1話
ミツキが光が収まって周りを見てみると、そこは大理石でできているのかというくらいきらびやかで、足元にはよく見ると赤い絨毯があり、さらに上にはびっくりするくらいの大きさのシャンデリアがある部屋にいた。
(異世界召喚ってやつなんだろうな……)
ミツキは現在の状況からそう判断する。
隠すことでも無いが、ミツキはその存在感が薄いという体質状基本的にリアルソロプレイヤーであり、無料のネトゲとかネット小説などに触れる機会が多かった。
そういうこともあって非常に落ち着いているのだが、ミツキにはちょっとした違和感があった。
(周りの全員がなんでこんなに落ち着いてるんだ?)
普通であればこういう状況になった場合慌てるものだし、物語の中ではむしろそういう人がいる中で主人公だけが落ち着いているといったものが目立つ原因になったりするものだ。
しかしどういうことか、いかにもネット小説やラノベ、深夜アニメの類に触れていなそうな女子の面々も落ち着いているのだ。
「これがヤマトタケルノミコトが言ってた場所か」
「みたいだね」
「怖いけど……」
「私たちには神様の加護があるから大丈夫よ」
他の生徒たちが言っていた「ヤマトタケルノミコト」や「神様」というワードにミツキは首をかしげる。
今の会話が本当であるのなら、生徒たちは日本の武神の中でもトップクラスに有名な存在に出会って加護をもらったということだ。
(……どういうことだ? 俺は神様になんて合わなかったけど……)
「皆様、ようこそエッセレ王国へ」
嫌な予感をミツキが感じているところに、そんな声が前方から聞こえてきた。
声を出したのは豪奢なドレスに身を包んだワインレッドの髪と瞳をした少女。
そのいかにもお姫様というような出で立ちに男どもが見惚れ、女たちはそんな男どもを冷めた目で見るというなんともテンプレな構図が出来上がっていたが、お姫様はそのことに気がつくことなく話を進める。
「私の名前はアリア=エッセレと申します。
まず、みなさまをこの場所に強制的に連れてきてしまったことについて深く謝罪するとともに、あなた方を呼ばせていただいたこちらの事情を聞いて頂きたく思います」
お姫様は意外にも真っ先に謝ってきた。
もちろんその後に本当の要件を話すという条件をつけていたが、それでもすぐに謝ってきたというのは好印象では無いのだろうかとミツキは思った。
そしてそれは他の生徒も同様だったのだろうか、先ほど「魔法陣!」と叫んでいた部活勧誘ゾンビの1人が前に出て話す。
「わかりました。まずはそちらの事情をお聞かせください」
一見するとただのオタクにしか見えないが、何故か多くの生徒たちから信頼を勝ち得ているような印象をミツキは受けた。
(あの場所にいたのはクラスも部活も学年も全てがバラバラだったはずなのに妙だな)
周りの生徒たちの落ち着きようや、あの一見地味な生徒が仕切り役みたいになっているというテンプレからはかけ離れた展開にオボロは戸惑う。
が、そんな一個人の戸惑いなど御構い無しに話は進む。
「はい、まずこのエッセレ王国は今、魔族と呼ばれる魔王に使える悪しきもの達からの攻勢によって危機に陥れられているのです」
こちらはなんともテンプレな状況だなぁとミツキは思った。
「魔族はとても強く、普通の人間では到底太刀打ちできませんでした。
しかし、この国の言い伝えでは王家の人間の召喚術によって異界より舞い降りし特異なる人間達ならば魔族に対抗できるとあったのです」
「それが、俺たちであるということですね?」
仕切り役の男子生徒が確認した。
それにアリアは頷く。
「はい。ですからどうか、どうかこの国を救っていただけないでしょうか! こちらから勝手に事情を押し付けていることは重々承知しております。ですが、私は国民たちを助けたいのです。どうか、力をお貸しください!」
(……わぁ、なんか物語の中で聞いたことあるような感じだなぁ)
ミツキはなんだかデジャブでは? というくらいありきたりな展開に呆れていた。
そのぶん生徒たちの行動がテンプレからかけ離れているのが気になるが……
ミツキがその違和感について考えていると、仕切り役の男子生徒は困ったような笑みを浮かべながら答える。
「と言ってもただの一般人である俺たちに何をしろというのですか?」
「それは大丈夫です。『ステータス』と言っていただけますでしょうか? 念じるだけでもいいです」
「は、はあ……」
仕切り役の男子が戸惑いを浮かべる中、ミツキはすぐに『ステータス』と心の中で念じた。
すると、脳内にこんな情報が流れてくる。
=====================================
[ネーム]ミツキ・オボロヨ(男:16歳)
[クラス]《異世界人Lv.1》
[スキル]調和・存在希薄・言語理解
[タイトル]【神さえ気がつかない存在感の男】【影が薄い異世界人】
=====================================
────何でだよ!?




