37話
「!? ご、ごめんなさい、取り乱したわ」
「あ、いや、なんとなくわかるよ」
ミツキとしては魔法の適性が全属性などというのは非常に稀有な事だろうと理解しているので(ラノベ知識だが)、アイリスの反応は妥当だろうと理解している。
そしてそれは、魔法の才も魔法と物作り特化の妖精族の中でトップクラスのあアイリスでさえ〝六元属性適正〟という、火・水・土・風・光・闇の属性までしか適正がないということからも非常に妥当な考えだった。
「…………」
「どうかしたの?」
「……いえ、何でもないわ」
アイリスはミツキのことをじっと、何かを探るように見ていたが、すぐにやめる。
「じゃあ、とりあえず魔法の基本原理から話しましょうか」
アイリスの言葉にミツキはコクリと頷いて聞く態勢に入る。
「まず魔法の目的だけれど、これは簡潔に言うと〝魔力を魔法の詠唱によって体外へ何らかの形として放出する〟というものよ。だから、魔力を練りながら正しく詠唱すれば、その属性に適正さへあれば魔法を発動できるの」
「ふむふむ」
「──というのはまあ、一般的な、低次元の魔法使いたちの考え方ね」
「ふむ?」
アイリスのテンプレ的な説明にうなずいていたミツキだったが、その説明を低次元と割り切ったことに聞いていたミツキはうなずくのをやめて「なにそれ?」という顔になる。
そんなミツキに対して、アイリスは自慢げに言う。
「魔法っていうのは、確かに詠唱が必要だけれど、別に正しく詠唱する必要なんてないのよ」
「……それはどういう」
「う~ん……これを説明するには……」
人差し指を顎に当てて考えるようなそぶりを見せていたアイリスはふと、思いついたかのように顎に当てていた人差し指をミツキに向けて、
「──〝水よ〟」
言った瞬間にアイリスの人差し指から水の球体が現れた。
「とまあこんな感じで水の球体が発動できたわけだけど、普通ならこれはそれなりの長さの詠唱を行わないと発動できないのよ? これを可能にしているのが──」
「イメージ?」
「あら? 知ってたの?」
「いや、なんとなくというか──」
「ああ、私たちの世界のようなことが書かれた書物があったんだっけ?」
「……そうです」
ミツキは知識の源をあっさり言い当てられて沈黙した。
その様子にアイリスはクスっと笑うと、右手人差し指にあった水球に意識をじっと見る。
すると、ただそれだけで球状だった水が長方形へと変化した。
「まあこんな感じで、イメージさえできればどんな形でもできるし、イメージが高まればさっき私がやったようにものすごく詠唱を短縮しても魔法を発動できるようになるのよ。このレベルになれば自分なりの詠唱で自分だけの魔法を発動することも出来るわね」
「ふ~ん」
ミツキはアイリスの説明を聞いて少しがっくりした。
というのも、魔法をイメージで無詠唱&オリジナル魔法開発というのは異世界召喚や異世界転生ではテンプレ中のテンプレだったはずなのだ。しかしこの世界はそれはすでに達成されているというのだから、ままならない。
それでも魔法は使ってみたいので、試しにミツキはアイリスと同じようにやってみることにした。
(まずは魔力を練り上げて……それでこの魔力を指先にもっていって…………)
魔力の練り上げはモットーとの戦闘における身体能力強化でコツを掴んでいたので容易く行うミツキ。それを魔法発動に意識を向け始める。
ミツキが集中していると、アイリスは指先にある水を様々な形に変化させながら言う。
「まあ、こんな風に自由自在に操ることができるようになるまでは結構大変だけ──」
「おっ、出来た」
「えぇえ!?」
アイリス、二度目の驚愕。
思わずテーブルに思い切り両手を打ちつけながら身を乗り出すようにしたアイリスの視線の先には、グニャグニャと自在に動く水があった。無論、ミツキが行なったものである。
「え? 何か問題あった?」
キョトンとするミツキ。
「そ、それ、一体どうやってやったの?」
対するアイリスはさすがに驚きが大きいのか混乱したまま尋ねる。
実はアイリスが行なっていた魔法というのは、脳内でキッチリとした〝水が球体になる〟というイメージを固めて、それを〝水よ〟というワードでもって発動するように脳内で設定したのだ。
つまり魔法とは、
発動する魔法の減少をイメージ
↓
イメージされた魔法を発動するためのワードを設定
↓
そのワードを言葉にする
という流れで発動することが出来るのである。先ほどの形を変えたり出来たのは対応するワードに対して別のイメージを上書きしたからにすぎず、その説明をしていないミツキに出来るはずがない。
そもそもこの技術自体も超高難度なはずなので、例え説明したとしてもできるようなものではないのだ。
そのはずなのにミツキが容易く成功させてしまったのだから、驚くのは無理もないことだろう。
もちろんそんなことは知らないミツキ。
「え? 言われた通り魔力を練って、それを指先に移動して──」
「そこがおかしい!」
「ええっ?」
アイリスが本当に珍しく取り乱していた。
「それはもう〝魔力操作〟の領域じゃない! そんなの容易くやられたらたまったもんじゃないわよ!」
「いや、そもそも俺、スキルに〝魔力操作〟を持ってるし……」
「!? そうだったわね……はぁ、無詠唱なんて、あなたはとんだバランスブレイカーだわ」
「な、なんかごめん」
アイリスでさえも、なんらかのワードを設定しなければ魔法を発動できないのだ。それを何も言わずいあっさりやられてしまっては立つ瀬がない。
「本当よ。あなたの異常とも取れる隠密性に加えて無詠唱なんて……本当にどうかしてるんだから」
「…………」
アイリスの言葉にミツキは内心傷ついた。
アイリスは賞賛の意を込めているのだろうが、ミツキの隠密性は特殊な力などではなく本人の影の薄さが根本にあるのだ。全然嬉しくない。
「……まあ、とはいえあなたが強いことについては悪くなるようなことは無いでしょうからいいとするわ」
「あ、うん」
「はぁ……あなたなら多分だけど、自分のイメージさへキチンと固めることが出来れば、魔力のある限りなんでも出来ると思うわよ。全属性に適性があるわけだしね……はぁ」
アイリスがその後、不貞腐れながら料理を食べたのはいうまでもない。




