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十七話 分け前は均等に

「このたびは、わが村を救っていただきありがとうございました!」


 翌朝。

 俺たちはお礼がしたいという村長さんに呼ばれて、村の広場へとやって来た。

 するとあらかじめ集まっていた村人たちから、感謝の言葉が次々と投げかけられる。

 中には、目に嬉し涙を浮かべている人までいた。

 それなりのことをしたとはいえ、たいした感動ぶりである。

 少しばかり、照れくさくなってしまう。


「これは、些少ではございますがお礼です。お受け取りを」

「わッ……!」


 村長さんから差し出された袋を開くと、中には金貨がぎっしりと収められていた。

 ざっと三十枚ほどはあるだろうか。

 いくら村を救ったとはいえ、ちょっと多すぎじゃなかろうか?

 これだけあれば、大人一人が一年ぐらいは暮らしていけるぞ……!


「さすがにこんなにはいただけませんよ!」

「いえいえ! ゴブリン退治の相場から考えると、少ないぐらいです!」

「何と言っても、三千匹ですからねぇ……」

  

 腕組みをしながら、うんうんとうなずくファリスさん。

 コーデリアさんも当然だと言わんばかりに同調する。


「普通は、ゴブリン三千匹の討伐などできることではないからな。当然の権利だろう」

「……わかりました。じゃあ、三等分しましょうか」

「待て待て!! それはできん!」

「そうですよ! 今回は薬草さんしか働いてないのです! 報酬は全部、薬草さんのものなのですよ!」


 二人はとんでもないとばかりに、俺が差し出した袋を突き返した。

 しかし、その視線はちらちらと返したはずの布袋の方に向けられている。

 これだけの大金、何だかんだ言ってもやはり気になるらしい。

 ファリスさんに至っては、口の端からよだれがこぼれそうになっている。

 欲しそうだ、ものすごく欲しそうだ!

 

「……みんな頑張ってましたし、三等分しましょうよ。ファリスさんの足止めが無かったら、あの魔法は使えませんでしたしね」

「ありがとうございますーー!! 薬草さん、一生ついていくのです!! この御恩、いつか必ずお返しするのですよ!!」


 待ってましたとばかりに、ファリスさんは手を叩いた。

 彼女は心底嬉しそうな顔をすると、分け前の金貨十枚を受け取る。

 

「これで、家賃と税金が無事に払えるのですよ……! 首の皮一枚つながったのです!」

「臨時収入がなくても、そう言うのはちゃんと払えるようにしときましょうよ」

「ポーションを作るはずが、いつの間にか王水が出来ていて売れなかったのです!」


 えへへっと頭を掻くファリスさん。

 明らかにミスで済むような次元ではない気がするが、彼女の工房は一体どうなっているんだろうか?

 賢者として、いろいろと興味がわいてきたぞ……!


「わ、私は結構だぞ! 今回は、村人の避難を手伝っただけだからな! 新しい鎧を買うのに金が必要だとか、そんなことは断じてない! 先日、うっかり飲み過ぎて酒場につけがあるなんてこともない!」

「では、ありがたく俺が貰っておきますね」

「えッ!?」


 俺が袋を引っ込めると、コーデリアさんは驚いて目を見開いた。

 彼女は俺との距離を詰めると、捨てられた子犬のような顔をする。

 青い瞳が、うるうると潤んでこちらを見上げた。

 それに合わせて、村の人たちまでもが請願するような目でこちらを見てくる。

 いや、わかってますから!

 ちゃんと分けるよ、すごくよく働いていたって村の人に聞いたし!


「……冗談ですよ。はい、どうぞ」

「おおお!!」

「大事に使ってくださいね」

「もちろんだ、感謝するぞ! これで、これでとうとう鎧が買える……! 私も水着を卒業するのだな!」

「あー、魔力制御を習得してからじゃないと危ないですけどね。……って、聞いてない?」


 目をキラキラ輝かせるコーデリアさんは、もうすっかり上の空だった。

 かすかに「鎧……鎧……!」と声を弾ませているのが、少しばかり不気味だ。

 やれやれ、喜んでもらえたのは嬉しいけど手間がかかるなあ。

 

「ふう……。じゃあ村長さん、そろそろ俺たちは失礼します。トトさんを待たせているので」

「はい! ぜひ、またこの村へ遊びにいらしてください。歓迎いたしますぞ!」

「ええ、ではまたの機会に。ほら、二人とも行きますよ!」


 二人の肩をポンポンと叩くと、そのまま手を引いて村の入り口に止められた馬車へと向かう。

 まったく、保護者か何かにでもなったような気分だ。

 けど、金貨三十枚は本当にありがたいな。

 これだけお金があれば、高価な魔導書なども買えるぞ!


「ああ、すいません! 一つ忘れていました!!」


 馬車に乗り込もうとしたところで、村長が慌てて駆け寄ってきた。

 彼は懐から風呂敷包みを取り出すと、俺にサッと手渡してくる。

 これは、お菓子か何かか?

 布を開いてみると、そこには――


「わッ!? なんだこれは!?」

「これ、山賊が持ってたやつじゃないですか! こういうの渡すときは、事前に言ってください!」


 中に入っていたのは、黒くていびつな形をした不気味な腕輪であった。

 髑髏を模したような装飾が、中央に施されている。

 その目は赤く輝き、強い魔力を感じさせた。

 しかも、その裏側に刻まれている紋章は魔王のものにどことなく似ている。

 こちらのほうが、ちょっとばかり豪華に見えるけども。


「すいません、慌てていたもので……」

「もう、心臓に悪いのですよ……」

「まったくだ。趣味が悪い」

「ははは……こちらなのですが、いかんせん我が村では持て余しそうでして。もしよろしければ、お持ちいただけませんか? それなりに価値はあるかと思います」

「うーん……」


 腕輪を手に取ると、仔細にその様子を観察する。

 見たところ、呪いはかかっていなさそうであった。

 価値があるというのも本当だ、こういう呪物のようなものは買うと意外とお高い。

 ましてこの時代なら、相当に値上がりしているかもしれない。


「そう言うことなら、貰っておきますよ」

「ありがとうございます」


 そう言うと、俺は受け取った腕輪を袋の中へとしまった。

 そして馬車に乗り込むと、すぐさま御者台のトトさんが声をかけてくる。


「よし、行くぞ!」

「はい!」


 こうして俺たちは、村を後にするのだった――。


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