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十話 ゴブリンにはこれが効きます!

「そもそものきっかけは、千年前に魔王が倒されたことにあるのです」


 語りだすファリスさん。

 俺はふむふむとうなずきながら、耳を傾ける。

 いったいどうして、魔法がここまで衰退してしまったのか。

 賢者として、その理由には大いに興味があった。


「魔王が倒されたことで、世界は平和を取り戻しました。でも、外からの圧力がなくなったことで今度は人間同士の戦争が始まってしまったのです。その戦争の中で、最も成果を上げたのは魔法使いでした」


 広範囲を殲滅するのは、魔法の十八番である。

 千年前では、魔王軍に対抗するために強力な魔法が次々と開発されていたが……。

 結果として、それが仇となってしまったらしい。


「やがて戦乱の時代が終わって、大陸は帝国によって統一されました。その時、皇帝が戦争中に活躍した魔法使いたちの力を恐れ、禁魔法令を施行したのです」

「そういうことか……。でも、魔法がないと魔物退治とかはどうするんです?」

「代わりに、魔水晶クリスタルを用いた機械武器が発達したそうですよ。その帝国も、三百年ほど前に突然滅びてしまったのですけども」

「何で滅びたんですか?」

「さあ? そこまでは、私も詳しくは知らないのですよ。原因不明の大災害とも、魔王が復活したとも言われています」

 

 魔王の復活か……それはないと思うんだけどな。

 勇者の次元剣により、魔王は俺よりもさらに彼方の次元へと封印されたはずだ。

 いくら奴の力が絶大だとは言え、そこから脱出できるとは思えない。

 もしできたとしても、俺よりずーっと後になるはずだろう。


「まあ、それはひとまず置いておいて! 魔力を感じる練習、もっとするのです! もう一度、お手本を見せてもらっていいですか?」

「もちろん。こうやるんですよ」


 再び、地面に手を置いて魔力を感じ取る。

 すると、小さな魔力が大量にこちらへと接近してくるのがわかった。

 この感じからすると……ゴブリンだろうか?

 狼の群れにしては動きが遅いし、オークにしては魔力が小さい。


「ファリスさん、何かが来ます! 注意してください!」

「了解なのです!」


 グッと親指を立てると、彼女はローブの中から細いガラス管を取り出した。

 コルクで栓をされたその中には、何やら毒々しい色の液体が詰まっている。

 熱しているわけでもないのに泡立っているそれは、明らかに体に悪そうだ。

 というか、飲んだら死にそうな気がする……。


「……なんです、それは?」

「研究の副産物です。ゴブリンくらいなら、当てればイチコロなのですよ! ……皆さん、なぜかこれを出すとすっごく嫌がるんですけども」


 不思議そうに首をかしげるファリスさん。

 そりゃ、そんな物騒なもん怖いだろ!

 俺はキュアを使えるからまだマシだが、それがなかったらと思うとな……。

 こうしてファリスさんの天然ぶりに呆れていると、目の前の草むらが揺れる。


「キギャーー!!」

「出ましたね! とりゃあッ!!」


 一も二もなく、ファリスさんはガラス管をゴブリンへとぶん投げた。

 すると力み過ぎたのか、斜め上に飛んでいったガラス管は近くの木に当たった。

 たちまち、白い煙が上がって幹がどす黒く変色していく。

 太い幹をした立派な大木が、あっという間に枯れ果ててしまった。


「むむむ! もういっちょ!」

「待った! そんなの投げまくってたら、森が滅茶苦茶になる!」

「じゃあどうすれば!? 私、自慢じゃないですが剣とか魔法はほとんど使えませんよ! 毒だけが友達なんです!」


 おいおい、よくそれで冒険者になれたな!

 俺はびっくりしながらも、近くに落ちていた石を拾った。

 そしてそれに、自らの魔力を流し込む。


「見ててくださいよ。それッ!」

「グギャアッ!?」


 魔力で強化された石は、ゴブリンのどてっぱらに穴を空けた。

 ゴブリンごときを倒すのに、剣技や魔法など必要ない。

 石に魔力を込めて、それをぶん投げれば十分なのである。


「す、すごいのです!?」

「魔力を感じられるなら、ファリスさんにもできますよ! 石に魔力を込めて、投げるだけですから」

「わかりました! やってみるのです!」


 そう言うと、ファリスさんは近くに落ちていた石を拾い上げた。

 彼女はそれを固く握ると、うんうん唸りながら魔力を込めていく。

 やはり、魔法の基礎的な素養はあるらしい。

 少し時間はかかったものの、石は見事に魔力を帯びた。


「行くのです! おりゃあッ!」

「ゲハアッ!!」


 投げられた石は、見事にゴブリンの腕と肩をぶっ飛ばした。

 その威力に、ファリスさんは少しびっくりしてしまう。


「うわッ!? なんかすごいのです!?」

「やるじゃないですか! ちゃんと、魔力がこもっていましたよ!」

「へへへ、ありがとうございます! 私だって、やればできるのですよ!」


 ほめられることにあまり慣れていないのか、ちょっぴり不器用に笑うファリスさん。

 俺と彼女はその後も投石を続け、無事にゴブリンの群れを殲滅した。

 多少数は多かったが、たかがゴブリンである。

 一応は賢者と呼ばれた俺が、苦戦することはそもそもありえない。

 

「ふう! 薬草さんのおかげで、何とかなったのですよ! 本当に助かりました!」

「いやいや、別に大したことは」


 そう言うと、俺は適当に手を振って誤魔化した。

 千年前では、魔力を込めた攻撃ぐらい基礎中の基礎だったからな。

 こんなことで教えたとか言っていたら、俺が師匠に怒られてしまう。


「しかし、こんなところでゴブリンが出るなんて珍しいのですよ。普通、もっと森の奥に行かないと出ないのに……」

「そういうことなら、ギルドに戻って報告したほうがいいかもしれないですね」

「はいなのですよ。こういう情報は、みんなで共有するに限るのです!」


 こうして、俺とファリスさんはひとまずギルドへと戻るのであった――。


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