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43話

 ミツキを襲ってきたのは、


 ──エルフにして、奴隷にして、《剣聖》


 という、とんでもない性能だった。


 今はフード付きローブを目深にかぶっているため顔は見えないが、ミツキの期待は否が応でも高まってしまう。


(早くあの子とちゃんとした会話をしたい)


 肉体言語による会話ではなく、きちんと、目の前にいるテンプレ属性プラスαの存在との言葉による会話をするために、今すでに油断している相手をぶっ潰す事についての作戦を考え始めた。ジョーの名前はすでに忘れてしまっている。


(となるとやっぱり問題はあの子か……)


 リーフィアは《奴隷》のクラスが存在していることから、盗賊団リーダーたるジョーを守れと命令されているとミツキは小説などの情報から予想した。


 それも、命令されているのは感知系の極地たる〝超感覚〟持ちの《剣聖》だ。ミツキを扉越しに感知する能力も、ミツキを追い込んだ剣技も、全てが厄介な相手である。


(それに、あいつを殺した場合、あの子がどうなるのかわからないよな……)


 漫画やラノベなどで出てくる奴隷と言えば、首輪が付けられているのが定番だが、時として主人が死ぬと奴隷も殺されるという展開が存在していた。


 もしもそれが適用されている場合、ジョーを先に殺すとマズイことになるかもしれないという懸念があった。


(となると、まずはあの子とあいつの奴隷契約みたいなものを取り去る必要があるわけだけど……)


 そんなことは普通は不可能だろう。


 さらに言えば、盗賊が奴隷を持っている時というのは誰かに売り払って金を得るためなので、ジョーを殺してもセシリアは死なないのではという考えも出来るから、速攻で『朧月』の認識不可の弾丸を打ち込めばいいという発想もあるにはある。


 だが、ミツキには先に奴隷契約(仮定)を断ち切ることが出来る可能性を持っている。


(──なら、そっちを試してからでも遅くないはずだ)


 だからミツキは後悔しないように行動することにした。


 ミツキは真っ先に〝調和〟を発動する。


「──!?」

「なっ!? どこに行った!?」


 世界と一体になったミツキを見つけることはもちろん誰にも出来ない。


 それゆえに、圧倒的感知能力の持ち主たるリーフィアや、もはや存在さえもミツキの忘れてしまったジョーなども一瞬にして目の前にいたはず、否、今も目の前にいる(・・・・・・・・)ミツキを見失う。


 そして、そのまま『朧月』の弾丸のように認識不可となったミツキは、エルフにして奴隷にして《剣聖》たるセシリアの剣の間合いに無造作に踏み込んで、その首につけられていた無骨なソレを手にとって、


「〝看破〟」


=====================================

『奴隷の首輪』

 この首輪を付けると、血の契約を結んだ相手の命令を自分の意思に関係なく聞かされる奴隷状態になってしまう。

 また、装着したものは《奴隷》のクラスが付き、その縛りの強さによってレベルが上昇する。

=====================================


 すぐに情報を得るや否や、〝超感覚〟従うままに〝調和〟を〝魔力操作〟で『奴隷の首輪』に送りながら発動。


「──っ!?」


 自分の首輪に異常が起きていることが分かったのだろう、未だ声を出すことはないリーフィアと、ミツキは次第に『奴隷の首輪』を介して繋がりを持つような感覚を覚えた。


 そしてそこから何か強い感情が流れてくる。


 ──助けてください! 私をここから解放してください!


 だが同時に、まるで逃げ出すことを赦さないとばかりに強い縛りも流れ込んでくる。


 ミツキはそれを感じた瞬間に、ならばそれをその縛りを俺が打ち破ってやると、自らの魔力を込めていく。


 そしてミツキの魔力は、そのまま『奴隷の首輪』に掛けられた強烈な縛りを打ち破り始めた。


(よし、これならイケる!)


 ミツキは縛りが解け始めたのを感じて力をさらに込める。


 ……────…………


(──これ、は……)


 ミツキの中に何か映像が流れ込んできた。


 そこにあったのは業火と、その奥にある黒い影……


(──っ! 今はそれよりも首輪の効果を解除することだ!)


 その光景に言い知れぬ怒りと恐怖と、やりきれなさを感じると同時に、もう少しで首輪を離せるようになるという確信を持ったミツキ。


 そのためミツキはそのまま解除するために力をこめるのだが──


「なっ!? お前!? 何をやっている!?」


 ミツキが奴隷の首輪に対してより強く〝調和〟を行なったためだろう。いつの間にか空間との〝調和〟が解けてジョーに見えるようになっていた。


「俺の奴隷に離れろぉーーー────!!」

「!?」


 そしてそのせいでジョーの〝邪悪化〟された〝金剛〟が襲い、あと少しのところで『奴隷の首輪』の効果を打ち消すことが出来ず回避をする羽目になってしまった。


「チッ」


 思わず、普段はしないような舌打ちをしてしまうミツキ。


(今、あの子の感情が見えた気がして、あと少しで邪悪なものを追いやり、奪うところまで来てたのに!)


 ミツキの能力はあくまで〝調和〟であり、何かを上書きする力はない。


 そのためミツキはソウタたち勇者軍団を助けた時のように、奴隷なるというある種の呪いのようなものセシリアから自身の身体に移動して、〝状態異常無効〟の効果でもって、奴隷状態の呪いを分散させようとした。


 その過程で記憶が一部、リーフィアとリンクしたためか、とてつもない怒りと悲しみと悔しさをミツキは何故か感じて、思わず舌打ちしてしまったのだ。


「おい! テメェは《剣聖》だろうが! なに俺に手間を掛けさせやがる!」


 だが、腹立たしいのは相手も同じなのだろう、ジョーはリーフィアの元に向かうと思い切り振りかぶって殴りつけようとする。


「危ない!」


 ミツキは瞬間的に脚力を魔力で強化して疾駆するが、まさか敵を前にしながら自分の奴隷に対して攻撃するなど予想することが出来ずに、ワンテンポ遅れてしまった。


(間に合わない!)


 人外の域へと達したスピードでも至近距離からのパンチにはどうしても間に合うはずもなく、手を伸ばしながらも悔しそうな表情になるミツキ。


 だが、ミツキは先ほどの〝調和〟の失敗のせいで気づいていなかった。


 今にも殴られようとしている少女の被ったフードの奥。


 そこから映る、今にも殴りかからんとする主人に対し向けられた瞳が、


 ──酷く冷たいものへと変化していたことに!


 そして、


「ぐ………………ぁ?」


 気がつけば殴ろうとしていた傲慢な主人の胴体が分かたれていて、


 どさっ!


 その大きな巨漢はそのまま倒れてしまうのだった。

戦闘に調和は使わないと言ったな……あれは嘘だ!

はい、すみません。言ってみたかっただけです。

それと弁明をまたしますが、今回の調和は戦闘中ではありますが、同時にリーフィアを解放するために行ったものなので、戦闘のために行ったわけではないのです。

なので許してください。これ以降、戦闘時はあまり使わないというのは確実ですので……

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