39話
時刻は夜。
「ここか……」
『そうなのです!』
ミツキは連絡を受けたあと、一日の準備期間を設けてから、イザヨイの案内で、北の森の中、目的の〝堕落の音頭〟盗賊団のアジトへとやって来ていた。
場所としてはちょうど森の奥の洞窟という、物語で言えばなんともテンプレを守っているかのような場所であり、こちらもテンプレよろしく見張りの盗賊が、だるそうに雑談をしながら周囲を警戒しているのか? と思うレベルで警戒している状態だった。
ミツキの格好は魔改造された学校の制服と隠密効果が上がる、ミッドナイトブルーと表現すべき濃紺のローブだ。もちろんローブもアイリスの魔改造が施されていて、普通のエンチャント品よりも効果が高い。
エンチャント品とは普通の道具に魔法を付与されたもので、チート軍団で言えば《付与術師》のクラスを持つリョウタロウが行うことができる〝付与〟と呼ばれるスキルで行うことができるものだ。銃弾に様々な属性を付与するのもこの一種である。
アイリスのスキル〝魔改造〟は〝付与〟のスキルの超強化版と言える。強化版ではなく〝超〟強化版だ。
それ故にミツキがもらい受けたローブはとてつもない隠密性を発揮し、
『お兄ちゃん、また影が薄くなったです?』
「うぐっ」
見事にイザヨイからの口撃が直撃した。
『これは装備の影響だよ。アイリスの装備はすごいんだ。うん、装備のおかげなんだよ、うん』
『それだけじゃないと思うのです……』
『…………装備のせいなのです』
ミツキは装備のせいだと言い張り続けた。ついでに語尾が少し乱れた。
ちなみに、イザヨイたちは使い魔の証としてすでに首輪を装着されていて、黒の中に赤色がアクセントとなっていて、こちらはミツキと違って影がより薄くなるなどと言うこともなく、いい味を出していたりする。
『それよりも、周囲の状況はどんな感じ?』
『露骨に話題をそらしたのです…………周りについては今のところ問題ないのです』
『そっか、じゃあ行ってくる』
イザヨイがあきれた声を脳内でもらしながらも、他の場所で監視の役割を担っているニヤたちに連絡を取って現状が大丈夫であるということが分かったミツキは、すぐに行動を開始することにした。
ミツキは森の中であるにもかかわらず足音を立てることなく歩を進める。
『あれ? もう見失ってしまったのです。お兄ちゃんさすがなのです』
『…………』
ミツキは沈黙を貫いた。
もちろん理由は今は依頼を遂行中であり、無駄話に興じている暇がないからだ。断じて自分の影の薄さについて心の中で四つん這いになったからではないのだ!
(──さて、ふざけるのも大概にして……まずはあの二人の見張りをどうするかだが……)
現状、自分の隠密性を考えるなら相手をいっさい抵抗させずに気絶させることも出来るだろうとミツキは考えたが、ふと、ここでイザヨイたちに会う前の考えた「人間を殺すことができるかどうか」という言葉が浮かぶ。
(……本番はこの洞窟の奥なら、今ここで試しておいた方がいいだろうな)
何かを殺すという行為は自分の中では割り切っていても、出来るかどうかというのは分からない部分だったミツキは、それを今ここで実行することにした。
(まあ一応人型の魔王を倒したわけだが……)
あの魔王についてはある意味バケモノと判断してもおかしくない見た目であったことから、今回が人殺しについては初めての行為と言えるだろうとミツキは思う。特に前回は銃での殺人ゆえに、自分の手で殺したのだという感覚がどこか他人ごとに感じているかもしれないというのもあった。
(さて、どうなるか……)
ミツキは内心やや身構えながら、右手の小太刀──『朧霞』を、左手に拳銃──『朧月』をもって闇の中を走り始めた。
ミツキはあと一歩で小太刀の範囲に入るところまで来たところで二人いる盗賊のうち一人に対して発砲。
誰も認識できないと鑑定結果で書かれる通り、音もなく飛来した弾丸が相手の頭を撃ち抜いて盗賊の一人が倒れる。
「なっ──」
そして、もう一人の盗賊は、一瞬で殺された盗賊が倒れるのを見て驚きの声を上げようとしたところで首がポーンと飛んでいった。ミツキの小太刀で首を狩られたのだ。盗賊の首は驚きの表情のままであり、自分がなぜ死んだのか、あるいは自分が死んでしまったことすら気がつかなかったのかもしれない。
「…………」
ミツキは一瞬にして出来上がったこの惨状に対してただ無言で己の心のうちに聞いていた。
──さて、人を殺したわけだが、俺は怖がっているかな?
その内心の問いに対してミツキは即座に〝否〟と断じた。
腕の震えなどもなく、自分の右手に伝わる肉を斬った感覚も非常に生々しいものであったが、これに圧倒的な忌避感も感じなければ、思考停止にも陥っていない。
(ははっ、どうやら俺は人を殺してもそこまで気にしないらしいね)
ミツキは自信が経験した過去の経験の影響の大きさを改めて実感し、またよくこれまで日本で平和に暮らしてこれたものだと苦笑した。いさかいが起きれば容赦の無い性格だとわかったのだから、そう考えてしまったのだ。
まあ、そもそもミツキの場合、いさかいが起きるほど他人とつながりを持つことが影の薄さのせいで無かったのだが……
「……行こう」
なんとなく自分がぼっちだった頃を思い出して気まずくなってしまったミツキは首を振って洞窟の中へと入っていくのだった。
もちろん、未だ侵入者がいることに気がつくものは誰もいない。
「盗賊の誰でもいいから俺に気づいてくれないかな?」
なんとなくフラグが立った気がしたミツキだった。




