8話
「さて、次はどうすべきかな……」
ミツキは少し考えると、すぐに結論を出して行動を開始した。
というのも、モンスターたちは倒したが勇者一行の一部は呪いの武器で傷ついているのだ。とりあえずそれを取り外す必要がある。
普通なら呪いの解除には聖なる魔法などが必要かもしれないが、ミツキにはもう1つの方法があった。
ミツキはとりあえずと言った感じで〝神聖魔法〟が使えるソウタの両足にある呪いの槍をまず鑑定能力で調べる。
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『名も無き呪いの槍』
強力な呪いのかかった槍。強欲の魔王が作り出した。
突き刺した相手に常に神経を抉るような痛みを与え、相手をその場で動けなくする効果があるが、使用者は触れている個所から相手にダメージを与えた分のダメージを自らも受けるようになっている。
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他のものについてもこれと似たようなものが多数であり、どれもがそれなりに強力で、尚且つ呪いの武器とだけあってかなりリスキーな部分があった。
あの怠惰の魔王がサイコキネシス的なもので動かしていたのは正しい戦法だと言えるだろう。そうすれば、操作は間接的なものとなってダメージは来なくなるのだから。
「大丈夫だろうか?」
呪いの武器とあってちょっと不安があるが、ミツキとしてもこのままソウタたちを放置するつもりはない。
殺さなければ生きていけないという心の中にある強迫観念と、相手が倒せば絶対讃えられるだろう典型的な魔王だったので目立つために殺したが、目立つためにはちゃんとミツキがやったことを評価する人間が必要なのだから。
というわけで、ちょっとした忌避感のようなものを持ちながらも、呪いの武器と〝調和〟することが出来るように意識を集中させていく。
そして、ミツキが呪いの武器に触れると痛みなどは感じなかったが、呪いそのものが体の中に入ってくるような感覚を覚えた。
「──っ!?」
その不可思議で不快な感覚に一瞬顔をしかめるも、それさえも〝調和〟してしまったのかだんだんとなじんできて、最終的にはこうなった。
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『痛硬呪の朧槍』
呪いの槍とミツキ・オボロヨが調和したことによってできた槍。
相手にダメージを与えると、それと等倍のダメージを相手にも与え、尚且つ相手を硬直させる効果がある。
また、任意で不可視になる。
普段はミツキ・オボロヨの体内に収納されており、念じることで呼び出すことが出来る。
ミツキ・オボロヨ以外が使用した場合大きな呪いを受けることになる。
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武神が作り出した武器ではないからか、そこまで強化されているわけではないものの、それでも十分強い槍が出来上がった。禍々しさもどことなく落ち着いて、どこか静謐さを感じさせるようになっている。
何よりありがたいのはミツキには呪いが聞かない事だろうか。
かなり強そうだが、普段はマイナスイメージの強い呪いの武器は使えないかもしれないなとミツキは思った。
そんなことを思いながらミツキはどんどんと他の呪いの武器を〝調和〟の力で取り去っていき、何とかすべてを回収することに成功した。
「ふう……あれ?」
重症のソウタを含めて全員がなぜか固まってしまっている事実にミツキは今更ながらに気がついた。
「あの! 治療しないとまずいと思いますよ!」
特にソウタやその他魔王に突貫したメンバーは呪いの武器のせいで消耗してしまっているのだ。早めの治療が必要なはずである。
しかし、いつものように無視されてしまった。
そんなことをやっている場合じゃないのにと思って焦ったミツキだったが、自分が〝調和〟を発動しているのを忘れていたのでそれを解除する。
どっと精神的な疲れが襲ってきたが、今はそんなことをしている場合ではない。
仕方なくミツキはソウタの近くまで行って、ちゃんと認識してもらえるように肩に手をのっけて話しかけた。
「あの……」
「────っ!!!? 君は一体……」
「そんなことより早く傷を治したほうがいいと思いますよ」
「あ、ああそうだね」
ミツキの提案にソウタが周りに指示を飛ばして、回復魔法などを持っている人たちが動き始めた。
回復担当も十分にチート性能だったこともあって、生徒たちすべてが何とか助かったことにミツキは言い知れぬ安堵を感じていると──
「あれ? さっきの人はどこにいるんだろうか?」
一人真っ先に回復を終えたソウタがミツキを探していた。
距離的には5メートルほどしか離れていないので見つけられないはずがないのだが、残念なことにミツキは神にさえその存在を忘れられる生徒だ。
仕方なしにミツキはソウタの近くまで行く。
「どうも」
「ああ、どこにいたのかと思ったよ。俺は早川颯太だ。君は?」
「あ、どうも、朧夜満月と言います」
丁寧な言葉使いにミツキも思わず頭を下げる。
「そうかミツキくんか。ところで君は一体どうしてここに? 神様と出会った空間にはいなかったように思うのだが」
「え? ああ、自分は神様に忘れられていたようでしてそこには行けなかったみたいです」
「そ、そうか、神様もそんなミスをするんだな」
ミツキの発言に少し不憫そうな顔をソウタがするが、すぐにその顔に緊張が走った。
「それでいきなりすまないが、今この場所は危ないんだ」
「へ? どういうことです?」
もうモンスターたちがいないのだから危険はないのにどういうことかとオボロは疑問を抱くが、その答えは驚きのものだった。
「実はここに幽霊がいるんだ」
「なっ!?」
その言葉にミツキは固まってしまうのだった。




