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44話

「あっ」

「えっ」


 ミツキは目の前の光景に驚いて思考が固まってしまい、魔力によって身体強化された速度を維持したままリーフィアにぶつかってしまった。


 そしてそのまま二人は一つになって、ゴロゴロと転がって開いたままになっていた部屋へと突っ込んでいき──


「うぐっ」


 見事にミツキだけが部屋の壁に当たる形で止まった。というより、ミツキがいつの間にか腕の中にいたリーフィアを庇うようにし行動したのだ。実に紳士的な行動である。


 そう、確かに紳士的な行動だ。だったのだが……


「あっ」

「?」


 手に感じるは途轍もなく、途方もなく柔らかなもの。

 その感触に気づいた瞬間、男の(さが)というべきか、手が勝手に動いてしまい──


「んっ」

「────っ!?」


 ミツキはすぐさまそこから離れる。本能的にこれ以上はマズイと感じたのだ。これも〝超感覚〟のおかげかもしれない。


 〝超感覚〟が作用したにしては行動がやや遅い気がしたが……


 ともあれリーフィアから離れたミツキはとりあえず土下座できるような心構えをしながら相手の動きを見る。


 何せ、ミツキはその慎ましくも、確かな柔らかさを感じるアレを無許可に、不可抗力ではあれイタズラ(・・・・)してしまったのだ。これは弁明のしようもない。


 どこぞのトラブル体質な主人公のことと、目の前の相手の強さを考えれば、十分に両手を挙げながら必死に逃げる光景が思い浮かんでしまうミツキ。


 そのように、目の前にいる未だ顔の見えない少女を見ながら、この後の展開について思案するミツキだったが……


「あ、えっと、助けてくださりありがとうございました」

「へ、あ、うん」


 やってきたのは丁寧なお礼だった。


 その小鳥のなく涼やかな声にあっけにとられながらもミツキが返すと、その声を発した少女はスッと今まで隠していたフードを取り去る。


 そこから見えた光景に、ミツキは思わず固まってしまった。


 フードの中から現れたのは薄っすらと桜色が入ったような、真っ白な肌の、非常に均整の取れた顔立ちの、有り体に言えば美少女だ。


 そのやや緑の入った薄い青色、より正しく表記するなら〝薄蒼色〟と呼ぶべきような瞳と、まるで色を失ってしまったかのような、ある種の透明感すら感じさせるプラチナブロンドの、腰までかかる長い髪。


 やや幼さを感じさせるが、しかし抜き身の刃のような、ハッとするかのような冷たさを宿すそのたたずまいには、その容姿と相まって、アイリスの妖しさと愛らしさを感じさせるものとはまた違う、儚さと危うさを持つ〝妖精〟を感じるような少女だった。


「…………」

「……あの?」

「…………」

「あの~、聞こえてますか~」

「ハッ!? あ、うん、ごめん──」


 ミツキは目の前に、本当の意味で現れたリーフィアを見てフリーズしていた思考回路をやっと再起動して、心配そうに見ていたリーフィアに対して弁明する。


 が、ミツキの弁明方法が少し適切じゃなかった。


「キミがあんまりにも綺麗で思わず見惚れちゃったんだ」

「ふぇ? ……ふぇぇぇぇぇええええ!?」


 ミツキはアイリスの時もそうであるが、思った感想をそれなりに素直に話してしまう傾向がある。アイリスに対しても「綺麗な花には……」と言っていたことからもわかるだろう。


 そして、そういう発言は、たとえお世辞であったとしても、ほぼすべての人間にとってみれば嬉しいものであり、それがリーフィアを混乱に導くというのも、そう言うことに免疫のない人間にとってみれば当然の帰結なわけで。


 それゆえに、


 ──ヒュン!


 ミツキの首のあたりを鎌鼬のような、剣戟が通り過ぎるのもまた、仕方のないことだった。


「危なっ!?」


 ミツキは一瞬にして自分が殺されるかもしれない状況に陥ったことに対して〝超感覚〟が反応してギリギリで回避。


「ちょ、なんでこんな危ないことを!?」


 今しがたこの攻撃を行った人物──もちろんリーフィアに抗議した。


「そ、そんなの! ご主人様が私のことを可愛いなどというからです! 斬られて当然かと!」

「いや、それはおかしい!!」


 女性に可愛いと言ったら斬られそうになった。


 これが当たり前となってしまったら世の中はヤンデレが蔓延るよりも恐ろしいことになってしまうだろうとミツキは思った。


 ヤンデレが世に蔓延るのも十分に危険ではあるが……


 包丁を持って男たちを追いかける女性が多数……地獄絵図しか想像できない。


 なんとなくその光景を想像して顔を青ざめたミツキ。余計なことを考えすぎて、もう1つの問題を忘れてしまっていた。


 が、


「いや! というかご主人様って何!?」


 やはりそのインパクトが強かったのかミツキは覚えていたようだ。

 リーフィアはしかし、キョトンとした顔でこう答える。


「あれ? 私の所有権はご主人様に現在移譲されていると思われますが……」

「は?」

「ですから、私は現在ご主人様の奴隷ということです」

「…………」


 ミツキはこの世界に来て初めて、この言葉を明確に意識した。すなわち、


 ──どうしてこうなった!

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