
アニメやライトノベルの世界が実現された。その結果始まったのは何だい?
ログアウトが出来ない。
GMもいない。
ゲームで死ねば本当に死ぬ。そして君はどうなったんだい?」
ゲームウィンドウ、というより大きめのディスプレイが目の前で開かれた。
画面の向こうでクロンは肩で息をしていた。剣を握っている手に力が入らないのだ。
汗で軽く痛む目の前には、筋骨隆々な紫色の巨人が立っていた。
巨人たちを睨み付ける幾人かの勇士たちもまた、一歩も動けないでいた。
豪奢な鎧。剣。杖。身を固めた防具も手に握った武器も、まるで新品のようだ。
巨体の斜め上に表示されたネームプレートには『The Endless』終わりなき者。
皮肉にも、終わりなき者を倒そうとする勇士たちは、このゲームを終わらせようとしていた。
そして、最後の最後、雄たけびを上げながら、咆哮に近い叫びと共に、彼らは襲い掛かった。
最後の一撃を叩きこんだ――
ゲームは終わった。クリアと言う最高の形をもって。
しかし、ゲームを終えたのは……クロンではなかった。
クロンは半ばで殺された。突発的な動きを取ったたった一人のプレイヤー。ゲームの解放者に向けられた攻撃の流れ弾によって。
『これが、君の最期だ。惜しかったね。かなり腕が立つ。
仲間を見つけ、彼らと共に戦い、一緒に旅をして、最後は生き残り戦った者が力を合わせて戦う。良いものだよ、青春というストーリーは何よりも最高の美酒だ。
でも残念だ。あと一歩だったのにね』
「……俺たちは戦った。仲間も……いいや、どうでも良いな。あんな世界でも楽しい時間はあった。信じてた。
生きていれば、俺たちは自由になれるって。
だが、一人ずつ死んだ。最後に俺が残って……
いきなり横から入ってきたやつに全てかっさらわれた。俺たちの夢も希望も、横から」
『嘆かわしいね。じゃあどうする? 君は死んだが』
「天国には行ける予定か?」
『まだ早い。君は死んだが死にきってない。どうだろう、彼らの作った世界で二度目の人生を送るのは』
「二度目?」
『ああ。剣と魔法どころか、君がやっていたゲームで使っていた銃もある。人と言うのは愛らしい。銃は、中々センスがいい』
「銃があるのか? 面白い。だが、デスゲームはもうこりごりだぞ」
『特別な計らいをしてあげるさ。僕も神もどちらでも構わないが』
「特別……まあ何でも良い。んじゃあ、俺を生き返らせてくれるのか?」
『いいや、君は生まれ変わる。クロンとしてもう一度。条件はこっちで決めてもいいかい?』
「背格好は同じにしておいてくれ。射撃や剣で戦う時に体格は同じ方が良い。
あとは、普通にしてくれ。前のデスゲームの時、ゲームバランスを壊す力を持っている奴はとにかく目立っていた。俺たちもな。
結果、どこからともなく出てきたやつに全部持っていかれた。目立たない方が良いしクリアも嫌だ」
『ああ、良いだろう。というより、君の人生だ。もっと条件を出せ。良いのか? 暗闇で宝箱を空けるようなものだ』
「わかりきった人生はもう、ゲームでもない。宝箱開けて死ぬならゲームだな。まさに」
『長くゲームの世界にいすぎたようだ。ああ、君たちにとってあそこは、もうゲームじゃなかったか。では、君をこの言葉で送るとしよう。ゲーム、スタートだ』