十二話 龍の血をひく少女
その少女の格好は、どこからどう見ても水着か下着にしか見えなかった。
特に腰のあたりなんて、ローライズすぎていろいろときわどく見える。
胸元も、突き出した膨らみが今にも零れ落ちそうだった。
手足こそ金属製の籠手やグリーブに包まれているが、とても騎士の格好には見えない。
「……ホントに騎士ですか?」
「さっきから言っているだろう。それとも、この剣が目に入らないのか?」
腰に佩いた剣の柄を、これ見よがしに擦る少女。
確かに、なかなか立派な拵えをした剣である。
これだけ見れば、騎士が持っていても不自然ではない。
「でもなあ……」
「あ、思い出しました! やたらと脱ぐ騎士の人がいるって、噂で聞いたことあるのです!」
「別に、好きで脱いでいるわけではない! これには理由があるのだ!」
声を大にして叫ぶ少女。
彼女はそのままゴホンゴホンと咳ばらいをすると、自己紹介を始める。
「私の名はコーデリア。火龍の血をひく由緒正しき騎士だ」
「あ! 私は錬金術師のファリスです!」
「俺はエイト、魔法使いです。……それで、何で脱いでるんですか?」
「脱がないと死ぬからだ」
理由になっていないというか、すごく危ない発言に聞こえるぞ……!
俺とファリスさんは、揃って顔を見合わせた。
そして、少し可哀そうな人を見るような目をする。
するとコーデリアさんは、自分でも発言が危ないことに気づいたのか顔を真っ赤にする。
「そ、そういう意図の発言ではない! 脱がないと、本当に死んでしまうのだ。物理的に!」
「はぁ……? どうしてなんです?」
「私は火龍の血をひいている。そのおかげで、常人より優れた身体能力を持っているのだが……一つ困ったことがあってな。体温が上がりすぎるのだ」
そう言うと、コーデリアさんはこちらに向かって手を差し出してきた。
ゆっくりと触れてみれば、確かに熱い。
普通の人間ならば、倒れてしまってもおかしくないほどだ。
それと同時に、彼女の中で滾る大きな魔力を感じる。
火龍の血をひいているというのは、ハッタリではないらしい。
見た目や体は人間だが、魔力の質は龍そのものだ。
「あっついのです!? お熱、大丈夫なのですか!?」
「平気だ、これが私の平熱だからな。もっとも、鎧を着て戦っているとさすがに参ってしまう」
「それでその恰好というわけですか……」
「全く面倒な体質だよ。おまけにこの体形だ、痴女扱いされたりそういう商売をしていると思われたり散々だ! ひどいときにはな、男に黙って金貨を握らされるんだぞ! これがどれほどの――」
よっぽど溜まっていたのか、延々と語り続けるコーデリアさん。
唇が息つく暇もないほどに動き続ける。
そして数分後、ようやく落ち着いた彼女はフーッと深呼吸をした。
「とにかく、大変だったのだ……」
「あはは……人にもいろいろあるのですよ……」
「それでどうだろう? パーティには入れてもらえるだろうか?」
コーデリアさんはこちらとの距離を詰めると、やや不安げな顔で尋ねてきた。
服装が原因で、これまでいろいろと言われてきたのだろう。
その表情に自信はなく、声色も暗かった。
「それはもちろん! いいですよね、ファリスさん?」
「はいなのですよ! 私もいろいろと言われてきましたからね、お気持ちわかるのです!」
「おお! 感謝する!」
再び、俺たちに向かって手を差し出すコーデリアさん。
俺とファリスさんは、その手をがっしりと握りしめた。
パーティの結成、無事に完了である。
思ったよりも大変だっただけに、自然と顔から笑顔がこぼれる。
「さて! そうと決まれば、早速依頼を受けるのですよ!」
「ええ! それから、コーデリアさん」
「なんだ?」
「その体質は、恐らく龍の魔力を制御しきれてないことが原因です。なので、魔力制御を覚えればかなりマシになると思いますよ」
「なッ!?」
俺がそう言うと、コーデリアさんは驚いて目を見開いた。
彼女は俺に向かって、思いっきり身を乗り出してくる。
その目は血走っていて、目力が半端ではなかった。
「それは本当か!?」
「は、はい。さっき手を触れた時に、そんな感じがしましたから」
「その魔力制御とやらを覚えれば、この症状はマシになるのだな!?」
「恐らくは。俺が指導すれば、普通に鎧を着られるようになると思いますよ」
「なんと……!!」
呆然自失とした顔をするコーデリアさん。
数十秒後、意識を回復させた彼女は俺からそっと距離を取った。
そして姿勢を正すと、いきなり深々と頭を下げる。
「何卒よろしくお願いします!」
「ああ、はい……。馬車での移動中とか、ぼちぼち教えます」
「ありがとうございます! ……ちなみにですが、謝礼はいかほど? お恥ずかしいのですが、私はあまり蓄えがなく――」
「そう言うのは大丈夫です! あと、そこまでかしこまらなくていいですから! 仲間になるんですし、もっと砕けて!」
「しかし……」
「落ち着かないので、お願いします」
「わかった。だが、対価はきっちりと払わせてもらおう。仲間だからと言って、なあなあにするのは良くない」
それはその通りであった。
仲間だからと言って、何でもタダでやっていては甘えが生じる。
少しは対価を支払ってもらった方がいいだろう。
するとここで、ファリスさんがポンッと手を叩く。
「そうだ! これからご馳走を食べて、その代金をコーデリアさんに持ってもらうってのはどうです? せっかくパーティを組んだんですし、お祝いに美味しいもの食べましょうよ!」
「いいですね! ちょうど、お腹も空いてきましたし」
近くのテーブルを見やれば、既に酒盛りをしている冒険者たちもいた。
仕事が早く終わったのだろう、みんなご機嫌である。
エールをたらふく飲み、肉をかじる彼らを見ていると、こちらまで腹が減ってくる。
「そう言うことなら、この近くにいい店を知っている。そこへ行こう!」
「やった! 久しぶりにご馳走が食べられるのです!」
「……言っておくが、私が奢るのはエイトの分だけだぞ。ファリスは自腹だ」
「ええーー!!」
「当たり前だ! 何をちゃっかりただ飯を食べようとしているのだ!」
「ぶーー! ちょっとぐらい良いじゃないですかーー!!」
目論見が外れて、思いっきりすねるファリスさん。
そんな彼女をなだめながら、俺たち三人はコーデリアさんおすすめの店へと向かうのだった――。
これでパーティメンバーが無事に三名揃いました!
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