十一話 パーティを募集しよう!
「森の外周部でゴブリンの出現、ですか」
「はい! それも、かなり大きな群れだったのですよ!」
ギルドに戻った俺とファリスさんは、さっそく、ゴブリンの出現を報告していた。
話を聞いた受付の女性は、見る見るうちに顔つきを険しくしていく。
やはり、あの森の外周部でゴブリンが出るのは普通ではないらしい。
「ジークさんがベセルスネークに噛まれたこともありますし……。もしかしたら、森で何か起きているのかもしれませんね。マスターとも相談してみましょう」
「ありがとうございます!」
「ただそうなると……」
言葉を区切ると、受付の女性は俺たち二人の顔を順繰りに見た。
そして、少し申し訳なさそうに言う。
「調査が完了するまで、森への立ち入りは原則として禁止となりますね」
「ええッ!? せっかく、薬草さんに薬草の捜し方を教えてもらってたのに!」
「まあまあ、仕方ないですよ。安全にはかえられませんし」
「でも、生活費はどうするんですか? 森に入れないと、採取系や討伐系の依頼はほとんど受けられないですよ?」
不安そうに言うファリスさん。
調査にどれくらいかかるかは知らないが、それは少し困ったな。
何もできなければ、あと数日でお金が無くなってしまう。
「そういうことでしたら、パーティを組んで護衛依頼を受けてはどうでしょう? 最近、盗賊の被害が増えていて手が足りないんです」
「おお、いいですね! 薬草さん、やりましょうよ!」
「もちろん!」
渡りに船の提案に、俺たちはすぐさまうなずいた。
すると受付の女性は、カウンターの中から手早く書類を引っ張り出す。
それには『パーティメンバー募集』と大きく書かれていた。
「パーティの結成には、原則として三名以上が必要です。こちらの募集書に要項を書いて、あと一人集めてください」
「はーい!」
嬉々とした表情で、用紙を受け取るファリスさん。
彼女は羽ペンを取り出すと、サラサラッと名前を記入した。
続いて俺も、その下に名前を書く。
「募集職種はどうするのです?」
「ひとまず、前衛職なら問題ないと思いますよ」
俺は魔法使い、ファリスさんは錬金術師。
いずれも後方からの攻撃を得意とする職種である。
いざとなれば俺が剣を持って戦うこともできるが、専門職がいるならそれに越したことはない。
「了解なのです! では、募集条件には前衛職とだけ書いておくのですよ」
こうして記入を終えたファリスさんは、募集書を壁の掲示板へと貼り付けた。
そして、満足げにうんうんとうなずく。
「これで、しばらくすれば参加希望者が現れるはずなのです! それまで待つのですよ!」
「わかりました。じゃ、あっちで待ちましょうかね」
幸いなことに、ギルドの中にはたくさんの冒険者たちがたむろしていた。
重武装をしたいかにもな前衛職もいる。
しばらくすれば、あの中の誰かが募集書を見て反応してくれるのではないだろうか?
そう思って、テーブルに移動して待ったのだが――
「……反応、ないですね」
あれから、何時間が経ったのだろうか?
日が傾いて来ても、俺たちの元へは誰もやってこなかった。
うーん、そんなに無理な募集はしてないはずなんだけどな。
見た感じ、人口比では前衛職は少し余ってるくらいだったぞ。
「なんででしょうね? 昨日は、あんなにいっぱい声かけられたのに」
「そうだったんですか?」
「ええ。少し勧誘がうるさいぐらいでしたよ」
俺がそう言うと、ファリスさんは腕組みをして何やら考え込み始めた。
その顔つきは、ちょっぴり深刻そうだ。
「もしかしたら、私のせいかもしれないのです。私、みんなからちょっと避けられているような気が……しないでもないので」
「え?」
「私、今までは毒の入った試験管を投げつけて戦っていたのです。けど、それがどうにも不評だったのですよ。ぶつかりそうで危ないとか、瘴気を吸いそうになったとか……」
ぶつぶつとつぶやくファリスさん。
…………なるほど、これが原因か!
おおよそ事態を察した俺は、そっと彼女から距離を取った。
ファリスさんには、一宿一飯の恩義がある。
けれど、このまま一緒にいたら他の誰ともパーティーを組めないぞ……!
「あ、ちょっと!? 薬草さんまで距離を取るのですか!?」
「いや、その……」
「大丈夫です! 今の私は、投石の錬金術師ですから! もう危ないことなんてありませんよ!」
「自分でそんなこと言ってる時点で、いろいろ手遅れです!」
「そんなこと言わないでほしいのですーー! タダでうちにいてもらっていいですからぁ!! お願いしますよーー!!」
見捨てられまいと必死のファリスさん。
俺も俺で、どうにかこうにか逃れようと必死だ。
二人の間で、たちまち醜い攻防戦が勃発する。
するとここで――
「すまない、パーティを募集しているのは君たちか?」
凛とした声が、その場に響いた。
俺たち二人は争いをやめると、慌てて声がした方へと振り返る。
するとそこには――
「……踊り子の方?」
「違う! 私は誇り高き騎士だ!!」
水着のような格好をした女性が、威風堂々と腰に手を当てて立っていた――。