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4話

 魔王城での戦闘が開始されてからかなりの時間が経過していた。


 しかし、未だに魔王に到達する人間は生徒たちの中に現れてはいない。


「くそっ」


 勇者という役割を担うことになった早川(ハヤカワ)颯太(ソウタ)は「話が違う」と内心毒づいていた。

 なぜなら、ソウタたちが出会った神は魔王はそこまで強くないと言っていたのに、押し込まれているからだ。


 襲い掛かってくるのはかなり強力なモンスターの軍勢だが、それでも三つものクラスを持っている自分たちにはそこまで敵ではない。

 というのも、クラスというのは複数あると、それだけで常人よりも強くなるのだ。

 簡単に言えば、それぞれのクラスごとに身体能力などの数値が存在していて、複数のクラスを持つ人間はそのクラスごとの数値を足し合わせた形なのだ。


 もちろんクラス一つでレベル60になるのと、クラス二つでどちらもれべる30の合計というのは前者の方が強い形になっているで、一概には言えないところがあるのだが、それでも強いことに変わりはない。


 だから、いきなりミノタウロスやアラクネと言ったRPGでも中盤あたりのボスとして君臨する相手がいたとしても、十分な力で対抗できるのだ。

 唯一心配だった戦闘時の生徒たちのメンタルについても、武神の加護の影響でほとんど恐怖を感じることなく戦えているのだから、まるで問題はない。


 だが誤算があったとするならば──


「……まさか、あれだけの召喚をしても一切息切れしないなんてな」


 ソウタは後方でのんびりと自分たちが戦う姿を眺めている魔王を見やる。

 魔王はここまで絶えることなく召喚を繰り返しており、それによって倒しても倒しても先に進めないという状況を展開されているのだ。

 おかげでクラスのレベルは上がってはいるのだが、相手にしているのが中層の相手ばかりというのもあって、途中からはそこまで大きくレベルアップをすることがなくなってしまったのだから困ったものだ。


 つまりは現状ソウタたちは魔王に釘付け状態にされているということ。

 そしてそれはこのままではマズイことを同時に示していた。

 何故マズイのかと言えば、いくら自分たちが強かったとしても体力や、この世界では魔法を発動するために必要な魔力の消費だけは押さえることはできないからだ。


 ソウタたち生徒の中には魔術師などもいるのだが、それらの生徒たちが徐々に魔力の消費を訴えてきており、このままでは途中で魔力が尽きて魔法隊が機能しなくなる。

 そうすれば現段階で釘付け状態なのに、そこからさらに押し込まれてしまうということだ。

 徐々にソウタに焦りが生まれてくる。


「こうなったら、強行突破してあなたが魔王を倒すしかないわ」


 焦燥感が出てきたソウタに話しかけてきたのはソウタのいた学校の生徒会長にして、現在は《錬金術師》と《KUNOICHI》というよくわからない組み合わせでありながら圧倒的な力を見せつける、漆黒の髪のポニーテールが良く似合う三年生、天霧(アマギリ)詩乃(シノ)だ。


「どういうことです?」

「このままではジリ貧だから、少数精鋭で中央突破を図って魔王を先に殺す」

「……なるほど、確かにそれしか無いかもですね」


 ソウタは現在の状況を冷静に把握して、すぐに納得を示した。

 本人としては相手を真正面から倒す形が良かったが、そうはできない状況であるのでそれを受け入れた形だ。このあたりの冷静な判断ができることがソウタの強みであり、他の生徒からの信頼を得ることに繋がっている。


「なら俺も手伝うぜ」

「安城君か。うん、助かるよ」


 ソウタとシノの話を聞いていたらしい二年生の安城(アンジョウ)遼太郎(リョウタロウ)がその話に乗っかる。

 リョウタロウのクラスは《魔銃闘士》という銃を使う特殊なものと《付加術師》というバフデバフ特化のクラスの組み合わせで、両手に持つ拳銃に様々なバフなどを施すことで威力を上げいてる。

 さらにここまでは温存していたが《付加術師》はもちろん人間にもバフデバフをかけることができるので、強行突破時に一時的に能力を上げることができるという点はかなり有効な手だ。


 他にも幾人かを選抜して、それらの人材で強行突破をはかることにしたソウタたちは、他の生徒たちの安全面なども考慮しながら攻勢を仕掛けるタイミングをはかる。


 そして──


「今!」


 先頭にいるモンスターたちを一通り倒した瞬間に魔法隊が大規模な結界魔法を発動。

 その結界が完全に閉じる前にソウタやシノなど幾人かが一気に中央を抜けていく。


「オラオラどけどけ!」


 そう言いながら真っ先にモンスターたちに向かって行くのは二丁拳銃を構えたリョウタロウ。

 リョウタロウはガン=カタと呼ばれる洋画で登場する武術を基本とした攻撃を展開しており、銃の威力と合わせて殲滅力が高い。


「シッ!」


 それをヘルプする形で援護しているのが、錬金術を使って鎖の長さを変えながら自在に鎖の先端についた鎌で敵を斬りつける異色のKUNOICHIであるシノ。


 この二人が前方のモンスターたちを牽制しながら、他の生徒たちは横をカバーする形でどんどん先に進んでいく。

 今回の作戦はシンプルだ。

 少数精鋭で一直線に魔王のもとへ向かい、攻撃してまず司令塔を叩く。

 魔王を攻撃する役割は勇者の役割を担っているソウタだ。勇者は魔王に特攻作用があるために、今回は他の生徒たちで一気に魔物たちの間を突き進むことにして、ソウタの体力や魔力を温存する。他の生徒たちは一時的に結界の中に立てこもってもらうようにした。


 リョウタロウのバフの効果で能力アップした生徒たちが一気に高みの見物をしていた魔王のもとへと向かうソウタたち。


「あと少しで抜ける!」

「頼むぞソウタ!」

「分かってる!」


 そのままの流れでモンスターたちの軍勢を通り抜け、その瞬間に二本の聖剣を携えたソウタが一気に前に出た。


 ドスドスッ


 そんな鈍い音が聞こえたのはその瞬間だった。


「………………え?」


 ソウタの顔が驚愕に染まる。

 そして自分の身体を見てみると、幾本もの禍々しい力を感じさせる長槍が両足を貫いていた。

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