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十四話 山賊VS女騎士

「面倒なことになったな……!」


 次々と姿を現す盗賊に、思わず眉をひそめる。

 平和そうな森に、まさかこれほどの数の賊が潜んでいるとは。

 おまけに、数が足りないとはいえ馬まで保有している。


「積み荷を全部置いていけ! 命だけは助けてやらァ!」

「山賊の要求など呑めるか!」

「そうなのですよ! この私が、成敗してやるのです!」


 そう言うと、ファリスさんは床へと手を伸ばした。

 白く小さな手が、ペタペタッとささくれ立った床を触る。


「……あ! 馬車に乗ってたら、石が拾えないのですよ!! ど、どうしましょう!?」

「馬鹿!! こんな時に何をやっているのだ!」

「しょ、しょうがないじゃないですか! 投石初心者なんですよ! ええい、こうなったら……」


 ファリスさんは懐をまさぐると、どこからともなくガラス製の容器を取り出した。

 いったい、身体のどこにそんなものを収めていたのだろうか。

 円筒形をしたそれは、拳がすっぽりと収まるほどの大きさがある。

 そしてその中には、ブクブクと泡立つ蛍光色の液体がたっぷりと詰まっていた。


「こいつでまとめて駆逐してやるのです!!」

「やめてくれ!!」


 俺とコーデリアさんの声が重なった。

 あんな得体のしれない液体をぶちまけたら、いったい何が起こることやら。

 山賊の全滅はおろか、こっちまで巻き添えを食らいかねない。


「私が斬り込む! エイトは支援をしてくれ!」

「わかりました! 任せてください!」

「私はどうすればいいのです!?」

「……馬車を守ってくれ! いざというときは、さっきのやつを使って構わん」

「はいですよ!」


 それだけ言うと、コーデリアさんは勇んで馬車から飛び降りた。

 この指示の出し方、なかなかに戦い慣れているようだな。

 カインと一緒に旅をしていた頃を思い出す。

 あいつの指示のもと、みんなでよく戦ったものだった。


「これはまた、美人の姉ちゃんが出てきたなァ! 山賊やっててよかったぜ!」

「その美人に切り捨てられるのだから、世話はないな」

「この人数を相手にか?」

「できるとも」


 コーデリアさんは剣を抜き、構える。

 それに合わせて、俺は支援魔法を唱えた。


「剛力なる大地の神よ、その矛を子らに与えよ! アルマ!!」


 床を覆いつくすかのように、二重の魔法陣が広がった。

 そこから伸びた光が、コーデリアさんの身体を白く包み込む。

 アルマ――対象者の筋力を、一時的に大きく上昇させる支援魔法だ。

 初級に分類されるものだが、賢者と呼ばれる俺が使うと結構な効果になる。


「はあァ!!」


 それを受けて、コーデリアさんが剣を振るう。

 大ぶりのバスターソードが、ブオンッと音を立てて宙を裂いた。

 するとたちまち、山賊たちの身体が弧を描いて飛ぶ。


「え……?」

「う、嘘だろ!?」

「このアマ、バケモンか!?」

 

 こちらに向かって来ようとしていた山賊たちの動きが、ピタリと止まった。

 やがて奴らは、武器を構えたままジリジリと後退していく。

 それと向かい合うコーデリアさんもまた、動きが止まっていた。

 自分のしたことが、うまく理解できていないらしい。

 しまった、もっともっと弱くて良かったか……!


「ええ!? コ、コーデリアさん凄すぎなのです!?」

「いや、これは違う! エイトの呪文を受けたら、いきなり力が――」

「さすがなのですよ! 伊達に脱いでないのです!」

「それとこれとは関係ない!!」


 ファリスさんの言葉に、たまらずツッコミを入れるコーデリアさん。

 彼女はやれやれとため息をつくと、再び山賊と向き合った。


「気を取り直して。……さあ、山賊どもかかってこい! 斬られる覚悟があるのならばな!」

「ちィ! 仕方ねえ、今回は見逃してやる! だが覚えておけ!」


 何やらもったいぶって間を空けると、山賊の頭は咳払いをした。

 そして、これでもかと言わんばかりに格好をつけて言う。


「俺たちの山賊団には、三千名の団員がいる!! 次に会うときは、そいつら全員連れて行くからな! 覚悟しておけよ、クソアマ!!」

「……そうだな、連れてこれるならな」

「さては信じてねえな!? 言っておくが本当だぞ!! あとで『くっ! 殺せ!』ってお願いされてもちゃんと殺してやらないからな!」

「そんなこと、この私が言うか! だいたいどういうシチュエーションなのだ!」

「あばよ!」


 コーデリアさんの叫びも聞かないうちに、山賊たちは恐るべき速さで逃げだしていった。

 三人乗りだというのに、よくあれだけ走れるもんである。

 みるみる小さくなっていく背中を見ながら感心していると、コーデリアさんが戻ってくる。


「ふう、大したことのない奴らでよかった」

「まったくなのですよ。私が石を持ってさえいれば、一撃で全員仕留めていたのです!」

「それは無理だろ。……しかし、さっきのあれは何だったんだ? あの支援魔法を受けた途端、全身から力があふれて来たぞ。あんなこと、上級魔法でもありえん!」


 ひどく驚いた様子で、コーデリアさんは俺の方を見てきた。

 よっぽど刺激的な体験だったのだろう、その目は輝いて見える。


「一体、どこで習得した魔法なのだ!? ぜひとも教えてくれ! 素晴らしい!」

「えっと……田舎の凄い魔法です」

「は?」

「俺の田舎、田舎過ぎて禁魔法令の時代にも目を付けられなかったらしくて。いろいろと古い魔法の資料が残ってたんですよ」

「……そうなのか?」


 声が若干低かった。

 さすがに、言い訳にも無理があったか……!

 コーデリアさんは、明らかに訝しげな表情した。

 俺が何かを隠そうとしていると、疑い始めているようだ。

 すると――ここで何故だか知らないが、ファリスさんが語り始める。


「あー、私は聞いたことがあるのですよ! 大陸の端に、古の神秘を伝える村があるって!」

「む? それはどこでだ?」

「酒場のおじさんなのですよ! いいこと聞かせてやるって言われたので、銅貨三枚払ったら教えてくれました!」

「…………ファリス、お前はもう少しいろいろ考えた方がいい」

「そうなのです?」


 きょとんとするファリスさん。

 その肩をわしづかみにすると、コーデリアさんは延々と言い聞かせるように語り始める。

 ……やれやれ、ひとまずはファリスさんに助けられたな。

 こうして俺たちは、どうにか無事に山賊襲来を乗り切ったのであった――。


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