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5話

「な、ぐ、ガアアアあああぁぁァァアアア!」


 かつてない痛みを感じて苦しむソウタ。

 それは槍で足を貫かれただけではなく、その槍から放たれる禍々しい何かがソウタの身体を内側から痛めつけてくるような痛みだった。

 武神の加護によって痛みにも耐性が出来ているはずのソウタが痛みを感じるほどの力に、他の生徒たちは思わず静止してしまった。


 そして、戦闘中に別のことに気を取られて無事でいられるような道理はどこにも存在していない。


 怠惰の魔王ファウルハイトは実にいやらしい笑みを作って言った。


「クククククッ! 強行突破は確かにいい手ではあったでしょうね。たいていの召喚術師というのはその本人自体はそこまで強くないのですから。しかし──」


 いつの間にか瞳が輝いていたファウルハイトはパチンと指を鳴らして、空中からいくつもの禍々しいれこそこそ呪われているのであろうとこの世界の呪いについてまるで理解していない生徒達でもわかるような武器たちが出現した。

 そしてそんな呪いの武器たちが召喚されたのを確認すると、怪しく輝く目を驚きで呼吸さえ忘れてしまっている生徒たちに言った。


「私は魔王です。残念ながら、ただの召喚術師などではないのですよ」


 そして指を鳴らすために上げていた右手を無造作に振り下ろすと、呪いの武器は生徒たちを襲った。


 そこからは魔王の蹂躙劇とでも呼べばいいのだろうか、多種多様な動きを見せる魔王の呪いの武器たちにどんどんと対応することができなくなった生徒たちが傷ついていく。同時にモンスターたちも一部が襲いかかってきたこともかなりの痛手だった。


「別に殺しはしませんよ。そこの勇者が言った通り、私の戦力として扱ってあげますから。クククククククッ」


 にやにやと意地の悪い笑みを見せるファウルハイトにソウタたちは痛みにうめいて返答することはできないが、それでもこの状況がマズイということだけは把握していた。

 だが、今までに感じたことのない痛みや、他にも身体をむしばんでいく呪いの数々によって身体は思うように動くことはなく、やられてしまったのは勇者を含めて召喚された中での最高戦力たちだ。


 現状では何一つできることはない。


 正しく〝絶体絶命〟という言葉が使える状況だろう。


 そんな時だ。


 ドパァァン!


「クク、く?」


 不気味な笑みを続けていたファウルハイトの動きが止まり、怪しく輝いていた目の光が無くなると同時に宙に浮いていた呪いの武器たちが落ちて行く。


 ソウタたちは何が起こったと思ってファウルハイトを見つめると、額に穴が空いていた。そして──


 ドパン! ドパァン!


 さらに銃声らしき音が響いてファウルハイトの右胸左胸を貫いた。


 そしてそれによって──


「な、何が……」


 ──怠惰の魔王は倒れてしまった。


「な、何が……」


 誰かが思わず怠惰の魔王と同じ発言をしたが、だれもそれに気づくことなくあまりの急展開に固まっていると、さらに奇妙な状況がソウタたちを襲った。


 というのも──


「ギャアア!」

「グォォア!」

「ギシャァ!」


 どんどんとモンスターたちの首が飛んで行くのだ。


「な、なんだ!?」

「も、モンスターが死んでく!?」

「ま、まさか!? 幽霊!?」

「お、お化け!? いや、た、助けて!?」


 これには武神の加護によって強化された精神力の持ち主でもなかなかに耐えられないものだったのか、生徒たちが悲鳴をあげ始める。

 まあそれも無理のないことだろう、突然どこかから銃声が聞こえたと思ったら魔王が死に、さらにその後に今度は自分たちをじわじわと追いつめていたモンスターたちがどんどんと何が起きたのかもわからず死んでいくのだ。はっきり言ってどんな怪奇現象だろうというやつである。


 しかし、そんなことはお構いなくどんどんとモンスターたちは倒れて行く。


 途中までは銃声が聞こえていたが、リョウタロウは動けていないし、そもそも両手にあった銃は手放してしまっている。

 しかも途中から銃声はなくなっており、最早何が起こっているのかさっぱりわからない状況だった。


 ただ現状で理解できることは、見えない何かがモンスターたちをどんどんどんどん殺していっているという聞くだに恐ろしい、それこそ夢に出てきそうな恐怖体験が起きているということのみ。


「ほ、ほんとになんなんだ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?」


 この、ピンチの後にやってきた阿鼻叫喚の地獄絵図に、普段は幽霊などの類を全く信じでいないソウタも思わず悲鳴を上げるような事態になったのだった。

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