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十五話 嘘のような真実もあるらしい

「やれやれ、やっとだな!」


 ノースフォスの街を旅立ってから、およそ二日。

 俺たちを乗せた馬車は、ようやく最初の目的地であるノルド村にたどり着いた。

 今日は一日この村に滞在して、宿をとることになっている。

 

「ふぅ~! やっと宿で泊まれるのですよ!」

「久しぶりに湯あみができるな!」


 うきうきした表情をするファリスさんたち。

 たかだか二日ほどではあるが、もう宿が恋しくなっていたらしい。

 特にコーデリアさんは、風呂に入れると興奮しきりだ。

 一応、旅の途中でも水で身体を拭いていたが、それだけでは不満があったらしい。


「さあ、ここらで降りてくれ!」


 村の中央に位置する広場。

 その入り口に差し掛かったところで、トトさんは馬車を止めた。

 俺たちが荷台を降りると、彼はすぐさま敷物を広げて店の支度をする。

 たちまち、馬車を見つけた村の人々が集まってきた。


「いやー、よかったよかった! 助かったよ!」

「トトさんが来てくれたら、もう安心だ!」

「聞いてよ! ほかの人たちときたら、しばらくうちの村には来られないって言ってきたのよ!」


 トトさんが持ってきた魔水晶を見て、口々に騒ぐ村の人々。

 話を聞いていると、どうやら他の行商人たちは山賊の被害を恐れてこなくなってしまったらしい。

 恐らくは、俺たちがあったやつら以外にも山賊が跋扈してるんだろうな。

 あの手の連中は、一人見たら三十人はいるものだし。


「結構、事態は深刻みたいですね……」

「そうみたいなのですよ。山賊さんにも困ったものなのです」

「一体、何が起きているのだ……?」

「誰かが集めてるんだよ、魔水晶をな」


 俺たちのつぶやきに、トトさんが答えてくれた。

 彼は魔水晶の入った木箱を下ろしながら、忌々しげな顔をして言う。


「風の噂に過ぎないが、何者かが山賊どもに金を与えて魔水晶を集めているらしい」

「どうしてそんなことするのです? 魔水晶が欲しいなら、お店で買えばいいのですよ?」

「魔水晶は、大規模魔法の発動にも使うことが出来るからな。大量には買えないように、制限が厳しいんだよ」


 なるほど、千年の間にそういうところは進歩したんだな。

 俺が活躍していた頃は、魔水晶から一気に大量の魔力を絞り出す方法は確立されていなかった。

 魔法に関する技術はほぼすべて衰退したと思っていたが、進んでいるところもあるようだ。


「少し、気になりますね……」

「ま、俺たちが心配しなくてもお上が何とかしてくれるさ。そのために高い税金を払ってるんだからなっと!」


 そう言うと、準備を終えたトトさんはパンパンッと手を叩いて開店を告げた。

 たちまち多くの村人が魔水晶を求めて殺到する。

 千年前と比べて、魔法道具が広く普及したらしい今の時代。

 魔水晶は生活物資としてなくてはならないものとなっていた。


「さて。商売の邪魔をしないうちに、宿へ行くのですよ」

「そうだな。早く風呂に入りたい」

「この時間からお風呂って、さすがに早くないですか?」


 俺が呆れてそう言うと、コーデリアさんはムッとした表情をした。

 彼女は腰に手を当てると、ズイっと身を乗り出して言う。


「女にとって、風呂は大事なのだ!本来ならば、一日二回は風呂に入りたい!」

「コーデリアさん、汗っかきですもんねえ。体温高いですから」

「う、うるさい! 余計なことを言うな!」


 顔を真っ赤にすると、コーデリアさんはそのまま背を向けてしまった。

 そして、つかつかと宿に向けて歩き出す。

 俺たちもそのあとを追って、村の宿屋へと向かうのだった。


 ――〇●〇――


「お腹いっぱいなのですーー!!」


 膨らんだお腹をさすりながら、満足げな顔をするファリスさん。

 その日の夕方。

 俺たち三人は、村の宿で食事を楽しんでいた。

 トトさんは村長の家でご厄介になるとかで、今は別行動である。


「ファリス、食べ方が汚いぞ。口の周りが汚れている」

「そう言うコーデリアさんだって、野菜を残してるじゃないですか」

「こ、これは……!」


 コーデリアさんの手にしている木の器。

 もともとシチューが入っていたそれには、ニンジンだけがぽつんと残されていた。

 ずいぶんと丁寧に取り除いたようで、ほんの小さなかけらまで食べずに残している。


「別にニンジンぐらい食べなくても、人は死なん!」

「死にはしませんけど、残さず食べた方がいいと思うのですよ? 何でも食べるのが健康への近道なのです!」

「くッ、いつもは妙なことばかり言っているのに……!」


 ファリスさんの正論に、渋い顔をするコーデリアさん。

 旅に出てからは、攻守こそたまに入れ替わるがだいたいいつもこの調子である。

 果たして、相性がいいのか悪いのか。

 いずれにしても、よくしゃべる。


「まあまあ。明日も早いんですし、そろそろ寝ますよ」

「はーい、わかったのですよ。コーデリアさん、明日の朝食こそニンジン食べてくださいね?」

「……わかった」

「さ、部屋はこっちです。俺とファリスさんたちとでは、別ですけどね」


 そう言うと、俺は食事の後片付けを始めようとした。

 だがここで――


「何だ、この音は!?」

「半鐘だ! この鳴らし方は……魔物か!!」

「行くのですよ!!」


 大急ぎで、宿の外へと飛び出す。

 そしてすぐさま、村の入り口へと向かった。

 すると、何かの群れが蠢きながらこちらに迫ってきている。

 草原を埋め尽くすその数は、百や二百では効かない。

 少なくとも千の単位であることは間違いなさそうであった。


「あれは……まさかゴブリンか!?」

「う、嘘なのですよ!? いくらなんでも多すぎるのです!?」

「いや、ゴブリンだ。この感じからすると……何かで召喚されたのか?」


 かすかにだが、迫りくるゴブリンの群れから魔力の気配がした。

 しかも、ゴブリンが本来持つ魔力とは明らかに性質が異なっている。

 そのかすかな残滓をたどっていくと、そこには――


「どうだ! 確かに三千人、連れて来たぞ!!!!」


 ひどく不格好な腕輪を手に吠える、いつぞやの山賊の姿があった――!


14000ptを超え、第一の目標であった15000ptまであと1000ptを切りました!

これも読者の皆様のおかげです!

これからも更新していきますので、どうかよろしくお願いします!

少しでも面白いと思った方は、ブックマーク・評価など頂けるととても嬉しいです!

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