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数冊の本を抱えて自室に戻ると、セイジは部屋の扉を閉めるや否や、頭を抱えてしゃがみこんだ。
我ながら、思い出しただけでも虫唾が走る。
不快すぎて、どうにかなりそうだった。
ここに来るまでの彼の様子は異様なものだった。
表廊下では顔を伏せることを徹底教育された城の女中が、彼が放つ苛立ちに満ちた空気にぎょっとして足を止めてしまうほどに。
低く唸りながら顔を上げ、ゆっくりと立ち上がると、床の上に本を積み上げたまま、セイジはベッドに身を投げた。
——最低なことをしてしまった。
後悔と自己嫌悪で、消えて無くなりたい気分だった。あのような言葉、ひとこと礼を言って軽く流してしまえば良かったのだ。
いつもの自分なら、そうできたはずだった。
彼女もその程度の、軽い戯れの気持ちで口にしたはずだ。
だが、あのタイミングであの告白は、セイジにとっては不意打ちすぎた。
なにせ、彼女は直前までセイラムの名を口にして、自分でも役に立てると健気に喜んでいたのだ。
あんな事を言われるなどと、誰が予想できただろう。
彼女があの眩しい笑顔で兄の名を口にするたびに、傷口が抉られるような気分でいた。
そこにあの告白だ。冷静になど対処できるはずもない。
最低な対応ではあったものの、そうでもしなければ「私も貴女と同じ気持ちだ」と、うっかり口を滑らせるところだった。
勝手に舞い上がった挙句、その気持ちを隠すために、憤って傷付けて、彼女を泣かせてしまったのだ。
彼女はただ、好意的に接してくれただけだったのに。
夕闇に染まる窓の外を望み、セイジは途方に暮れた。
いくら無邪気な彼女といえど、今後は今までのように接してはくれないだろう。セイジにとっての彼女が時を超える運命の相手だとしても、彼女にはその記憶がないのだから。
何故、冷静に対処することができなかったのか。直情的な性格が嫌になる。
たとえ想い想われることが叶わなくとも、彼女の笑顔を守れるならば、生まれ変わった甲斐がある。
そう思っていたはずなのに。