50話
「そう言えば、最近聞いたんだけど、この町にはとっても美味しいデザートが売られている場所があるんだって。二人は知ってる? イチジツノチョウってお店なんだけど」
「ええ、確かこの近くにある通りのあたりにあった場所ね。あそこはおいしいと噂で聞いていたけれど、この町に来たのは最近で、その後すぐにミツキにつきっきりになったからいったことがなかったわ」
「そうなんだ、じゃあ今ちょっと寄ってみようか。幸い、今日はオフにする予定だったしね。リーフィアもそれでいいかな?」
「はい! 私はご主人様について行くだけですから!」
三人はそんな風に休日を楽しむ若者のような会話をしていた。
……どうやら先ほど見た光景はなかったことにしたらしい。
「よかった、じゃあ早速──」
「待て待て待て待てーーーー────!!!?」
「…………」
どうやら逃げることはできないらしい。
そう悟ったミツキたちは、今しがた上半身裸のまま、汗だく状態で飛び出してきた頭が神々しい男、アルテナ冒険者ギルドギルドマスターたるモットー・ケオクレを見やる。もちろん、その目は非常に冷たい。
その冷たい目×3にモットーは一瞬たじろぐが、すぐに気を取り直して弁明を始めようとした。
「あ、あれはだな──」
「どうもこんにちはケオクレさん。これはこれは奇遇ですね。でも何のトレーニングをしていたのか知りませんけれど、上半身裸のまま外に出るというのは近所迷惑ではないですか?」
「いや、確かにそうだがな、そうではなくて──」
「私たちはちょうど、降ってわいた休日を過ごすために計画を立てているところですから、今日は失礼します。またギルドでお会いしたときにはよろしくお願いします」
「あ、ああ、こちらも期待している──じゃなくて、話を聞け!」
「チッ」
「舌打ち!?」
あまりに仕打ちに驚愕の表情を浮かべるモットー。
だが、ミツキの冷めた目は変わらない。
「いや、あんな明らかに普通ではない状況を見せられたらこんな反応になるだろう」
ミツキの言葉にモットーはぐうの音も出なかった。
あの状況はどれだけ好意的に見ても、ミツキの言った通り普通の光景ではないからだ。むしろミツキの反応は当然のことだと言える。
「いや、だからあれは誤解だと言っているだろう!!」
もちろんモットーとしてもそのあたりのことは分かるが、自分のことを変態扱いされるというのはいろいろとマズイものがあるので反論する。
「あれはだな? 何というか、とにかく誤解なんだ! 俺に断じてそんな趣味はない!」
「……はぁ、まあそう言うことにしておきましょう」
ミツキはモットーに対する絶対零度もかくやという視線を止める。
「それで? ここは武術道場ですよね?」
「あ、ああ、そうだな。基本的には格闘術や合気なんかをメインに道場を開いている」
「ふむ、筋肉を愛でる変態的なものではないと……」
「当たり前だ!」
モットーは全力でそう言うが、ミツキや、その後ろに控えるアイリスとリーフィアの視線はやはり未だに冷たさを内に秘めている。
「ほ、本当だぞ?」
「何も言っていませんけど……まあ、ここが普通の道場なら俺と、それからリーフィアの二人がこの道場で武術を習いたいと思っているのですが」
「そ、そうか! なるほどな! うん、ミツキの方は確かに驚異的な隠密性があるが、いざ自分を守るためにはどうしても自衛の手段が必要だからな。その判断は正しいだろう! うん! じゃあ、入ってくれ!」
モットーの案内でミツキたちは中へと入っていく。
道場の中は畳が床が木の板となっていて、奥にはふすまが存在していた。
今はすでに先ほどモットーとアヤシイ行為をしていた人物もおらず、道場はシンと静まり返っていた。
その静謐な雰囲気は、どこかこの道場に神聖さを持たせているようにミツキは感じた。
……それだけに先ほどの強烈な光景がどうしようもなく残念ではあるのだが。
「門下生はいらっしゃらないんですか?」
「いや、奥にいるぞ」
「奥?」
「ああ、実はこの道場の入り口とも呼べる場所に入るにはいくつかクリアしなければならないことがあってな。それをクリアするために奥で必死になっている段階だな」
「は、はぁ……」
ミツキは言っている意味が分からずに首を傾げる。
そのミツキの反応に対してモットーはニヤリと笑って、
「まあ、見てみるのが一番いいだろう」
そんなことを言いながらモットーは道場の奥にあったふすまを開けた。
ミツキは何なのだろうか? と思いながらふすまから見える光景を覗き込むと……
「なっ!?」
そこから見えたものに対してミツキは大きく驚いた。
何せ、ミツキが見たのはふすまの奥にあった部屋などではなく──
「……なんで森の中に繋がってるんだ?」
そう、ミツキが見たのは緑が生い茂る自然の中、正しく森と呼べる場所だったのだ。




