十九話 仲間たちの祝福
「例の爆発は、そなたがやったというのか!? それでゴブリン三千匹を吹き飛ばしただと!?」
思い切り目を見開き、ひきつった表情をするロロナさん。
取り巻きの冒険者や受付の女性も、彼女と同様に驚いた顔をしていた。
彼らの額には、じんわりと脂汗が浮いている。
いろいろ悩んだのだが、俺はギルドの皆に自分が魔法を使ったことを明かすことにした。
村の人々には既に伝えてあることだし、黙っておいてもいずれバレる。
それならば、早いうちに自分から伝えておいた方がいいと考えたのだ。
何か後ろめたいことがあるとか疑われても、困るしな。
「はい。村に行けば、証言してもらえると思います」
「信じられん……。いくら何でも、人にできる規模ではないぞ」
「いえ、間違いないのですよ! 私も見たのです!」
「私も確認した、間違いないぞ」
さすがに信じられない様子のロロナさんに、すかさずファリスさんとコーデリアさんが言う。
二人の真剣な表情に、疑ってかかっていた冒険者たちも身を引いた。
ざわめきがギルド全体へと広がっていく。
「おいおい、本当か?」
「ゴブリン三千匹って、軍隊かよ……?」
「いったい、どんな魔法を使ったんだ!? 教えてくれ!!」
次第に大きくなっていく動揺。
やがて何人かの冒険者が、俺に質問を投げかけてきた。
彼らへの答えに窮していると、ロロナさんがパンパンと手を叩く。
「静まらんか!!」
一喝。
ロロナさんの小さな体に見合わぬ迫力のある声に、たちまち冒険者たちは騒ぐのをやめた。
彼女はコホンと咳ばらいをすると、改めてこちらを見て言う。
「もう一度聞くが、エイトの魔法なのだな?」
「ええ。間違いないです」
「うーむ……嘘を言っているわけではなさそうだ。そなた、それほどの魔法を一体どこで覚えた?」
「たまたま、村に古い魔導書が残されていまして」
おなじみの言い訳をすると、ロロナさんは渋い顔つきをした。
そんなわけないと思いつつも、他に説明のしようがないと言った雰囲気だ。
まあ、千年前の人間が生きているなんてありえないことだからな。
「……ひとまず今回の招集は中止だ。原因がエイトならば、ギルドの脅威とはなり得ないだろう」
「ありがとうございます」
「しかし、ゴブリンとはいえ三千匹を吹き飛ばすとは! その魔法、ぜひとも見たかったものだ!」
「違いない! きっとすごかっただろうなあ!!」
ロロナさんにつられて、ああだこうだと俺の魔法を予想し始める冒険者たち。
最初の疑いはどこへやら、みんなで俺たちの行為を祝福してくれるらしい。
さすがの俺も、ちょっとばかり予想外でぽかんとしてしまう。
「あの……いいんですか!?」
「何がだ?」
「俺の魔法、自分で言うのもなんですけどとんでもないと思います。こう、もっと調べるとか……」
「そんなもの、性に合わん! そなたはギルドに害をなすわけではないのだろう? ならば、新たな強者を歓迎するだけだ」
ハハハッと豪快に笑うロロナさん。
ほかの冒険者たちも同様に、いいぞいいぞと盛り上がる。
細かいことを気にしなさすぎるというか、なんというか……!
あれこれ誤魔化そうと考えていた自分が、少しばかり小さく思えてくる。
「ま、これがうちのギルドなのですよ。細かいことは気にせずに、楽しいことは思いっきり楽しむ! それが夜明けの剣の流儀なのです!」
「へえ……!」
「ただ、馬鹿が集まっただけともいうがな」
両手を上げ、やれやれと言った様子のコーデリアさん。
しかし、その顔はまんざらでもなさそうだった。
なんだかんだ言って、このギルドって居心地はいいんだよな。
「よし、お前たち! 懸案がなくなった祝いだ、ギルドのおごりで一杯だけ飲ませてやろう!」
「おおおーー!! やったぜ!!」
「さすがマスター、気前がいい!」
たちまち始まるどんちゃん騒ぎ。
俺はそれを横目で見ながら、そっとカウンターの方へと歩いて行った。
今のうちに、報酬をきちんと受け取っておかないとな。
「すいません、報酬の支払いをお願いします」
「あ、はい!」
ぼんやりしていたのか、少し返事が遅れた受付の女性。
宴会に参加したかったのだろう、騒ぐ冒険者たちの方へと視線が向けられている。
「では、こちらが報酬の金貨三枚になります!」
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
「あ、薬草さん! そんなところにいたのですか!」
手続きを済ませたところで、ファリスさんが話しかけてきた。
普段は色白の顔が、ほんのりと朱に染まっている。
こりゃまた、ずいぶんとハイペースに飲んだようだな……。
既に息まで酒臭かった。
「薬草さんもどんどん飲むのですよ! こういう時は、飲まなきゃ損なのです!」
「はいはい、いただきます」
言われるがままに、グラスに注がれた酒を飲む。
おおー、こいつは美味い!
千年の間に、ずいぶんとワインも進歩したものだ。
いや、千年も経っているしまた違うものなのか?
いずれにしても、こいつはいい!
「いい飲みっぷりなのですよぉ! ささ、もっともっと!」
「はい!」
「よーし! レイラさん、一番いいの出してくださいなのです!」
「お金、ちゃんとあるんですか? ……ああ、ちょうど報酬が入りましたものね」
そう言うと、受付の女性ことレイラさんは奥の棚から上物の酒を取り出してくれた。
これは……なかなかに高いのではないだろうか?
ラベルの古び方からして、数十年ものであることは間違いない。
「ささ、行くのですーー!!」
景気良く、グラスに酒を注ぐファリスさん。
そして数時間後――
「私のお金がーーーー!!」
膨れに膨れた酒代をレイラさんから聞いて、盛大に悲鳴を上げるのだった――。
面白かった!
続きが見たい!
更新早く!
と思ってくださった方は、感想・評価・ブックマークなどくださるととてもうれしいです!
今後ともぜひぜひよろしくお願いします!