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6.研究は魔術陣とともに

その後も、俺とアナイの古代文字研究は続いていた。


俺はと言えば、1年近くの歳月を掛け、この世界についての知識は身に着けたつもりだ。


ただ、魔素の制御については、訓練を続けているが今時点でも身につけることは出来ていない。やはりこの世界で生まれ育った訳ではないからだろうか。




アナイは常にこの家に居る訳ではなく、たまに街へ買い出しに行ったり、別の国に行って研究結果の発表や特別講師なども行ったりしているようだ。


先日もエツラに行くと言って、今は家を空けている。


そんな中で、俺はいつもの様に家で一人、自身の研究に没頭していた。


俺の研究のメインテーマは、自分の知る地球の知識を、この世界の魔術に活用することだ。


あれから思い出す努力をした結果、少しずつ過去に自分が調べて知りえたことを思い出した俺は、それを研究ノートに書き出し活用する道を模索していたのだ。


とは言え、紙は高価なため羊皮紙を紐で纏めたものを研究ノートとして使っている。


思い出す切欠が欲しかった俺は、とりあえず仏教という面から宗教つながりで考えていくことにした。


地球でのそういった知識は、宗教絡みであることが多いからだ。


その結果、魔術との関連性があるのは、地球の知識で言うところの『テトラグラマトン』に近いものではないかと当たりをつけた。


テトラグラマトンとは神聖四文字とも言い、ヘブライ語で神の名を示す『Y』『H』『W』『H』の文字を指しており、それぞれが『火』『水』『風』『土』と関連していたはずだ。


ただ、5文字目の『空』については、俺の知識では不明なままだ。何か隠された文字があるのかも知れない。


その他にも生命の樹やカバラ、テンプル騎士団なども関連するのかもしれないが、俺の知識量では限界だ。


生命の樹には、隠されたセフィラが存在するとされているが、テトラグラマトンとどのように結びつけたら良いのか分からない。



兎に角、思い出した知識をノートに書き記したものを見て、他に思い出せることがないかを考えたり、この世界の魔術に活用できるものがないかを検討するのが、俺の研究スタイルだ。



アナイに教示を受けた事としては、各文字の基礎魔術陣が自分的には役に立っていた。


水は下向きの三角形、風は上向きの三角形の中にに横線を引いたもの、土は下向きの三角形に横線を引いたもの、空は円の中に中心から8方向に放射状の線を引いたものが基礎魔術陣となるらしい。


この時、俺はアナイに聞いて見たのだ。


「この基礎魔術陣をすべて重ねたらどうなるんだ?」


「・・・え?すべて重ねるのかい??」


どうやらこれまでの研究者は、魔術陣を重ねると言う発想を持っていなかったようだ。


あくまで基礎は基礎として使い、その陣を拡張したりして活用していたらしい。


結果としては、よく分からないことになった。


まず、火水風土の基礎魔術陣だけを重ねると、魔素の流れが全て阻害されてしまい、固定されたらしい。


『らしい』と言うのも、俺には魔素の流れが分からないため、アナイに教えてもらったら、そうだったみたいだ。


だが、基本的に魔素は何処にでも存在し、常に流動しているのが普通だ。


そしてそこに空の基礎魔術陣を重ねると、更に予想外のことが起こった。


空の基礎魔術陣の基本的な効果は、魔素を集めることにあるはずなのに、全ての陣を重ねると、固定された魔素が消失したのだ。


「ま・・さか。こんなことがありえるのかな?」


「いや、俺に聞かれてもな・・・。そんなにおかしい事なのか?」


「おかしいなんてもんじゃないよ!魔素は何処にでも存在するはずなのに・・・この陣の中には魔素が存在していない!今までの常識では考えられないんだよ!!」


俺としてはこの世界の常識が無いため、ふーん、程度だがアナイには相当な衝撃だったらしい。


彼女はそれから一週間は徹夜していたんじゃないだろうか?


最後はアナイがぶっ倒れてしまった為、独自に研究する事を諦め、各国の同業者と協力して研究することにしたようだ。


とは言え、発見者としてアナイが中心となって研究を進めている為、最新の情報は常にアナイの所へ集まるようになっているらしい。



なんにせよ、俺はこれにより陣についての仮説を、自分なりに立てることが出来た。


まず、基礎魔術陣はそれ単体で魔素に対し、各々の特性を持たせる役割があるのではないか、と言うことだ。


アナイからはどの文字であれ基礎魔術陣は、各文字で最も効率よく魔素を集めるためのものだと教わっていた。


だが、古代文字を使わなくても、魔素に対しての影響があったことから、陣自体に何らかの作用があると睨んだのだ。


そして魔素が固定されたと言う事象から、火と水と風と土でも五行説のように、それぞれが影響を及ぼし合うのではないかと予測した。


動きを止めたと言うことは、それぞれの力のベクトルが相反すると考えたからだ。


そして空の魔術陣を加えたことによる魔素の消失から、そこに元の世界に戻る糸口があるのではないかと考えたのだ。


確かに空は無を意味するとも言えるが、いくらなんでも不条理すぎる。


たとえ俺から見た魔術が奇跡の所業であっても、そこには純然とした法則があり、この世界の理の上で成り立っている。


そんな中で、有から無への無法則な変換はありえないと考えるのだ。


であれば、消失したように見える魔素は、無と入れ替わったと考える方が自然だ。


頭がこんがらがりそうだが、無しか存在しない空間があった仮定として、そこの一部と陣の中の魔素が入れ替わったのではないか、と言うことだ。


勿論、自分で言ってても良く分かってはいない。無しか存在しない空間が存在するなんてのは矛盾しているようにも聞こえる。


だが、入れ替わったとして仮説を立てない限り、今時点では説明もつかない。


「しかし、何も糸口は分かんないんだよなー。」


ノートに走り書きをしては、横線で消す作業を繰り返していた俺は、そう愚痴をこぼすしかないのだった。


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