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八話 世の中は助け合いです

「まさか、薬草が銀貨に化けるとはなぁ……!」


 その日の夕方。

 俺は受け取った銀貨を握りしめながら、ギルドで紹介してもらった宿へと向かっていた。

 袋にいっぱい詰め込んだ薬草は、なんと全部で五十束相当もあった。

 おかげで大銅貨五十枚、銀貨にして五枚ものお金を受け取ることが出来た。

 これで、今日と明日の宿代ぐらいにはなるはずである。


「薬草の群生地なんて、魔力探知が出来ればすぐわかるんだけどな」


 薬草は大地の魔力が溜まる場所に集中して生える。

 なので魔力を探知することが出来れば、苦も無く大量に集めることが可能だ。

 千年前ならば、魔法を習い始めたばかりの初心者でもできたことである。

 薬草の買い取り値を見る限り、今ではこれもできる人間は限られているんだろうなぁ……。


「この千年間に、マジで何があったんだ? 落ち着いたら、調べてみようか……」


 世界にいったい何が起きたのか。

 本格的に調べてみる必要がありそうだった。

 ……まあ、それよりも生活基盤を築く方が優先だけどな。

 せっかく戻ってこれたのだから、何よりも生きていかなくてはならない。


「お、ここか!」


 こうして歩くことしばし。

 俺は目的地としていた宿屋の前へとたどり着いた。

 軒先に出された『黒猫亭』の看板を見て、間違いないと自分でうなずく。

 

「すいません! ギルドで紹介されてきた者ですけど、部屋空いてますか?」


 扉を開けると、カウンターにいた宿の主人らしき男へと声をかけた。

 すると彼は、宿帳を開くと少し困ったように返事をする。

  

「あー、すいません。今日は空きがないんですよ」

「え? 参ったなぁ……」


 この時間でも、まだ空いてそうな宿ってことで紹介を受けて来たんだけどな。

 ここがダメとなると、いよいよ泊まる場所がないぞ……。

 ぽつぽつと明かりが灯り始めた街を見ながら、やれやれと途方に暮れる。

 カイルたちと旅をしていた頃は、野宿なんてしょっちゅうだった。

 だから一日ぐらい何とかならないこともないが、せっかく街にいるのにそれはちょっとな。

 それに、次元のほころびから出て来たばかりで身体もだいぶ疲れている。


「……あ! 薬草さんじゃないですか!」

「はい?」


 宿の前で途方に暮れていると、いきなり声をかけられた。

 振り向けば、大きな三角帽子をかぶった少女が嬉々とした表情でこちらを見ている。

 緑の瞳が、ずいぶんと生き生きしていた。


「薬草さんって、もしかして俺のこと?」

「ええ、あんなに薬草を持ち込む人は初めて見ましたので! 尊敬の念を込めて、薬草さんなのです」

「はぁ……」


 まさか、薬草採取で尊敬される日がくるとは。

 しかもこの感じ、なかなか濃ゆい人だな。

 普通、初対面の人をあだ名で呼ばないぞ。

 俺が薬草を持ち込んだことを知っているということは、とりあえずギルド関連の人だろうか?


「えっと『夜明けの剣』の方ですか?」

「そうですよ! 申し遅れました、錬金術師のファリスなのです!」

「こちらこそ、魔法使いのエイトと申します」


 互いに自己紹介をすると、頭を下げる。

 それを終えると、すぐさまファリスさんが尋ねてくる。


「薬草さんは、こんなところでどうしたのです? ずいぶんと、お困りのようでしたが」

「薬草さんではなく、エイト。実は、宿が満室で」

「ああーー!! この街、旅行者のわりに宿が少ないですからねー。早いうちにとっとかないと、すぐなくなっちゃうのですよ!」


 腕組みをして、うんうんとうなずくファリスさん。

 この街の住人ならば、結構あるあるなことらしい。

 そう言えば、巡礼者とか結構多いみたいだからなぁ。

 俺の地元なんぞ、来たってしょうがないというのに。


「そういうわけでして。ファリスさん、どこかいい宿とか知りませんか?」

「ううーん、今からだとなかなか難しいのですよ。そうだ、もしよければうちに来ませんか?」

「え? いいんですか?」


 予想外の言葉に、思わず聞き返す。

 するとファリスさんは、軽く笑いながら答える。


「はいなのです! 工房兼自宅として、割と広めの物件を借りていますので。部屋には余裕があります」

「それもそうですけど……女性の一人暮らしですよね?」

「そうですよ」

「そこに男を呼ぶって……大丈夫ですか?」


 俺が尋ねると、ファリスさんはスッと距離を取った。

 彼女は身をかがめながら、非難めいた目でこちらを見て言う。


「薬草さん、まさかそういうことをするつもりなんですかっ!? 破廉恥さんなのです!?」

「しませんよ! あと、薬草さんじゃありません!」

「なら問題ないのです。うちのギルドに悪い人はいませんから!」


 きっぱりと言い切ったファリスさん。

 なかなかどうして、結束の固いギルドなんだな。

 ファリスさんの眼には、俺に対して一片の疑いも見受けられなかった。

 そもそも、そういうことをあまり考えないタイプの人間ではありそうだけども。


「じゃあ、お願いします。宿代は、銀貨一枚ぐらいで良いですか?」

「お金なんていらないのですよ! 薬草さんと私は、ギルドの仲間じゃないですか!」

「もう薬草さんで良いです。……そうですね、でもけじめはいると思いますよ」


 親しき中にも礼儀あり、というやつである。

 あまりそういうところをなあなあにしておくと、あとで困るからな。

 グダグダになって大変な目にあったパーティーを、いくつも知っている。


「……だったら、一つお願いを聞いてもらっていいのです?」

「なんでしょう?」

「その、私に……」


 一拍の間。

 いったい、何を言い出すのだろう?

 俺が固唾をのむと、その次の瞬間――


「薬草採取の必殺技を、教えてほしいのです!!」

「……おおう」


 必殺技ってなんだ、必殺技って!

 何とも言えないお願いに、俺は少し困り顔をするのだった――。


日間ハイファンタジーランキングの4位となりました!

これも皆さんの応援のおかげです!

今後とも、なにとぞよろしくお願いします!

感想・評価など頂けるととてもうれしいです!

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