18話
「俺はギルドマスターのモットー・ケオクレだ。今回の試験官に当たる」
「はい、よろしくお願いします」
「おう、よろしく頼むぞ!」
ミツキとモットーは決闘のために用意されたようなステージの上に立っていた。
「それで試験の内容だが、俺に攻撃を当てることが出来たら速攻で合格。それ以外にもお前が高ランク冒険者の実力に見合うと判断できれば合格となる! それと、この場所には致死性の攻撃を一度だけ無効化できる特殊な結界が張られているから、遠慮なしに攻撃してきていいぞ!」
「はい、わかりました」
モットーの言っていた、今モットーとミツキのいるステージを覆っている結界の話はアイリスから聞いているので、ミツキは特に疑っていない。というか、この結界はアイリスともう一人の人物の合作だと聞いていたので、ミツキが疑う要素など一切ない。
なんで自分はこんなにアイリスを信頼できるのかな? と思ったが、今のところそのことについて不都合を感じていないので、今は横で見ているアイリスにカッコいいところを見せたいなと思っていたりする。
「よし、じゃあ試験を開始する!」
モットーの言葉によってステージ上の空気が一変した。
現在は互いに無手で構えていて、モットーの方はミツキの出方をうかがっている形だ。
これはあくまで試験なので、モットーから攻撃するということはほとんどない。さらに言えばモットーはギルドマスターになれるだけの冒険者としての実績を獲得しており、ギルドマスターになるときに冒険者を引退したときのランクは当然〝ランク1〟、すなわち英雄クラスだ。そのために未だこの冒険者ギルドではモットーが試験管の時は大番狂わせなど一度も起きていなかった。
そんなことなど知りはしないミツキだったが、目の前の相手が全くスキがないことには戦闘経験が浅くともなんとなく気がついていた。
そもそもミツキの基本的な戦闘スタイルはクラスの影響もあって、相手の隙をついて一瞬で殺す〝暗殺者〟としての戦い方が根幹になっている。というかそのほかの〝万能召喚〟などの不確定性が強い力はまだどう使えばいいのか分からないので、現段階では暗殺しかやりようがないのだ。
(とりあえず、緩急的なものを意識しながら戦ってみるか……)
そもそもこれは試験であり、自分の実力を本当の意味で試すことができるチャンスだ。
そう判断したミツキはやれるだけのことをやってやろうと集中力を高めて、駆け出した。
最初はやや自分のスピードの半分くらい落として走り、その後何となくこの場所がベストと思ったところで急停止。
そこから一瞬でトップスピードに入って背後に周り、首に手刀を入れようとする。完全に殺しに行く形だ。
「ぬおっ!?」
この動きにモットーは非常に驚いたようで、何とかしゃがんで回避するものの、流れるようにミツキが放った蹴りを何とか手で受け止める形になった。
だが、モットーの態勢は不十分であるため、十分にダメージを与えることが出来ると判断したミツキは思いきり足を振り抜こうとする。
しかし──
「──っ!?」
なんとなく嫌な予感がしたミツキは蹴りを中断して、バックステップで距離を取った。
そしてジッと、首筋をなでる嫌な予感を感じさせた男を観察するように見やる。
「ほう、今の流れるような動きといい。危機の察知といい随分とまあ戦闘慣れしてるじゃないか。正直、俺が体術で後ろを取られるなんてほとんどなかったから驚いたよ」
「それはどうもありがとうございます」
モットーはミツキを賞賛する。その表情は真剣なもので、これが試験であるはずなのに殺し合いをしているような錯覚をミツキは覚えた。
だが、モットーがこのような反応をするのは仕方のないことだろう。なぜなら、相対しているだけなのにどこか消えてしまいそうなミツキが驚くほどの緩急を使ってきたので、最初の接近はミツキが一時停止したあたりにミツキの幻影の様な物さえ見えたのだ。と思ったら実は背後にいて、食らえば一撃死しそうな鋭い手刀がやってくるし、その後の蹴りも並の人間ならあっさりと吹き飛ばされるようなものだった。
モットーが特殊な能力を持っていたからこそ回避できたが、それでも一瞬で殺されかけたという事実は変わらない。これで警戒するなという方が無理だ。
対するミツキはミツキで、自分が予想以上に動けていることに内心驚いていた。
ラノベなどではスペックは最高なのに戦闘経験が全くなくて、それで序盤主人公が苦労するなんてことはザラにあるし、それが主人公でなくモブならあっさり死んでしまうこともあるような、戦闘において重要事項だ。
それを確認する意味でも、脳内に浮かんでいる〝暗殺術〟の体術系の技をやってみたのだが、それが見事にうまくいった……どころかビックリするほど馴染んでいる。
まるで自分はもともとこの世界の人間だったのではと錯覚するほど今の身体の動かし方を理解していることにミツキは少し戸惑ったが、しかしすぐにこの世界で目立つためなら相応の実力を得ることが出来ていることにはいいことだと割り切る。
そもそも今は自分の身体の動きが滑らかすぎることに驚いている場合ではないのだ。
(あの、蹴りを入れようとしたときに感じた嫌な予感……)
それがだんだんと高まっている中で相手に攻撃を入れなければいけないというのはなかなかに骨が折れる。
まだまだ戦闘は始まったばかりだと、ミツキは集中を再度高めるのだった。




