七話 依頼に行こう!
「こちらが『夜明けの剣』の一員であることを示す短剣です。大事なものなので、絶対に無くさないでくださいね!」
ロロナさんたちに魔法を披露してから、二十分ほど後。
無事にギルドへの加入を認められた俺は、受付の女性から短剣を受け取った。
何でも、この『夜明けの剣』に所属するものは身分証明として揃いの短剣を持つのだとか。
初代ギルドマスターが、高名な剣士だったことに由来しているらしい。
さっそく、腰のベルトに通して佩いてみる。
「これでよしと」
「おお、なかなか様になっているではないか!」
「ありがとうございます」
「これでおぬしも、正式に我々の仲間だ! これからの活躍、大いに期待しているぞ!」
腰に手を当てて、うんうんとうなずくロロナさん。
彼女の言葉に合わせて、そこかしこから拍手が聞こえてきた。
……これはまたすごい歓迎ぶりだなぁ。
「頑張れよ、新入り!」
「期待してるぜー! 時間があったら、飯でも行こうや!」
「剣士が必要な時はぜひ呼んでくれィ!」
「はい!!」
次々と声をかけてくる冒険者たち。
人がいいのか、それとも初心者のうちから囲い込もうとしているのか。
どちらか分からないが、俺への熱意が半端ではなかった。
中には必死過ぎて、目が血走っているように見える者までいる。
すると、ジークさんがうんざりしたように言う。
「お前たち、少しは静かにせんか! エイト君が戸惑ってるだろう!」
「す、すいません!!」
さすがは歴戦の強者。
威厳溢れる一喝に、その場の冒険者たちは見事に静まった。
するとここで、タイミングを見計らったように受付の女性が声をかけてくる。
「気にしないでくださいね。ジークさんがみんなを怒るのなんて、いつものことですから」
「はぁ……」
「それより、依頼書の束を持ってきましたよ! 初依頼、どれになさいます?」
カウンターの上にドンッと置かれた依頼書の束。
あまりに分厚いそれは、束というよりはもはや山と形容するのがふさわしかった。
街の人々に信頼されているとは聞いていたが、本当にあれこれ頼まれてるんだな。
「えっと、そうですね。いまお金が全然ないので……できれば今日中に報酬を受け取れるものがいいです」
「なるほど。そうなるとかなり絞られてしまいますけど、いいですか?」
「はい」
「ちょっとお待ちくださいね」
片眼鏡をかけると、依頼書に目を通していく女性。
さすがはプロというべきか、凄まじいばかりのスピードである。
山のような依頼書の束が、あっという間に取り分けられていく。
「……うーん、やはりあまりいい依頼はないですねえ」
「あ、これなんて凄くないですか!?」
パラパラとめくられた依頼書のうち、一枚が目についた。
――ペットの捜索依頼、報酬は金貨三枚。
内容の割に、驚くほどの高額報酬である。
しかもわざわざ、報酬はすぐに支払い可能とまで書かれている。
「あー……この依頼はやめておいた方がいいですよ」
「どうしてです? やっぱり、報酬が高すぎて怪しいとか?」
「いえ、その点は大丈夫なんです。依頼主のマリーヌ様は有名な大店のご夫人ですから」
「では、なぜ?」
「…………このペットというのが、ロックゴリラなんです」
ロックゴリラと言えば、大きくて凶暴な魔物である。
そりゃ、ペットと言えども高額依頼になるはずだ。
というか、あんなのをペットとして飼うなんてどういう趣味をしているんだか……。
逃げたのはかなり前のことのようだし、捜すのもかなり大変そうだ。
「遠慮します」
「ですよね。となると……やはりこれでしょうか。実力に見合ってないようで、申し訳ないのですけれども」
そう言って女性が差し出してきたのは『薬草採取』と書かれた依頼書であった。
報酬欄には、一束につき大銅貨一枚と記されている。
「えっと、銅貨何枚あれば宿に泊まれます?」
「はい? 大銅貨五枚もあれば、だいたいの宿には泊まれますが……」
「すごッ!?」
あまりのレートにびっくりしてしまう。
薬草なんて、ちょっと森の奥に行けばすぐに見つかるじゃないか。
魔力の溜まる場所に集まる性質があるから、わざわざ探し回らなくてもいいし。
ちょっと、儲かりすぎやしないか?
「ホントに、このレートなんですか?」
「ええ。なので、滅多に受ける人もいなくて」
「それは……」
おかしいと言いかけて、口をつぐんだ。
なにせ、ここは俺の居た時代から千年も経過しているのだ。
雑草同然に生えまくっていた薬草も、もしかしたら千年の間に絶滅の危機を迎えたのかもしれない。
「とりあえず、これを受けます」
「わかりました! では初依頼、頑張ってくださいね!」
みんなに笑顔で送り出される俺。
そして数時間後、無事に薬草採取を終えて戻ると――
「……なんですかーー!? その山は!?」
背中の袋にどっさりと詰め込んだ薬草の山。
それを見た受付の女性は、思いっきり声を上げるのだった――。