九話 錬金術師と俺
日間三位となりました!
これも皆様の応援のおかげです!
一位を目指して頑張りますので、よろしくお願いします!
「起きてくださいなのですーー!!」
翌朝。
ベッドの中でまどろんでいると、いきなりドンドンドンッと乱暴なノックが響いた。
いったい、何の騒ぎだ……?
俺は急いでベッドから飛び起きると、すぐさまドアを開いた。
するとそこには、既に出かける支度を整えたファリスさんが立っていた。
「さあ、薬草採取に行くのですよ!」
「いやいや、まだ早くないか?」
窓の外を見やれば、外はまだ薄暗い。
冒険は朝に動くのが基本とはいえ、いくらなんでも早すぎるだろう。
というか、俺はもうしばらく寝ていたい。
「楽しみにしてたら、目が覚めてしまったのです」
「そう言われてもなぁ」
「もう朝ごはんも用意してあるのです。おいしいですよ?」
言われてみれば、どこからか香ばしい匂いが漂ってきていた。
それに混じって、ほのかに甘い匂いもする。
「今朝のメニューはサラダと目玉焼き、はちみつトーストなのです」
「はちみつ!?」
「え、ええ」
思いっきり食いついた俺に、ファリスさんは少しばかり引いた。
でも、食いつかざるを得ない。
はちみつに限らず、甘いものと言えば昔は貴重品だったからな。
勇者と呼ばれていた俺たちですら、あまり食べられないほどに。
「起きますから、ちょっと待っててください!」
「はいです!」
こうして俺は、すぐさま身支度を整えて朝食へと向かうのだった。
――〇●〇――
「いやー、この時代の飯は本当においしい!」
「何だか、お爺ちゃんみたいなのです」
「え? ああ、知り合いのお爺ちゃんのがうつったのかな? ははは!」
しばらくして。
街を出て森へと向かっていた俺は、うっかり口を滑らせたのを笑ってごまかした。
ただでさえ、薬草の持ち込み過ぎなどで目立っているのだ。
これ以上やらかしたら、本当に正体がばれてしまうかもしれない。
「さあ、着いたのですよ! さっそく薬草採取の必殺技を伝授してほしいのです!」
森の入り口に差し掛かったところで、すぐにファリスさんが催促してきた。
その目はギラギラと輝いていて、せっかくの整った顔立ちが残念なことになってしまっている。
「わかりました。というか、なんでそんなに知りたいんですか?」
「あれ、昨日言ってなかったです?」
「まったく」
俺が首を横に振ると、ファリスさんはぺこっと頭を下げた。
どうやら、理由を伝えることを忘れていたらしい。
まあ、昨日は疲れていたからすぐに寝ちゃったしな。
無理もないか。
「錬金術の研究のために、薬草がどうしても大量に必要なのです。ギルドから購入していたのですけど、それだと凄くお金がかかってしまって」
「なるほど。薬の研究でもしてるんですか?」
「はい! エリクサーを目指して頑張っているのです!」
「エリクサーですか……そりゃまたすごい!」
俺たちとともに旅をしていた、聖女スーシア。
彼女が一瓶だけ、いざというときの切り札として王からエリクサーを託されていた。
死者をも蘇らせると言われる霊薬は、千年前の時点で既に国宝級だったのだ。
キュアすら失われてしまったこの時代では、いかほどの価値があるのか想像すらできない。
「まだまだ、完成には程遠いですけどね。というか、今のところは毒薬ばっかり出来てます。おかげでギルドじゃ、毒の錬金術師とか呼ばれちゃって!」
「まあ……成功に失敗はつきものでしょう。それより、薬草採取を始めましょうか!」
「そうですね! お願いするのです!」
ぺこりと頭を下げるファリスさん。
俺も軽くお辞儀をすると、すぐさま地面に手を押し付けた。
「薬草は、大地の魔力が集まるポイントに群生します。なので、こうやって手を押し当てて魔力の流れを感じてください!」
「魔力の流れ……ですか? えっと、どうすればいいのです?」
おっと、ここから出来ないのか……!
戸惑った顔をするファリスさんに、俺は少しばかりびっくりした。
エリクサーの研究をしているなら、魔法を扱った経験も恐らくはあるはずなんだけどな。
「魔法を使ったことあります?」
「はい! 少しは使えるのですよ!」
「その時に、何かあったかい物を感じませんでした? それが魔力なんですけど」
「ううーん、そう言えばそんな感覚があったような……ちょっと待ってくださいね!」
俺に断りを入れると、何やら詠唱を始めるファリスさん。
やがて彼女の指先に、ポッと小さな明かりが灯った。
魔法を実践して、感覚を確認したらしい。
「何か分かったような気がします! 指に集まってくるグイーンって感じのやつがそうでしょうか!?」
「グイーンじゃよくわかんないですけど、たぶんあってます!」
「おおーー! もっとちゃんと感じられるように、頑張ります!」
元気よく親指を立てると、再び魔法の詠唱を始めるファリスさん。
なかなか、真面目で素直な人である。
素質も悪くはないようだし、この分なら今日中には魔力探知をマスターできそうだ。
俺がうんうんと満足してうなずいていると、不意にファリスさんが尋ねてくる。
「しかし、薬草さんは物知りなのですよ。こんな知識、どこで仕入れたのです?」
「え? えっと、家にたまたま古い本があって。それに書かれてたんです」
「古い本ですか? 珍しいのですよ、古い魔導書はだいたい『禁魔法令』で破棄されたのに!」
「ん? なんですか、その『禁魔法令』って?」
初めて聞く言葉に、思わず聞き返す俺。
するとファリスさんは、心底驚いたように目を見開く。
「し、知らないのですか!? 六百年前のことですけど、超有名なのですよ!?」
「……すいません。なにぶん、未開の村出身で」
「そういう問題なのです?」
「なのです」
「うーん、ちょっと信じがたいのですが、説明しましょう! 薬草さんにはいいこと教えてもらいましたし!」
そう言うと、ファリスさんは何やらもったいぶるように咳払いをした。
そして――
「『禁魔法令』というのはですね。かつて施行されていた、史上最も悪名高い法律なのです。魔法の使用の一切合切を、すべて禁止しちゃったのですよ!」
……そんなことがあったのかよ!
魔法が衰退した原因の一端を知った俺は、おいおいと両手を上げるのだった――。