6話
ソウタたちがモンスターたちとの戦闘を開始したころ、完全に巻き込まれてしまったミツキはひたすらにオロオロして動けないでいた。
まあそれも仕方のないことだろう。何せミツキは完全に巻き込まれた人間なのだ。
どこぞの特殊な魔法使いなんかのように巻き込まれたら実は最強だったなどという展開はありえないし。ミツキの唯一の取り柄と言ったら影が薄いことくらだ。本人は望んでいないが……
今もミツキのことは完全スルーではあるが突然現れたモンスターたちが周りにいるという状況に変わりはなく、ただ通り過ぎていくだけでもやばいくらいに危ないのだ。
むしろこの状況でオロオロしているミツキは精神力が強いと言えるかもしれなかった。
そんなミツキがオロオロしている間に状況は動いていて、だんだんとチート性能な生徒たちが数の暴力に押され始めていた。
だが、そのあたりからミツキは落ち着きを取り戻す。
というのも、序盤は偶然だろうか? と思っていたが、ミツキのことをモンスターたちが本当に完全にスルーしていることが分かったのだ。
最初は強そうなやつから倒そうとでも思っているのかと判断したのかなと思っていたミツキは、完全に存在を忘れられていると判断したときに軽く涙目になってしまったが……
閑話休題。
ここまでくるとさすがにミツキもおかしいと感じ始めた。
影が薄いというのはまあスキルで表されるほどのレベルであり、尚且つ自分の周りには勇者とか聖騎士とか錬金術師とかそう言った目立つ存在がいることは把握しているので、それによって〝存在希薄〟の力がものすごいレベルで発揮されているのだろうことも理解してはいるが、それでも自分のこの能力はラノベなどでは隠蔽とか隠密とかそう言う類の力であろうと予想できるのだ。解除できないタイプだが……
ともあれそんなものがそれほど大きな効果をもたらすとは思えない。
そこまで行きついたミツキはまだ確認していなかったスキルがあったことを思い出す。
「……〝調和〟」
影が薄いとか存在感がないという言葉に過剰反応しすぎて忘れていたスキルを調べてみると、自分が今どういう状況にあるのかわかった。
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〝調和〟(オリジナルスキル)
その空間、事象、生物、無生物すべてと調和をとることができる。これをその空間に使うときは、誰にも認識されなくなり、また、生物や無生物などの情報を他者に気づかれることなく得ることが可能となる。さらに本来扱えないものなどもこのスキルを使うことで扱えるようになる。
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これを読んだときにミツキは思わず、
「どんなチートだよ……」
と言ってしまった。
とはいえ、この能力を獲得できた理由がミツキにはなんとなく理解できてしまう。
というのも、最近は目立ちたい目立ちたいと言っているミツキだが、この性格になったのは中学二年生以降だ。むしろそれ以前は人間不信のコミュ障で、出来るだけ目立ちたくないと思って生活していたくらいだ。
その影響か、他者を観察してこの人物ならこのように立ち回れば誰の視線も集めないとかを考え始め、気がつけば廊下を歩いているときに誰からも認識されない位置取りを出来るようになったりしたものだ。
それがまるで正反対になった理由はまあちょっとした心の変化であり、それ自体は大きなドラマはない。もしそんなものがあったならミツキが目立つために声を大にして宣伝するだろう。
ともあれ、中学生ならではのコロッと自分の価値観を変えてしまうという現象があったので、ミツキは今目立ちたいと考えているのだ。
そう言った経緯があるために、〝調和〟のスキルは自分が小さい頃から培い身に着けてきた〝今いる空間に溶け込んでまるでそこにいないように振る舞う〟という力が異世界にわたることによって強化された形と言えるだろうと、ミツキはそんな風に考えたのだ。
ここまで認識できればミツキの考えはまとまった。
現段階でソウタたち勇者パーティーは完全に不利。この状況で魔王を倒すのはかなり厳しいだろう。
かといって、ミツキが魔王を殺せるかと言えばそうでもない。
何せ今のミツキはただの影がものすごく薄い異世界人なのだ。そんなモブもいいところな自分が何の武器もない状態で不意打ちしたって意味はない。
それならば現段階の自分であったとしても、もしかすれば相手を殺せるかもしれない何かを何とかして手に入れて、それで完全不意打ち状態で攻撃すればいい。しかもできるだけ一撃で殺せそうな場所を選んでできればなおいい。
そういう考えに行きついたミツキは周囲を確認して一番それに適したものを見つけ出した。
それはリョウタロウが持っている銃。
これならばたとえ使用者がただの一般人であったとしても、不意打ちであれば十分に殺せる状況になるだろうと判断したのだ。
ここまでで方針は固まったので、ミツキはリョウタロウの手から銃が離れるその機会をじっと待った。
この時、オボロの胸中に何か生物を殺すことへの忌避というものは特になかった。これは一時期極度の人間不信になった理由に関係しているが、それ以降オボロは死について特に何かを思うことはない。
生きるためには何かを殺さなければならない。これはあの世界であっても常識で、それがこの世界では顕著なだけだ。
ある意味自分は壊れているのかなとも思ったが、それが自分だと受け入れた。
だから、ミツキはひたすらに、冷静に自分が動けるタイミングを待った。
そしてやってきた。
ミツキが自分の目的のために、行動を起こすタイミングが、やってきた。
そうして影薄少年の無双が始まった。




